パラレル*ラヴ*ワールド
は唐突に意識が回復したために飛び起きた。
寝ていたのではない。それは判る。
いつものアレかー…、と思いつつ、周囲を索敵した。
自分の着ている服に見覚えがないな、と思いつつサーチ出来たのは。
「…は?」
よく知る気が四つあった。
ちょっと待とう、と喉まで出かかって、止めた。
状況が理解不能。
ここは、どこだ?
自分の知るどこの世界でもなさそうだが、知ってる人物たちが居るのは間違いない。
いつものパターンなら、は生まれた世界からどこか他の世界へ放り出されて、そこでキーパーソンとなる人物に出会うはずだ。
しかし、今回は既に出会ったことのある人物たちだった。
どこかの世界から一度離れて舞い戻ったこともあるため、一概にここが知らない世界ともいえないと気づく。
いや、それにしても、おかしい。
なぜ、を叫びたい。
せめて、以前の記憶を消してくれて、初めましてからならともかく。
倒れていた冷たい地面から手を離し、丁寧に砂を払ってから、顔を覆った。
「なんで紂王様と悟空と銀ちゃんとシゲルが居るの!?!?! あり得ない!!!!!」
どの人物も、の最愛の人である。
最愛の人が複数いる時点でおかしなことだが、はとある白髪の男から恨みをかっており、その男の能力で記憶を操作されたり、異次元へ放り出されては自分の世界へ戻るを繰り返していた。その幾たびもの異次元渡りの中で出会ったのが、殷という国の王様である紂王である。紂王はまた別の世界では、の入社した会社の社長でもあった。
次に、桃源郷と呼ばれる地をとにかく西へと旅をする旅仲間であり、弟のような存在の孫悟空。そして、が生まれた地球とよく似て非なる別の「地球」にて万事屋を営む坂田銀時。
最後に、縮めて「ポケモン」と呼ばれるモンスターたちと共存する世界で出会った、相棒のオーキド・シゲル。
この四人が、のすぐ近く、四方に居る。
ぐるりと見渡しても木々ばかりで、天を仰げば青い空。
酸素はある。息をしている。人が住まうことが出来る土地。
しかし、あの四人が一度に居る世界など、あり得るのか。
はどちらの方へ…つまり、誰の元へ駆け寄るべきか非常に困った。
誰を選んでも、残りに申し訳がたたない。
誰も選べない。
どうしたらこんな状況になるのかいくつかの知る物語に置き換えて想像してみたが、納得いかなかった。
自分を恨んでいるらしい白髪の男は、何を考えている?
困っているところをどこからか見て、喜んでいるとでも?
いや、喜んでいるのは自分だ。
は涙が零れそうなほど嬉しかった。それぞれの人物との恋の結末を思い出し、泣き叫びたい衝動に駆られる。
身分の差を超え愛し合った受の…紂王のところへ行こうか。
キョウダイから始まったけれど、太陽とまで思えた悟空のところへ行こうか。
どんな困難な状況でも、のためにと魂の剣を振るって守ってくれた銀時のところへ行こうか。
相棒として助け合いながらポケモンたちと生き、そして恋をしたシゲルのところへ行こうか。
さもなくば、誰にも会わずにここから逃げるか。
最後の逃げの選択肢は誰にも波風を立てない方法だが、もう二度と会えないかもしれないひとだちに会わずにおくなど、許せない自分もいる。
誰かには、会わなくちゃ。
誰かを傷つけることになっても?
が迷いから立ち上がれないでいると、がさっと同時に四方から音がした。
ぎょっと目をむく彼女に向かって、左前方から出てきた紂王が破顔する。受、ではない、大人だ。
「! 気付いたか!」
「ファッ!? !?」
彼女の本名である。紂王には別の名を名乗っていたのに、本名を呼ばれた。
「なに驚いてるんだ、? やっぱ頭打ったか?」
右前方から出てきたのは悟空だった。両腕に果物らしきものを抱えている。十八歳くらいだろうか。
「頭打った? 、俺が全身さすってやる」
左後方から出てきた銀時は、セクハラ発言をしながら近寄ってきた。若く見えるが、恐らく二十五歳前後。棒切れを何本も持っていた。
「全身は関係ありません。さん、大丈夫ですか?」
右後方より出てきたシゲルがツッコミつつ、心配げな顔での顔を覗き込む。シゲルは出会った時の十歳ほどの年齢だった。
は思考がフリーズした。
否、表面上は凝固したが、水面下では「あり得ない」を連呼していた。
全員、本名は知らないはずだ。それでも、彼らは彼女のことを「」と呼んだ。
各人の服装もあり得なかった。
それぞれ、鎧を着ている。紂王と悟空は中華風、銀時は和風、シゲルは西洋風。は―…。
彼女も、和風の胸当てをしていた。
「―……」
が言葉を紡げないでいると、悟空が彼女の目の前で片手を振った。
「、ほんっとーにだいじょぶか?」
「………だいじょぶくない」
大丈夫なわけねーだろうが、なにこのファンタジー!? と、喚きたかったが、辛うじて理性が暴言を押しとどめた。
「あのぉ、ここはどこでぇ、私は誰ですか? そして、あなたたちは、誰です??」
の言葉に、男たちは押し黙った。
「…あの?」
恐る恐るが小声で問いかけると、いきなり紂王が抱きついてきた。
「ぎゃああああああ!!」
叫ぶにお構いなしに、紂王は言う。
「可哀想に、さっきの戦いでやっぱり頭を打ったんだな!?」
「紂王さん! さんが嫌がってるじゃないですか! 女性に抱きつくのはよくありませんよ!」
紂王をたしなめるシゲルが大声を出した。
「ふっざけんなこのセクハラ野郎! から離れろオオオ!!」
先ほど自分もセクハラ発言をしたことなどそっちのけで紂王を非難する銀時は、から紂王を引き剥がそうと必死になった。間に割って入ったが、が遠のく。
「、こっちこい」
悟空がの手を引き、男たちの輪から離した。すかさず銀時がのもう片方の手を取る。
「悟空、てめぇ、を独り占めしてんじゃねーぞ!」
「銀時だって独り占めするつもりだっただろ!? あのままだったら、お前がに抱きついてたじゃん!」
「し、しねーよ! …そんなことする間があるなら押し倒すわ!!」
「なおさら悪い!」
いがみ合い出した二人を無視して、シゲルがの前に座る。
「さん、僕のこと、忘れてしまったのですか?」
「顔が近いぞシゲル!」
紂王がを後ろから抱きすくめて距離を空けた。シゲルはこめかみに怒りの筋を浮かべる。
「そうやってまた抱きつく!」
おのおのが名前を呼び合ったことで、の知る四人のようである、と推察された。だが、この四人がお互いを知り得るはずなどない。
「み、皆さんと私の名前は分かりました! で、ここはどこなのですか?」
ハテナ顔で悟空が教える。
「どこって、トーゲンインじゃん」
「と、とうげん…いん? …ん?」
どこか聞き覚えのある単語同士が合体している。
継いで銀時が言った。
「俺らチーム・ヨロヅヤでトーゲンインを西へ旅してるところだろ?」
「んん?」
は更に疑問の声を上げた。
「僕たちは、アマント・ギューマオウというモンスターをゲットするために旅をする仲間です」
笑顔で言うシゲルの声を頭で反芻し、は「ハァ!?」と何かが納得いかない思いで疑問を露わにした。
「そしてこの旅が終わったら、王である予とは晴れて結婚出来るというクエストだ」
「エェエエエエエェ!?!」
これまたいい笑顔で放った紂王の説明に、は素っ頓狂な声を出してしまった。
『それは断じて許さない!!』
と、紂王以外の三人が声を揃えて叫んだ。
自分の置かれた状況がいまいち飲み込めなかったが、は叫ぶことに決めた。
「なにこのファンタジー!?」
夢なら覚めろ、これは夢オチでいける展開だ! と、心の中で願ったが、夢ではないので覚めることはない。
混乱するに、しゃがんだ悟空が言う。
「さっき妖怪…アマントっていうんだけど、そいつらとバトルになってさ。その時、珍しくがやられちゃったんだ。ほら、この果物水分が多いから、食えよ。喉が潤って腹も満たされたら、落ち着いて思い出せるんじゃね?」
思い出せるも何もないのだが、は艶やかな色の果物を受け取った。
銀時は薪を組む。
「今日は冷えるから、ひとまずここで暖を取るぞ」
確かに冷えるな、と思いつつ、果物を一口食べた。甘い香りと汁に脳が満たされかけたが、そこで落ち着くのは間違っている。
「北は川で行き止まりだった」
「南は崖でした。細い道はありましたが、行くのは危険ですね」
紂王とシゲルがそれぞれ報告した。
「てことは、西へは山越えしかないってワケだな」
悟空が果物を頬張りながら言った。
また山越えかよ、と昔の記憶を引っ張り出して暗鬱となるだったが、声には出さず果物を咀嚼する。
逃げる、という選択肢がなくなり、この四人と旅をしなければならないらしい。
困った。非常に困った事態だ。
観察出来た事項としては、全員がに気があるらしい、ということ。
の方も全員に気がある。倫理上間違っていても、ある。
誰か一人など選べない。
そんな状況で旅をするのは大変な気苦労を伴うのではないか。
頬を思いっ切りつねった。痛いだけ。
すみません明日から真面目に生きますから夢なら覚めて下さい、ともう一度願ったが、これが現実だと再確認しただけだった。
「さん、落ち着きましたか?」
年に似合わず大人びた口調でシゲルが聞いた。
「…こんらんしています」
正直に答える。打開策の浮かばぬまま、残っている果物を握り潰したい気持ちになった。勿体ないだけなのでしないが。
「なんてこった…」
銀時が神妙な声を出して言う。は自然と警戒した。
「俺たちが愛し合っていた記憶がなくったってのか!?」
「嘘を言うな嘘を! と愛し合っていたのは予だ!!」
「坂田さんも紂王さんも、さんの記憶の混乱に乗じて嘘を言わないで下さい!」
シゲルのおかげでどれも本気にしなくて良さそうだ、と思う。シゲルの言葉はなぜか信じられた。
「大人って卑怯だ」
ジト目で言う悟空の言葉に、紂王と銀時がかみつく。
『黙れ猿!!』
「猿ってゆーな!」
懐かしいようなやりとりには思わず口元をほころばせた。
「あ! が笑った!」
こちらを指差し笑う悟空には微笑み返す。
「よく…分からないですけれど、懐かしい気がします」
はそう言うことで、記憶喪失キャラを貫くことにした。
それは、彼らに嘘をつくと同義。
しかし、ここでの世界の記憶がない以上、へたにみんなを知っているとも言えない。
困り果てた末に、その選択をした。
「記憶がおぼつかなく、ご迷惑をおけしますが、よろしくお願い致します」
ゆっくり頭を下げてから顔を上げると、それぞれの反応が返ってきた。
紂王がにこにこ笑いながら口を開く。
「迷惑などと何を言う。は未来の嫁だ。苦労は分かち合っていこう」
「紂王さんの嫁ではないです! 僕の……じゃなくて、みんなのさんです!」
「みんなの、じゃねーよ。俺のだ。坂田だ」
「、こいつらの言うことは気にすんなよなッ! 幼馴染みの俺が、いっちばん仲がいいんだからな!」
悟空の「いっちばん仲がいい」に目くじらを立てた他の三人が口々に文句を言う。
はそれらを聞き流しながら、これからどうしたものか、と罪のない青空を睨みつけた。
**長々しいあとがき。
始めに。尻切れトンボですみません。
さておき、我がサイトは十周年を迎えました。ありがとうございます。
何か記念になるようなことはないか、と少し前に「複数のダーリンを絡ませる逆ハはどうか」と考えたのですが、落としどころが思い浮かばず脳内ですぐ却下をしました。
しかし、昨日「書けないかもしんないから無駄だろうけど、ちょっと書いてみようかな」と気が変わり、特段何も考えず、頓挫してもいいくらいの気持ちで書き始めたらこんなものが出来ました(笑)。
普段、ナルト・サスケ(NARUTO)・ゴン・キルア(H×H)・ほたる・アキラ(KYO)なんかは脳内で喋っているので話をさせるのも思い浮かべやすいんですが、今回の四人は苦労するかと思いきや…そうでもなかったです(笑)。
悟空を猿呼ばわりするあたり、書いてて楽しかったです。
トワイエ。
設定がテキトーすぎて続きが思い浮かばないので、続きはありません…。
万一書くとしても、またアニバーサリー的に五年後、十年後とかになりそうですね。いや、確約出来ません。
多分、同一作品毎のキャラで逆ハはありえても、楽しめる方はいらっしゃっても、この四人で嬉しいのは恐らく私だけ…かもしれないので(苦笑)。
ほたるや玄奘くんも出したかったのですが…特に、中の人が同じの玄奘くんVSシゲルとか面白そう…とうっすら考えたのですが、何か長くなりそうだったので却下に。あと、江流は途中で中の人変わってますけどw
ほたるVS銀ちゃんも和物同士、侍同士でバトル展開どうかな、と思ったのですが長くなりそうだったので以下略。
というか、六人も出してたらそれこそ収集つかなくなりそうで、四人に絞りました。
……でも、ちょっと未練……。
さて、こんな大した内容のない話でお楽しみいただけたか謎ですが、ここまでお読み下さり、ありがとうございました!
今後も鈍亀更新に、それぞれの物語にお付き合い頂けたら幸いです。
*2015/02/22up
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