気付いた知った、叶った。 側に居るのが当たり前で、きっとこれからもずっと一緒で。 保証なんかないのに、願わずにいられないのは。 「ごーじょーおー」 未だ幼い声が、俺を呼ぶ。 まだまだあどけなさを残す彼女の顔を覗き込んだ。応え、のその一。小さな手に、自分の手を重ねた。ぐいと引っ張ると、あっさり抵抗される。 「こーら、 。こーゆー時は、オニーサンに身を任せるモンだろ?」 「知らないよそんなロリコン事情」 「な………。誰がロリコンだッ??!」 目一杯力強く否定した。第一お前はもう十八過ぎただろう? 「折角の相部屋なんだ。仲良くしようぜ?」 「仲良くの程度によるよ」 ああ、すっかり減らず口を叩くようになった は、真顔で大きな瞳を俺に向ける。 「いつもより、だ」 「せめて今日くらいは?」 「そう。…いや、出来れば、ずっと」 唐突に現れた は、あっさり俺のテリトリーに入り込んで来た。 結構、頑丈に作っていたんだ。他人に心を知られないように。 きっと、八戒や三蔵にも負けないくらい。 土足で踏み散らしてから、やっと気付いたように靴を脱いでご丁寧に掃除までして、勝手に居場所を作ってそこにちょこんと居座るような女。 本人は、自覚なんてないのだろう。 追い出す事も出来ず、かといって飼うような真似も出来ず。 は、自分勝手に俺の中に居座り続けて。 俺は、自分勝手にそう思いたがっている。 求めても手に入らない愛情がある事を、とうの昔に嫌というほど学んでいたから。 「出来れば?」 無表情に聞き返す に、心の何処かが痛んだ気がした。 能面のような顔を作るのは、 には造作ない事。でも、声が疑問のニュアンスを伝えていた。 「出来れば」 もう一度繰り返される言葉。今度は、記憶の一部を取り戻す前の を思い出させる声音で。彼女は、昔、抑揚と愛想の欠片もない声で話していた。 そんな が好きだった。 今更のように気付くけれど、昔の彼女はもう戻らない。 今の だって、充分魅力的だ。 初めて会った時の記憶をなくした訳ではないから、 が である事に変わりはない。 に会う前の俺も、俺であるように。 出来たら俺を愛して欲しい。 と言ったら、 は何と返すだろうか。 衝動が、ある。 止められない。 止めたくない。 マグマよりも熱く、 夕陽よりも綺麗な、 赤い紅い衝動。 厄介な旅の途中でも、 が居るだけで、安らぐ。 機嫌の良い の声が俺を呼んで、それに機嫌良く応えるんだ。他の奴等の視線もものともしないで、 を抱き締める時が、倖せ。 「あら ちゃん、ソコに引っ掛かる?」 まだ握っていた手に自分の手を絡め直して、手の甲にキスひとつ。 「なんつーか、悟浄にしては、えらく遠慮がちだなって。それっくらいで良いのだと思うけど。あんた普段がゴーインすぎるから」 「あのなあ…」 反論しかけるが、余り説得力はないだろう。 「でもあたしならさあ、本当に本気で好きならば、出来たらとか言わないし」 俺も相手がお前じゃなきゃ、言わねえよ。 「人それぞれの考えと、立場ーとか、時代ーとか、ドラマなんかじゃあるかもしんないね。でも、悟浄とあたしなんだ、今は」 いつもはスラスラ出てくる軽い言葉も、 には通じないと解っているから、俺は時々信じられないほど口数が少なくなる。最近、気付いた事。 「 …」 の名前以外は、意味を持たない瞬間。 自分の中に しかいないと判って以来、そんなことに気付いた自分が信じられなかった。 てめえの事で手一杯だったはずの俺が、失いたくないと願う。 愛おしむ感情を知り、今日までこつこつ へ一心に。 「あーあ、もう、日付変わっちゃったよ。じゃ、お終い。オヤスミー」 一人で完結して逃げようとする を、力任せに引き寄せた。 今度は、抵抗がない。 「…あんまし深い意味は無かったのですが、言ってからとんでもねー誤解を生んだんじゃなかろーかとか思った訳ですよ。えっと、悟浄さん、紳士的に振る舞っては貰えまいか?」 どの口がそんな事を云うんだろうな。紳士的に振る舞えと要求する前に、淑女らしく恥じらいのひとつも見せろっつーの。 「あれだけ期待値上げといて、それはないんでない?」 「ううぅ、いやー、ええと。こ、困る」 「俺も、 が拗ねてるんじゃねえかって思って、困ってる」 「微塵も拗ねてなんていないよ!」 慌てて否定をする が、やっぱり愛おしい。 「言うべきはそんな事じゃないだろ?」 ん? と囁いて、彼女の口元に耳を寄せた。 は、むうと唸って、俺の背に手を回す。 「お誕生日おめでとう」 …逃げやがった。 まあ、もう少しだけなら、微妙な関係も悪くない、かな。 ああ、でも、足りない。 赤い紅い衝動が、脳天を突き抜ける。 「足りねえ」 「え?」 意味が判らず聞き返す の頬に、キス。 「今回は次ので我慢してやるから、大人しく目を瞑ろうっか、 ?」 「…………ハイ」 出来たら、何てのがご不満なら、お互い満足いくまでとことん「仲良く」しようじゃんか。 のんびり能天気娘とは、それくらいから始めるのが丁度良いかもな。
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