嗚呼、愛しのモンブラン 「美味そう! 喰いたい! だからこそ私はモンブランを求めるッ!」 すっくと立ち、右手は握り拳を作り左手は腰へ。立ち姿勇ましい は、テレビの前でそう叫んだ。 「そりゃ、俺も美味そうとは思うし、喰いてえけど、今から買いに行くの?」 孫悟空は時計を見る。今は夜の八時十分前。近所のケーキ屋にはギリギリ間に合うか…。しかし、売れ残っているとは限らない。 「つか、今の店、名古屋って言ってたじゃん。地方発送やってねーのかな? 書いてあったか、 見た?」 「なしって書いてあった。今度の休み、名古屋いこ。いやもう、ポケパークないから行く事はないと思っていたけど…。言いすぎか。でも、私は今食べたいのー!!」 「今って、んじゃ、作るの? 材料は?」 が押し黙る。 「駄目じゃん」 悟空は呆れて溜め息。クッションを抱えて、リモコンを取る。新聞は台所のテーブルの上。取りに行くのが億劫なので、チャンネルをパチパチ変えた。スペシャル番組が多いが、何が放送されるのか忘れてしまった。 先程まで放送されていたのは、毎週楽しみに観ている全国の美味しいスイーツの紹介番組のスペシャル版である。毎週のように も悟空も、番組放送中、あるいは終了後に大はしゃぎをしていた。 悟空がザッピングをしている間に、 は冷蔵庫を漁る。目的のものはない。ふりかけや小麦粉を入れてあるストッカーも探し、栗の甘露煮の缶詰めを見つけた。足りないと感じた為、少しだけさつまいもも使う事にする。 昔一度作った時の記憶を探りつつ、それでも心配な事があったので、台所の入り口に置いてあるノートパソコンでネット接続して作り方を調べた。 ふと、悟空の鼻孔を掠めた甘い香り。夕飯は七時前に済んでいる。 さつまいもだ…。 香りの正体に気付いた悟空は、クッションを置いて台所へ向かった。 「 、結局作ってンの? うわ、芋と栗? うまそーじゃん。頑張れよー!」 「ちった手伝おうって思わんのかね? 一緒に作ろーよクッキン?」 は茹でたさつまいもを裏ごししていた。その作業を悟空に任せて、今度は栗・そしてモンブランの土台調理に取り掛かる。 「よくあったな、栗の甘露煮なんて。うち喰いもんはいっぱいあるけどさ」 非常食と称して、家には沢山の食べ物があった。レトルト食品はもとより、冷凍食品もカップ麺も缶詰めも、そしてスナック菓子の類いも普通のご家庭のストック比ではない。これは、悟空と が普通の人達より沢山食べるからである。 がよくお菓子作りをする為、生クリームだって常備されていた。栗いもペーストと混ぜ合わせ、スポンジケーキの代わりのカステラの上へ搾り出す。カステラには、はちみつにアーモンドプードルを混ぜたものを塗りこめてあった。 仕上げに粉砂糖を振りかければ、見た目も上出来、モンブラン様のお成りである。 「おっしゃー! これで今日は憂い無く眠れるわっ!」 は満足気に言い放ち、大きめサイズのモンブランを見渡す。無言で悟空が後片付けを始めた。 「あ、悟空ズルー!」 悟空は、ボウルに残っていた僅かな栗いもクリームをスプーンですくって食べていた。気付いた が身を寄せる。 「私も!」 悟空は仕方なく、 に食べさせてやる。美味しそうに が微笑んだのを見届け、悟空はスプーンを抜いた。 「ンぐ?」 「ああ、ワリ」 の口から抜き取られたスプーンの先が、彼女の頬を掠め、ほんの少し、クリームの跡を残した。 謝罪するや否や、悟空は の頬にかぶりつく。 「ごちそーさま。あ、いや、まだモンブラン喰うけどねッ」 いただきまーす、と勝手に言い残し、悟空はモンブランとスプーンを持ってリビングへ行った。 は呆然と呟く。 「ふつー、しませんからそういうハズいこと」 ウキウキでモンブランを作ったが、今日はこれ以上の甘いものは要らない、と は思ったとか…。 *'05/11/01up Kodo of Kanoto Insho Wrote . |
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