明日は、ホワイトデイ。
バレンタインにからチョコを貰った。義理って言われちゃったけど、手作りの美味しいものだった。…アレ、食べたい時に食べたいな。
は時々、昼ご飯に弁当を持ってくる。冷凍物が多いと言っていたが、お裾分けして貰ったことがある唐揚げは、すっごく美味しかった。
そんなことを思いながら、踵を履き潰したスニーカーを履いて、家の外へ。
近所のデパートにお返しのお菓子を買いに来たオレは、人の多さがちょっと嫌になる。
奥さん? と一緒に来て選んでいる人もいれば、オレより年下の子もいるし、学校帰りなのか制服姿の生徒もいた。
土曜の夕方前。明日が本番とあって、棚の商品には売り切れが目立つ。
あ、マカロンだ。が好きだって言ってたな。ちっちゃくって、可愛くて好きって。
ふつーにチョコレートも売っていれば、クッキーもマシュマロも、バームクーヘンまである。キャンディもいっぱいだ。
げ、金平糖……。あれは駄目。もきっと嫌いだ。
薔薇の形をしたケーキもあるし、生キャラメルもある。生キャラメルも好きだって言ってたな。に何がいいか訊けば良かった。
苺のチョコやダックワーズ、ブッセ、クッキー…。苺ものも多い。白い子猫やねずみの王様、その彼女などキャラクタものも豊富だ。このスペースは、男より女が多いなあ。子供から大人まで、自分で買って食べるんだろうか。
結局決まらないまま、ホワイトデイ特集の売り場を二周してしまった。
ふと目に留まったのは、隣の生活用品売り場の商品棚。
…手作りクッキーキット。九百八十円。一緒に、スポンジケーキとブラウニーのキットも売られていた。
箱裏を見ると、ボウルや抜き型、クッキーを入れるビニル袋や色つきモールなどラッピング用品など。ほんとにキットしかない。簡単なレシピが書かれていたので、まじまじ視てしまう。
…これがあれば、オレにも出来そう?
に、手作りクッキーをプレゼントしたい。
うわ、何か、こんな気持ち、新鮮。
■コンガリラヴ■
食品売り場で材料を買い込む。キットの裏には、無塩バターか製菓用バターって書かれてるけど…。
は、甘じょっぱいのが良いって言ってたお菓子があったっけ。
じゃ、塩あってもいいよね? 塩入のバターってどれだろ? あ、いつも家にあるバターだ。これには塩入ってる。じゃあ、無塩は買わなくてもいいや。
他にも、製菓用の売り場にてクッキー用のキットがあった。キットというより、ただ、必要な小麦粉や砂糖が入っているだけのもの。便利だなあ。あ、でも内容量に食塩って書いてある。えっと、バターはやっぱり無塩の方がいいのかも?
あとは、卵だな。卵…? うーん、家の冷蔵庫にあったのはMじゃなかったかな? ただ卵一個とだけ書いてあるけど。SとL…どれくらい大きさ違うんだろう。ま、いっか。
あ、こーゆーのもあるんだ。
オレ、いいものみつけた。これも使おう。
満足して家に帰って、さあ、作ろう。
大好きなのために。
辰伶がいないことを確認して、早速取り掛かる。
こんなの、わざわざ小麦とかの量を計らなくていいんだから、楽勝だね。
バターも銀の包み紙に十グラム単位の目盛りが書かれてるから、判りやすい。
新品のキットをさっと洗って、手早く作っていく。
途中で、オーブンをセットも忘れない。
型抜きでクッキーをくり抜いていく。ハートと、星と、丸に四角。ベタな形だけど、そこがいいかも。ハートを多めに作ってしまう。
予熱の時間が過ぎ、オーブンが使えるようになった。アルミホイルを敷いた天板にクッキー生地を並べて、オーブンの扉を閉める。
後は、焼き上がりを待つだけ。
テレビを観ながらだと、早く感じる焼き上がりの合図。ピーって大音量が聞こえて、オレはテレビを消した。
台所では、良い匂いが漂っている。
オーブンを覗き込む。いい感じ? 扉を開けると、熱気が顔に当たった。うん、いい焼き…?
あれ、思ったより焼けてないかな? もっと焼き色付いてた方が美味しそうに見えるのに。しょうがないから、もう数分焼こう。うーん、設定温度は同じでいいかな。
まずは、試しに五分。その間に、片付けをしよう。
あらかた片付けが終わったころに、ピーって鳴った。
焼き色を確認するけど、ううーん、もうちょっとかなー。あと三分。
天板を出した時のために、鍋敷きを二枚用意してテーブルに置く。クッキーを入れる袋をキットの箱から出した。
クッキーが焼けた良い匂いを嗅ぎながら、オレはオーブンが鳴るのを待った。
三度目のお知らせ音を聞き、オーブンを開けた。
…………あれ?
ちょっと…やり過ぎた、かな?
こんがり色で美味しそうではある。でも、縦五列の内の両端二列、横四列の内の上下二列と半分、見事なキツネ色。
…キツネが日焼けしたらこんな感じかな。
良さそうなのは、真ん中の方だけ。半分くらいは、ちょっと、うん、美味しそう過ぎる色かも。
でもいいや、半分は使えるもんね。ハートを真ん中に集めといて良かった。
あとは、仕上げだ。
、喜んでくれるかな…。
三月十四日、朝。
昨日の夜に、メールでに連絡した。今日会おうって書いたら、すぐ返事が来た。オッケー! って、ピカピカ点滅する文字で。レンタルショップに行く用事があるとかで、その帰り道にオレの家に寄ってくれるって。
辰伶が邪魔だけど、いいや。アイツはもう、十二日の内に学校帰りに歳世へお返ししたらしい。早いな。
十時半前、からメールが来た。おはよう、から始まって、もうすぐ着くと書かれていた。
待てなくて、電話をする。ツーコールで出た。
「、おはよ」
『おはよう、ほたるちゃん。もうすぐ着くって、書いたのにー』
そう言いながら、朗らかに笑う彼女が愛おしい。
の笑い声って、凄く好き。
「早くに会いたくて。声だけでも、聴きたかったんだ」
『あらら。そういう可愛いこと言うの? じゃあ、スピード上げるかな。玄関先で待ってて』
「うん。今行く」
二階の階段を下りて、玄関へ。ドアを開けると、走ってくるが見えた。
「!」
「ほーたーるーッ!」
手を振りながら、駆けてくる。弾けた笑顔が眩しい。
彼女を家に上げて、オレの部屋へ。
そこでクッキーを手渡した。
「これ、バレンタインデイのお返し。のチョコ美味しかったから、オレも作ってみた」
ラッピングした袋を受け取ったは、ぱちくりと瞬きを繰り返す。
「これ、ほたるちゃんの手作りってこと?」
「うん」
「うっわー!」
は大きく口を開けて驚いた顔をしたけど、ぱっと笑顔になった。
「ありがとう! すっごく嬉しいよ!」
袋を大切そうに胸に抱く。
本当に喜んでくれたみたい。良かった。
「今食べても良い?」
「うん。あ、ちょっと待ってて。コーヒー淹れる」
用意してあったカップとドリップコーヒーにポットのお湯を注ぐ。
砂糖とコーヒーフレッシュを入れて、に出す。
「ありがとー。コーヒーはもうちょっと冷めたらいただきます」
「うん。ね、食べたら感想聞かせて」
「おっけー」
は袋を開ける。
「うわわわわ! かーわーいー!」
声のトーンが上がって、が感激した表情を見せる。
「これ、ひよこと猫? (キャベツみたいだけれど、これはきっと)…薔薇? あ、四つ葉のクローバーめっけ。ををっ、これ」
は次々とオレがクッキーに描いた絵を見て笑ってくれる。チョコペンやアイシングで描いたんだ。
そして、見つけたのは。
「これ、私とほたるちゃんだね。似顔絵、上手!」
食べるの勿体ない、というを抱き締めて、食べて、と言う。
「美味しいか、聞きたい」
美味しそう過ぎる色のものは、勿体ないから自分で食べた。まあ、美味しかった。
「う、うん。食べるのはいいけど、離れてくれ給え」
ハートが描かれたハート形のクッキーを食べてくれたは、全部食べてから、にっこりと笑ってくれた。
「とっても美味しいよ。素敵なお返しだわ」
「…良かった」
ふっとオレも笑ってしまう。
「、ちゃんと言っておきたいんだけど」
「はい」
「オレ、が好きだ。今度からチョコあげる漢はオレだけにして」
「…はい。ほたるちゃんも、私だけだよ?」
「当然」
すっごく強く抱き締めたくて、とにかくキスがしたくて。
熱くなったオレたちが離れた頃には、すっかりのコーヒーは冷めてしまっていた。
「…なんか、ちょっぴり焦げているのもあるね?」
悪戯っぽい目付きで、がオレを見上げる。
「そう。が好き過ぎて、オレもクッキーも焦げちゃった」
「あはは。私、こんがり焦がされるのを覚悟しなくちゃだね?」
「うん、覚悟してね。オレの炎、すっごく燃えやすいから」
そう言うと、はプッと吹き出して、オレに抱き付いてきた。
うん、の覚悟、受け取ったよ。
後悔させないから、オレを好きになったこと。
この熱と炎は、胸を焦がすけど、オレがを愛しているって証明だからね。
**超絶久々のほたるです。
現代編です。ほたるの性格や口調を思い出し思いだし…。手早くドラマCD聴こうにも、以前にi Pod touchに入れる容量を合わせるためにKYOは侍学園も壬生潜入する一連の話も、梵ちゃんの話も、全部iTunesから外したんでした。
PCの中を探しても、検索に引っ掛からない…。
消えてるーっ??!!!
コミックスも散らばって、取り返しのつかないことにーーーーーーーーーーーー。
PCの高さ調節のためだったか忘れましたが、下敷きになっているマガジンの切りに抜きをちょっと読んで、ほたるラヴ熱が…!
四方堂姐さん登場の回です。よく判んないことでもしておくものだな!
*2010/03/05up