「 、どこ?」 シゲルはリビングで同居人の名前を呼んだ。小さく声が聞こえ、やがてパタパタと足音が聞こえてくる。 「はいはい、なあに?」 シャツにパーカーなど衣類を抱えつつ、 がやって来た。 「デジカメの急速充電器ってどこにあったけ?」 「うっと…。あれ、デジカメと一緒になかった? 外箱と一緒に紙袋の中かなぁ。二階見てくるねー」 またパタパタと足音を立て、 が出て行く。シゲルは、 が持って来た着がえをボストンバッグへ詰めこんだ。 明日からシゲルは二泊三日で秋の京都・奈良へ修学旅行に出かける。しばらく、 とお別れだ。何度同じ年に生まれたかったと思ったことか。 小学校最後の学年で思い出になる、といえば確かにそうなのだが、 と離れるのは淋しい。 逆に、 が修学旅行へ行く時にはシゲルは家で独りになる。それもまた、淋しい。 「シゲル、あったよ。バッテリィパック貸して。あと、予備電源でオキシライド電池持っていきな」 は充電器をセットし始めた。そして、修学旅行のしおりに目を通し、持ち物チェックをする。 「あとは、お昼のお弁当ね。…っつーか、京都でお弁当買うとか、ないのねー。私の時もそうだったな」 「なるべくお金をかけない方針なんだろ。他の日も、昼はお弁当支給って書いてあるし。きっとやっすいヤツなんだ。ま、晩ご飯も朝ご飯も、あんまり期待は出来ないけどね」 ボストンバッグのチャックを閉めつつ、シゲルはそっけない声で言った。近所の先輩たちの話から推測するに、特に京都の宿は余り期待しない方が安全圏。部屋はわりときれいで、大浴場もいい雰囲気らしいが。 「 は来年、北海道に行くんだよね。高校生はいいなあ」 「うーん、飛行機乗りたくないカモー」 「北海道かあ。ねえ、 が修学旅行で行く前にさ、二人で行かない?」 「行きたいところあるの?」 「 が行きたいところなら、どこでも」 シゲルは余裕のある微笑を に送る。 が目をぱちくりさせると、シゲルはソファに腰かけ、おいでおいでをした。 は素直にシゲルの隣へ行く。 「 ね、ラベンダー畑が見たい。でも、シゲルと京都の紅葉も見たい。ついてっちゃおーかな。ガッコはサボるし」 すっかり甘えたお子様モードに切り替わり、 はシゲルの腕に抱きついた。 「嬉しいけど、さぼりはダメ。ってー…。ああ、ボクが行かなきゃいいんだけど。観光っていうより、校外学習の要素が強いんだよね。京都の歴史や文化について、二日かけて調べて。興味あるから楽しむけど、帰ったら早速まとめて発表しなきゃならないんだから。 と家でまったりしてた方が、ずっと良い」 「 もシゲルと一緒がイイー。でもでも、グループ行動あるでしょ? 発表もグループ単位でしょ? サボれないじゃん」 「そう。そうなんだよ。たかが小学生、されど小学生。悲しいかな、自由行動も出来ないしね。ずっと先生が一緒だし」 の入りこむ余地、なし。 「 、独りで平気か? メールも電話もするけど、何だか心配だなあ」 が年上であっても、そそっかしさとドジな性格、そして実は淋しがり屋なところが心配の種なのだ。 「大丈夫! 淋しいけど、泣かないから、シゲルは楽しんできて!」 にっこりと が笑えば、シゲルは苦笑交じりにうなずく。 これは普段使わないテレビ電話の出番だな、と思い、シゲルは と携帯電話の使い方を確認し合った。 たかが二泊三日、されど二泊三日、なのである。修学旅行中は携帯電話の持参が許可されていた。 訳あって同居を初めて以来、これだけ離れるのは初めてのこと。離れていても、想い合うことを忘れずに。 シゲルは、自分がどれほど に入れこんでいるのかを再確認しながら、腕に抱きつく彼女の髪を優しくなでた。 *'05/11/02up Kodo of Kanoto Insho Wrote . |
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