少年はチョコが欲しいと願った




春までもう少しの冬。寒い木枯らしが吹く。
街中で女性が想いを伝えんと懸命にチョコの品定めをする季節。明日はバレンタイン。
シゲルは内心そわそわしている。
からチョコをもらえるかどうか、不安だったからだ。
ポケモンセンターの宿泊部屋で、シゲルは手持ちポケモンたちのメンテナンスにあたっていた。
ジョーイに診てもらい、元気回復気力満タンだったが、微調整はシゲルが各ポケモンの調子を見ながら決める。与えるポケモンフードの配合もこれで調整していた。
「よし、ブラッキー、毛並みのつやもいいし、調子がいいな!」
「ブラッキ!」
シゲルに撫でられてご満悦のブラッキーは彼にほおずりをする。
「ただいま」
ドアを開けて、買い物に出ていたが帰ってきた。
「コラッタ!」
コラッタも『ただいま』を言った。
さん、コラッタ、お帰りなさい!」
「今日、この街に着けてよかったわ! 大きなところだから、期待してたの」
「何の話ですか?」
「バレンタインのチョコをたくさん買えたわ!」
「え?」
たくさん、という部分にひっかかりを覚え、シゲルは疑問の声を出した。
「ほら!」
は笑顔で紙袋いっぱいのチョコの箱を見せた。
「ブランドごとに専用の紙袋もついてくるのよ! …って、それは旅の邪魔だからもらわなかったけど」
「…すごいですね。これ、いくつ買ったんですか?」
「十八個」
「えぇ!?」
「どれも目移りしちゃって! 私、プリンも好きだけど、チョコも大好きなの!!」
力いっぱい言い切るだったが、シゲルは驚きを隠せないままでいる。
「自分チョコ、というやつですか…」
「そう。でも、みんなで一緒に食べましょうね! 見て、このムチュールやヒメグマの形のミニチョコ! 可愛いでしょう?」
はご機嫌に袋の中身を取り出した。
「…そうですね…」
からチョコをもらえることは確定したが、これでは義理チョコでもなんでもない。ただのおすそ分けだ。
「ねー、コラッタ、このニャルマーのチョコは、気品ある感じでいいよね!」
「コラッタ!」
シゲルは複雑な思いで戦利品を眺めるを見る。
「あの…さんは、その…」
「ん?」
バレンタインに気持ちを託してチョコを誰かに渡さないのか…と聞きたかったが、答えが怖くてシゲルは言いよどむ。
「えっと…」
僕にチョコを…と言いたいが、そんなこと言えるはずもない。
「何でもありません、僕、ちょっとポケモンフードの調合に行ってきます!」
シゲルは慌てて宿泊部屋を出ていった。
取り残されたは、コラッタとブラッキーを順に見る。
「………ごまかせた!」
が言い放った一言に、コラッタはため息をつき、ブラッキーはハテナ顔を作った。



シゲルはポケモンセンターの玄関前、待合室のイスに座っていた。
今までは義理チョコでもいいと思っていたが、義理にまでも数えられていないのか、と虚しくなる。
本命チョコをもらいたい、と願っていたが、まだまだ道のりは遠い。
いっそ、スタイリッシュに逆チョコ告白はどうだろう?
しかし、子供の自分が告白しても、きっとは困るだけだろう。
まだ十歳の自分が恨めしい。
落ちこんでいても仕方ないので、ポケモンフードの配合のために、席を立った。



「はーい、ブラッキーそのまま、そのまま、動かないでねー…」
は、宿泊部屋でブラッキーをスケッチしていた。
ブラッキーは言われるがままのポーズでいるしかない。
「よし、こんなもんか」
がブラッキーを描いたのは、クッキングペーパーだった。
「シゲルがポケモンフード作っている今がチャンス! こっそりジョーイさんに別室を借りてあるの」
ウインクをよこすに、ブラッキーはやはりハテナ顔しか返せないでいた。



翌日のおやつタイム。宿泊部屋でたちはジュースを片手に乾杯をした。
ポケモンを立体的にかたどったチョコから、丸形のトリュフ、葉っぱ型のチョコ、美しい模様がプリントされた四角いチョコなどが机に並べられた。
「ああ、何度見ても美味しそう…」
は目を輝かせながら言った。
「ヒノー!」
ヒノアラシには数々のチョコが珍しく映り、あれこれ見比べている。
コラッタは欲しいチョコを早速にねだり、ほおばっていた。
さん、このトリュフ、美味しいですよ!」
「どれどれ…?」
シゲルが勧めたトリュフをつまんだは、とろけそうな顔になる。
「ホントだ、美味しい~! 口当たりなめらかで、とろけるわね!」
ブラッキーもシゲルからトリュフをもらい、満足げにうなずいた。
全部キレイに平らげたあと、シゲルは今年のバレンタインがこれで終わることに寂しさを感じる。来年こそは、と思って、あきらめた。
来年こそは、からちゃんとチョコをもらえるよう、信頼関係を築いていこうと決心する。
「さて、私の自己満足は終わったところで」
がにこにこしながらしゃべり出した。
「ハッピーバレンタイン、シゲル!」
「え?」
「ちょっと待っててね」
言うが早いがは宿泊部屋を出ていって、すぐ戻ってきた。
後ろ手に部屋に入ってきたは、シゲルとブラッキーの前に、チョコを差し出す。
「ブラッキーを作ってみたの!」
そこには、ブラッキーの形をしたチョコがあった。ブラッキーチョコが載った皿を受け取り、シゲルは信じられない気持ちでを見つめる。
「ハッピーバレンタイン♪」
もう一度が言えば、
「あ、ありがとうございます!」
シゲルはお礼を言うしか出来ない。
「チョコペンで作った簡単なものだけど、いつもお世話になっているお礼よ」
その言葉で義理チョコが確定したが、そんなことはどうでもよかった。
どんな意味が込められていようと、これはがシゲルのために作ったチョコだった。
それだけで、シゲルは幸せだ。
「…これ、ブラッキーにもあげていいですか?」
「もちろん」
ブラッキーは戸惑ったが、シゲルが半分に割ったチョコをブラッキーの口元へ持ってきたので、本当にいいのかシゲルに目で聞く。
微笑むシゲルを見て、ブラッキーは自分の形をしたチョコを食べた。
シゲルもチョコを食べる。
さん、美味しいです」
「そう? よかった」
微笑み合う二人を見て、ポケモンたちはそろって部屋の隅へと集まった。
談笑するとシゲルが幸せそうに見えたコラッタは、まぶしさに目を細めた。








**まだあまり関係が進展してないうち…の設定で書いてみました。
「好きですと言いたいけれど」で書き始めてこんな着地になったので、タイトルを変えてみました。…あんたソレ先に書いた悟空でもやったね???と言いたいですが、他のキャラでもそんな感じです…。
もっと…こう…色々お話練って決まってから書く、というより、大体ホンワカで書き出すので、いつも苦労するため、プロットしっかり作れるようになりたいです。

バレンタインストーリーを四人分書き終えて、シゲルが一番長くなりました(笑)。
今まであまり短編を書かなかったのですが、今度はもう少し進んだ関係を書いてみたいですね。
……それには、早く本編を進めましょう、私……。

*2015/01/27 Write
*2015/02/08 up


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