怪我する彼





 来年も一緒だと、信じているのに、不安になるこの心…。
 どうしてくれよう—…。
  は大きく溜め息を吐きながら、銀時の傷の手当てを終えた。万事屋の面々と付き合うようになってからというもの、家事と治療のスキルがかなりレベルアップしている。
 「銀ちゃん、もうさ、この年の瀬にさ、無茶して怪我なんて信じらんない」
 「はいはい、もう聞き飽きたよソレ何回目?」
 「何回でも言いたくなるよ〜!!」
  が頬を膨らませると、銀時は彼女の両頬に手を宛がい、ぎゅっと押して萎ませた。
 「わ〜るかったよ。銀さんだって、怪我したくてしたわけじゃないんだから、もう勘弁して」
 銀時はソファに座り直し、服を着始める。右腕と左脇腹に刺し傷を負った今回の依頼。年越しの資金のためとはいえ、確かに少々無茶な仕事だったかと、心密かに反省した。
 依頼料がたんまり入ったお陰で、鍋の材料や鏡餅の購入が出来る。新八たちは買い出しに出掛けて行った。
 「じゃ、大人しくしていてね」
 救急箱を片付けた は、外套を羽織っていた。
 「は? 何? 怪我人の恋人置いて、どこ行くの?」
 「神楽ちゃんたちのところ。荷物多いだろうし、ちょっと見たいものあるし。行ってきます」
 「イヤイヤイヤ、行ってきますじゃねーだろ!」
 何で? という疑問をありありと顔に浮かべて、 は振り返った。そして、捕まれている腕を見て、銀時を軽く睨む。
 「どーせ明日の大晦日はみんないるし、正月も寝正月決め込むだろーし、二人になれる機会あんまりなさそうじゃねえか。だから、今くらいはこのまま二人で居ようぜ」
  の不満など全く意に介さず、銀時は の腕を二度三度と引っ張る。彼女が反応しないから、思わず利き腕で掴んだ の腕をぐいと引き寄せた。
 たちまち痛みが走るが、顔には出さずに を抱き締める。
 「これが一番、銀さんの治療にいいの」
 「こんなんで?」
 小さく呟いた の声には、力がない。
 「…こんなんで。 を感じて、治癒力高まっちゃうの」
 「変なの」
 「いいの。お前も俺を感じられて、安心出来るだろ?」
 言われて は、自分の不安が見透かされていたことを知る。
 こんな怪我ばかりでは、銀時がいつか—…、近い未来に居なくなるのでは、と不安になる。もっと酷い怪我が沢山あった。入院したことは、今年何度あった?
 他人のために、自分のためにと怪我を厭わない彼は、 をよく不安にさせた。
 銀時が仕事に出掛けて行く時には、彼の強さを知っていても、心配で息が詰まりそうになる。何でもないような仕事が、思わぬトラブルへと発展することは少なくない。
 銀時たちが笑顔で帰ってきた時に、ようやく彼女は一息ついた心地になる。
 これからも一緒にいるつもりなら、もう少し彼を、彼らの強さを信じるべきなのだろうが…。
 「銀ちゃん」
 「ん?」
 「来年も、そのまた先も、ずっとずっと私と一緒に居てね」
 か細い声で言う に、銀時は笑って応える。
 腕の痛みも、腹の痛みも気にせずに、 を力強く抱き締めた。
 「あったり前じゃねーか。離れる気ねえよ。ずっと一緒だ」
  は涙を溜めた双眸で、銀時を見上げた。
 「 ちゃん、今は泣いててもいいけど、お願いだから今度仕事から帰ってきたら、笑顔で迎えて頂戴よ」
 「ふふっ。銀ちゃんが、怪我しないで帰ってきたらね?」
 「…なるべくそうします」
 短く笑い合って、ソファに移動した。
 同居人たちが帰ってくるまでは、せめて、静かに互いを感じていたい。
 銀時の胸で涙を拭った は、段々緩む頬を感じ、いつの間にか軽くなった心のまま、銀時の頬に口付けた。












**2009/12/28up

出来なかったので、2010/01/03up。今年もこんな感じにぐだぐだ更新ですきっと…。



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