ドリーム小説

願い事はありますか?





 「眉間、すンごい皺寄ってますよー? どったの、銀ちゃん」
 ソファにもたれた銀時は、 の指摘通りに眉間に皺を寄せていた。
 「お悩み?」
 「そー」
気のない返事をしたきり、黙る銀時。 は銀時とは反対のソファに腰掛けた。
悩み顔の銀時を見ながら、銀ちゃんは死んでる魚の目じゃない時は格好良いなあ、と失礼な事を考えていた。
 何にしろ、このまま放ってはおけない。
 「ねえ、私に話してみない? 悩み」
 「ん」
 「何何?」
 少し身を乗り出しながら、 も真剣な顔付きになる。
 銀時は、躊躇いがちに口を開いた。
 「それがよぉ、お天気お姉さんの結野アナがな、明日かぶき町にやって来るんだと。そこでだ、いちファンとして、なんか出来るこたァねーモンかと思い悩んでたっつーワケよ! いや、ベタにファンレターは書いたんだけどさ?」
 懐から取り出された白い封筒。封には、赤いハートマークのシールが貼られていた。
  は真顔のまま返す。
 「銀ちゃん、実家に帰りたい時に実家がない私はドコヘ行ったらいい? 家庭裁判所? 略して家裁?」
 「待て待て待て。何で家裁が出てくるか知らんが示談しよう。プリン一つあげるから!」
 「生クリームとさくらんぼも付けてくれる?」
 「結野アナの話でそこまで? ヤキモチのつもりですかそれでー!?」
 むう、と唸った は、台所に向かって叫ぶ。
 「しーんちゃあん、私、今日は晩御飯要りませーん。家裁行きまーす」
 「新ちゃん! 嘘ですよー。 さんにチーズハンバーグを作って差し上げてッ!」
 「どっちですか?! つか、また喧嘩かい! あんたらいい加減にして下さいよ」
 おたまを持った新八が顔を見せた。
 「毎日毎日…、よくやりますよ」
 新八が飽きれ顔をすると、銀時は自信満々に言った。
 「喧嘩するほど仲がいいっつーだろうが」
 「あーハイハイ。一生やってろ」
 まともに取り合わない新八は、溜め息を残して台所へ戻っていった。
 「で、銀ちゃんは、明日本当に結野アナに会いに行くの?」
 「行くの」
 「…私も行く」
 「マジでか」
 「行っちゃダメ?」
 「ダメじゃないですが、邪魔はすんなよ」
 「……七夕邪魔すんのは雨だよう。降りやがれ雨!」
 そう、明日は七夕。
 織り姫と彦星が年に一度逢える日とか謂う設定の行事。
 「俺と結野アナは年一どころの騒ぎじゃないっつーの。永遠に逢えないかも知れないんだぞ! 来年もやってくるとは限らないんだぞ!」
 「そうね、来年また結婚していないとも限らないわよね彼女」
 しれっととんでもない発言をかました は、言い終わってからニタリと笑む。銀時は唾を飛ばしながら反論した。
 「しッ、しっつれーなー! 何か恨みでもあんですかテメーは!」
 「ねーよ。割と好きだよ彼女」
 「んじゃ、いーじゃねーか。お前も応援しろよ大人しく」
  はふくれつつも、不承不承頷いた。



 あくる年の七月七日金曜日。朝の天気、快晴。
 「皆さん、おはようございます。今日は、かぶき町の役場前からお天気予報をお伝えします。お天気情報の前に、ご覧下さい、この立派な笹を!」
 テレビカメラに向かって微笑みつつ、背後の笹竹に手を差し出したのは、結野アナ。 かぶき町町役場では、今年から、今まで飾っていた五倍近くある大きさの笹を飾っていた。ゆうに十五メートル以上はある。この大きさだと、笹っていうより竹じゃね? と思う人が多いはず。恐らく、天人の科学技術で改良されたのだろう。それがテレビで取り上げられることになった。
 細い枝には、見事、願い事が書き込まれた短冊、飾りがぎっしりとぶら下がっている。重みに負けて、異様な垂れ下がり方をしている枝もあった。それもそのはず。
 「ねえ、本当にやったんだ。あの馬鹿デケー短冊、本当に飾っちゃったんだねゴウツクバリーズ」
 「何だよそのゴウツクバリーズってのは」
  が目にしていたのは、短冊を模した段ボール紙だ。短冊を買わず、スナックお登勢の仕入れ品の入れ物をカッターナイフで切って色を塗っただけの代物。
  の変な名付けセンスに反応したのは、それを飾った張本人その一、坂田銀時であった。
 「そうネ。ゴウツクバリーズじゃないヨ。 、アタイらは泣く子も黙るムサボリーズさ。徹底的に他力本願で倖せという倖せを貪り、楽して願い事を叶えるのがアタイらの生き様。とくと見るがいい!」
 豪語したのは、張本人その二、神楽。
 「神楽ちゃん、それだと大して変わらないよ、貪りもごうつくも…」
 苦笑いで突込む新八はお構いなしに、神楽は一人、キャッホオオオ! と叫んでいた。
 「聞けよ! ったく…。あ、そうだ、 さんは何か書かないんですか?」
 「え、私?」
 「役場の受付所で短冊配ってるらしいですよ」
 「あそう」
 願い事、と考えても、プリンをたらふく食べたい、以外は思いつかなかった。それでは、銀時や神楽と同じレベルだ。真剣な願いではあるが低レベルだ。否、空腹は死活問題だから高レベルだ、などと思い浮かべたが、 は口にはしなかった。
 「あ、私、今度はごはんですよ一年分欲しいって、書いてこよ。新八、受付所ってどこアルか?」
 「まだ書くのかよ! 神楽ちゃん、もう六枚も段ボール短冊ぶら下げてるじゃんか。欲張っちゃ駄目だよ」
 「うっせーよ。いいからとっとと案内するアル。お前は眼鏡が欲しいんだろ? 見えもしない明日が見えちゃうような眼鏡が欲しいんだろ? お願いしとけよ」
 神楽と新八は、言い合いしながら受付所へ向かう。途中、余りの煩さにテレビ関係者が近づいて注意をしたが、聞き入れる神楽ではない。しかし、新八が強制連行で町役場の門の中へと神楽を押し込めた。
 困った は、空を見上げる。
 ネオンが目に痛いほど発光しているこの町では、天の川は拝めないだろう。
 「…いっぺんさあ、視界にバアアアーン! っと、天の川見てみたいかも」
 「山登りでもしなきゃ無理じゃね?」
 結野を注視し続けている銀時は、いつもよりも投げやりな声音で返した。
 「銀ちゃん一緒に登ってくれる?」
 「本気ですかソレ」
 「…ちぇ。プラネタリウムでもイイよ?」
 片方の頬だけを膨らませた が、銀時に体を寄せる。
 「ま、それなら叶えてあげましょー」
  の頭を撫でながら、銀時はニタリと笑った。
 「今日の夜は雨降るって、新聞の天気予報欄に書いてあったし。きっと結野アナもそう言うぜ?」
 銀時の言う通り、結野も、夜は雨が降ると予報で告げた。ただし、笑顔で「もし外れても私の所為にしないで下さいませ」といういつもの結びは忘れずに…。
 「まあ、外れて晴れたら、山でも海でも宇宙でも連れってやらァ」
 「あはは。宇宙は無理でしょうに」
 コロコロ笑う に、銀時はのんびり言った。
 「ばーか、おめ、 が望むんなら、宇宙くらい連れてくっつーの。それにアレだ、宇宙からの方が良く見えんじゃん」
 「えー。地上から見るのがイイんだよう」
 などと言っているうちに、テレビの収録が終わった。
 チャンス! とばかりに銀時は結野へと一直線に突進して行く。手には、昨日書いたファンレターが握られていた。
 「ジェラジェラ…」
 と、呟きつつ、 は風に揺れ騒めく笹の葉へと視線を移す。
 星見は銀時が叶えてくれるそうなので、短冊に書くのは「家内安全・無病息災・金運上昇」の三つにしようかと考えた。
  も欲張りである。
 ともあれ、願いを聞いてくれるのは、織り姫と彦星なのだ。
 永遠に続くこの恋人同士に願うなら。

 織り姫さん、彦星さん、ごめんなさい。
 私は銀ちゃんと、付かず離れず、ずっと一緒に居たいです。

 これで、決まりだ。











**七夕夢を書こうと思い立ったのが、日付が七日に変わる頃。
 結局アップ出来るのは、八日になってからです院晶さん。グハー。

*2006/07/08up