ドリーム小説

ドリーム小説 KYO ほたる 侍学園 夢

かえりみちホット





 足も、手も、体全体で悲鳴を上げる疲れ切った我が身が恨めしい。
 踵を踏み潰した靴を引き摺るように前へ進めば、そのまま倒れてやろうかと、自嘲。
 月も雲に隠れ、自分は影に消えてやれば、ほら、全てが綺麗さっぱり。
 香るギンナンの匂いに眉を顰める。足下に落ちていても、避ける気力も無かった。騒めく銀杏の葉音ですら疎ましい。
 愛しい光に会いに行こうという時にでも、昏い考えが頭をもたげた。 この先に、まだ居るかも知れない光の君…。
 「 …」
 力なく呟いたほたるは、もう一度繰り返す。
 まだ、彼女は学校に居るだろうか。
 今日は、学校で恒例季節行事のハロウィンパーティがある。正確には、あった。今はもう、終わってしまっているだろう。時計も壊れて時間は判らない。
 それでも、学校へ行くしか に会う術を知らないほたるは、必死の思いで歩いていた。考えてみると、 の家を知らなかったのだ。
 視線を上げると、闇の道が続くばかり。
 そんな道を歩いてきた。
 これからも、ずっと続く道程に。
 ふっと入って来た、
 光。
 その元に。
 「あれ?」
 耳馴染んだ、 の声。
 「ほたる?」
  の眼が、驚きで見開かれる。携帯を折り畳んだ は、ほたるを見据えて捲し立てた。
 「どうしたの? ずっと、今だって携帯に電話してたのよ? 相変わらず繋がらなくて…って、ほたるッ?!」
  は慌ててほたるへ駆け寄った。ほたるが、膝を付いてしまったからだ。まだ何とか自分を支える力は残っていたので、ほたるは両手を突いて倒れ込む事だけは避ける。
 「大丈夫!? 何で、どうしてこんなにボロボロなの? ほたる、ねえ、喋れる?」
  がハンカチを取り出す。ほたるの額と目元の血を拭う為だ。
 「 だ。嘘みたい。本物?」
 「勿論よ! どうしたの? 喧嘩したの?」
  の声が少し震えた。ほたるは の頬を撫でる。
 「あったかい、ね。良かった。会えた」
 「ほたる…」
 「泣いちゃダメ」
 学生服の下のシャツに、血が付いているのが見えた。何を、どうしたらこんな手酷い傷を負うのだろう。
 いつも飄々として捕えどころのない、ほたるという漢は、一体どんな闇を抱えているというのだ。
 学友との死合いとは違う。全く、違う。
 初めて知るほたるの一面に、 は感じ取る。
 これは、ほたるの一面どころではない。他の人よりも、きっと、もっと複雑なカタチを内包している。それを伺わせる彼の金の両眼。
 映るのは、 自身。
 「これくらいは、へーき。すぐ治るし。ちょっと、色々ありすぎてドジ踏んじゃったけど。俺、すっごく、すっごく に会いたかった」
 ほたるの言葉を聞き、また の眼から涙が溢れた。
 「どうしても今日会いたかったから、来ちゃった。 、もう少し一緒にいて?」
 「うん。でも、傷の手当てはしないと…。ほたるの家に行こう」
 「ヤダ。辰伶がうるさい」
 「まだ学校に残ってるよ。そろそろ、星徒会も解散すると思うけど…」
  とアキラはハロウィンパーティ後もまた星徒会の手伝いをさせられたが、夜も遅いからと早々に解放された。但し、漢のアキラと女の子でも歳子・歳世は別の話。
 「やっぱりね、 は光の近くにいるから会いたくなる」 
 「…光って、さっきのは携帯のディスプレイの光だよ」
 「他の時も。 が光ってるのかな?」
 「……知らないよ。つか人を発光物体のように言うな」
  は照れながらも、それがバレないようにと悪態を吐いた。ほたるは平然としたもので、暗がりの中でも金の眼と髪が を捕える。
 街灯もない、危険な帰り道であるが、 の家へは実は近道のひとつなのだ。近くに塀の高いアパートがあるけれど、まだ歩かないとそんな人工の光にすらお目にかかれない。
 けれど は、ほたるの瞳に光を見出す。
 「ほたるも、光を宿してる。…綺麗」
 「…そう?  も、だよ」

  がほたるの身体を支えてやると、ほたるは手を繋ごうと言った。
 仕方なく、 はほたると手を繋ぐ。ふらふらのほたるを気遣いながら、彼と辰伶の家へと向かった。
 「 の手、あったかいね」
 「ほたるもね」
 痛みさえ忘れられそうな温かさ。
 ほたるは、 の手の甲にひとつ、感謝のキスを落とした。








*'05/12/19up  Kodo of Kanoto Insho Wrote .