銀さんと さんが出会えた一周年記念日にケーキを食うのこと。





 「ただ〜いまーっつーか、こんちはー。お邪魔しまーす」
 万事屋銀ちゃんの前で、チャイムを鳴らしてすぐに、 はいそいそ家の中に入り込む。下駄を脱いでいる間に、志村新八がぱたぱたと駆けて来た。
 「あれ、 さん。お帰りなさい、っつーか、こんにちは。いらっしゃい」
 「はい、はい、新ちゃんお出迎え感謝致す。これ、お土産だよー。皆でお召し上
がり下され」
  が幼い声で言った。上機嫌な証拠である。
 「あ、どうもありがとうございます」
  から手渡されたビニール袋を見た途端、新八の脳裏に大きな疑問符が浮かんだ。
 「え? 大江戸でーずにーランド?」
 「はーい、でーずにーランドとシーに行って参りました。二連チャン楽しかったよー」
  は満面の笑みで答えるが、新八は少し顔を引き攣らせつつ、更に聞いた。
 「え? 独りでですか? 独りでですか? 独りでですよね?」
 「何でそうも重ねて聞くかな…。ま、越してきて早一年…。友達らしい友達も居ませんが」
 「えぇ? だって、居るじゃないですか、飴細工屋さんのところのお嬢さんとか。あと、三丁目のお米屋さんのお嬢さんに、えっと、ホラ、誰ですっけ、あの魚屋さんの―…っつーか、何で銀さんを誘わないんですか?」
 「銀ちゃん?」
 「そうだ、銀さんを誘わずして誰を誘うかーァツッッツッ!!!」
 玄関から聞こえてくる会話に耳を澄ましていた銀時は、新聞をあらんばかりに握り締め、物凄いスピードで駆け寄って来た。
 「こらァ!  ! ほんとーの、ホンッットーに、独りでみちのくを旅して来たのか?!」
 「みちのくじゃないよう。でーずにーランドとシー」
 「よけー悪いわアアァ! そんなカップル・ファミリーの聖地みたいな場所に、何で悲しくも独り!? 寂しいだろう? 寂しかっただろう? そんなところで孤独を感じてどうしようってんだ?」
 「楽しかったよ」
 「楽しいワケねーだろうがっ! さあ、温かな銀さんの胸に飛び込んでおいで。そしてそのままオヤスミ?」
 急に優しい表情と猫撫で声になった銀時は、大きく両腕を開き、 を迎える準備をした。
 「楽しかったって言ってるじゃんか! あたしの言う事を聞けよ馬鹿銀!」
 「どこが楽しかったって言うんだ!」
 「楽しいと思うところに行ってるんだから、楽しいに決まってるだろ!? じゃなきゃ、ハナから高い金出してみぇっきーに会いに行きゃしねーよ!」
  が格段に低い声で怒り始めた。
  は、一体幾つの声帯を持っているのだろう? 新八はそう疑問に思いながら、 を宥めた。
 「まあまあ さん、落ち着いて下さい。 さんも一緒にお土産食べましょうよ、ね?」
 「うん、食べる」
 「はい、お茶…コーヒー淹れますね」
 「お願いします」
 食べる事に気が向いた は、銀時から離れ、新八の後をてとてと付いて行く。
 その の後ろ手には、風呂敷が握られていた。さっきの会話の場合、 は先ず飛び蹴りをかましてきても不思議ではない。しかし、何の攻撃もなかった事に、銀時は漸く合点がいった。
 手にしているものを、守りたかったのだ。
 守る為には、少しの衝撃も与えたくないもの?
 ああ、そういえば、甘い香りが漂ってきている…気がしないでもないかも知れなくもない。
 銀時は、ぐしゃぐしゃにしてしまった新聞を開いて、日付を確かめた。
 自然、口元が緩む。
 「 さ〜ん、何かあ、あんまーい生クリームのお味がするんですけどお?」
  が振り向いた時には、銀時はいつものニタニタ笑いを浮かべていた。
 「…どーゆーお鼻してんの、銀ちゃん…」
 「こーゆーお鼻ー」
 銀時は悪童がするそれのように、割と通っているように見えなくもない鼻を、豚鼻に変えて、ニタリと笑う。
 これを家の外でやられたら、絶対に他人のフリをしようと決めた だった。
 「それ、早く食べたいなー。銀さんの生クリームケーキ!」
 「銀ちゃんと のだよ?」
 「……そだな」
 「そう」
 へらっと笑う に、銀時もへらっと笑って返す。
 「銀ちゃんの年判んないから、蝋燭は一本なのです」
 「っつーか、一本でイイですローソクなんかは! 銀さんと が出会えて一周年記念だけで!」
 「せっかくのお誕生日おめでとうっ! なのに?」
 「あーも、いいから、奥行け奥! 新八ィ、茶入ったかー?」
 「はーい、もう少しでーす! あ、神楽ちゃん!  さんがお土産くれたよ!」
 「え? お土産?! 食べ物アルか。さっすが ネ! いっただきまあああ…」
 「あー! ダメ! ちゃんと分けてから!」
 台所の会話を聞き流しつつ、 はいそいそと風呂敷を開けて見せた。
 「上手に出来たでしょ?」
 箱の上の透明セロファンからは、少ししか見られないが、何とも美味しそうなイチゴと生クリームの競演が銀時には眩く映る。金欠が続き、糖分が不足していたから余計に煌めいて見えた。特にイチゴのテカり具合。
 「 の手作りたあ、嬉しいねぇ」
 「えへー。味も多分美味しいよ。銀ちゃん一番に食べてね」
 「おー、ありがとな」
 銀時は の頭を優しく撫でる。ご満悦の は更に笑みを深くした。
 「来年は、俺と二人ででーずにーに行くぞ」
 「…今年行こうよ。クリスマス」
 「バッカ、オメー、クリスマスなんて大混雑だろーが。家でケーキ食ってりゃいーんだよ!」
 「言うと思った…。そんで、ハロウィンでもねずみのパレート見るよりは、家でひたすらお菓子食べてた方が良いんだよね?」
 「そうだ。何でねずみがカボチャに乗ってる様なんざ行列作って見たいかな? サンタもなあ、ねずみよりは銀さんだろ?」
 「もう、だから銀ちゃんとは行きたくないのよう! それに、でーずにーに行くなら、ちゃんとお金溜めてよね!」
 むくり、と片頬を膨らませた は、そう言い残して台所へ向かった。
 「…ンだよあんチクショー。それを言うなっつーの」
 ケーキの箱を見つめながら、今夜はドライブにでも連れて行くか、と銀時はぼんやり考えた。スクータードライブは少し寒いだろうが、二人くっついていれば大した事ではないだろう。
 来年も が隣に居る事を願って、満月が過ぎ少し欠けた月を、二人で見上げてみよう。












**たいっへん遅ればせながら、銀ちゃんおたんじょーびおめでとでーす!
 気付いたのが当日だったよ! なのに、忙しさと眠気に負けて、今頃アップです…。
 テンテン(懐かしの「来来! キョンシーズ」などの)や当麻兄ちゃん(トルーパー)は数日前にも当日にも思い出したのにね!!

*2006/10/17up