密やかなる、約束 シークレット・バレンタイン




、バレンタインって知ってるか!?」
悟空が弾んだ声でに問えば、彼女は平坦に回答する。
「製菓会社の陰謀とも謂われる、あれね」
「好きな人にチョコあげるんだって!」
「そうらしいわね」
は、俺と、三蔵と、八戒に渡す!?」
「悟浄はどこいったの」
「悟浄は他の人からもらうだろうから別にいーんじゃね?」
何気なく酷なことをさらっと言ってのけた悟空だったが、悟浄のことが本心から嫌いなわけではない。
しかし、が悟浄にもバレンタインとしてチョコをあげるのは、何やら不満を感じた。
三蔵と八戒ならいいのか?
それも実は不満だが、この二人ならなぜか許せる。
悟空もも齢十五になるが、バレンタインとは無縁でいた。
は行事としてあることを知っていたが、好物のひとつであるチョコレートはあげるより自分で食べるに限ると思っていたので、今まで関わらなかった。
「で、チョコが欲しいと?」
「うん! 、ちょーだい!」
「…義理チョコなら…まあ、いいでしょう」
「ギリチョコ?」
悟空は、それはどんな形のチョコだろうかと間違った想像をした。それとも、ギリギリの略だろうか。ギリギリでチョコであるとは、どんな味なのだろう。
悟空の想像を見越したように、が解説する。
「バレンタインのチョコにはね、本命チョコと云って一番好きな人にあげるものと、義理チョコと云って主にお世話になった人へお礼のようにあげるもの、友チョコと云って友達同士であげる、或いは交換するものがあるの」
「へー、じゃ、俺が本命チョコで、三蔵と八戒は義理チョコ、悟浄にもあげるとして友チョコだな!」
「それ、何の根拠で分類したの?」
が半眼で問えば、悟空はハテナ顔で言う。
「だって、が一番好きなのは俺じゃないの?」
「…言い換えましょうか。一番愛してる人に、本命チョコを渡すものらしいわよ」
「あいしてる…?」
愛情についてまだよく理解していない悟空だったが、「好き」と同類か、或いはそれより上ではないか、とは朧気に思っていた。
「えっと…」
悟空は一生懸命考えながら言葉を紡ぐ。
「俺はキョウダイとしてが好きだけど」
「私もそうよ」
間髪入れずが言った。
「でも、上手く言えないけど、その好きとは別の好きがあるって、最近知った」
「………」
私もそうよ、とは思ったが、これは黙っておいた。
悟空の言葉を待つ。
「俺、からの本命チョコ、欲しい」
「キョウダイでそれはタブーね」
「たぶー?」
「いけないこと」
「どうして?」
「説明が…面倒ね。だから、内緒でなら、あげる」
「ないしょ?」
「絶対誰にも言わないで。三蔵にも、誰にもよ?」
念を押すの気迫に押され、悟空はコクコク頷く。
「みんなに同じチョコを渡すけれど、悟空には、特別な意味を込めるわ」
「! じゃあ、本命は俺だけだな!?」
「そう」
微笑むに、悟空は満面の笑みを返す。
「来週のバレンタイン、楽しみにしてるなッ!」
「ええ」
は人間たちが作り上げた近親相姦という概念を知っている。それを破ったものが身近にいることも知っている。
だが、伝え聞くに、巨岩から産まれたとされると悟空のキョウダイ関係の詳細は定かでない。だから、既成概念を表面上は犯さないよう守るが、大して気にしていなかった。
人間たちと暮らす中では、守っているように見せかけた方が、安全側。
それでも、さんさんと太陽の光をこの身に降り注いでくれる悟空に惹かれて止まない。
この気持ちをなかったことにするのは、最早不可能と気付いている。
「二人だけの、秘密のバレンタインよ」
「うん、秘密な」
幼い子供の約束でも、には構わなかった。
「悟空にだけ、愛を」
それが伝われば、いい。








**キョウダイ設定で書き始めてから、そんなの関係ない恋人設定の(ほったらかしのあの)方にすれば良かったかな、と思いつつ、書き進めてみたら、前半思い描いてたものと違う着地になったので「バレンタインとは」というタイトルから「シークレット・バレンタイン」に変えてみました。

悟空との物語は玄奘くんのあとに来る予定なのですが、ノーマルエンディングで終わるつもりです。ハッピーでもアンハッピー…バッドエンドでもないところを目指したいですが、どう転ぶか判りません(苦笑)。
そこまで辿り着くのに何年もかかるでしょうが、もしよろしければ、悟空との物語もお待ち下さいませ。

*2015/01/27 Write
*2015/02/07up


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