カタチ




あくる年の二月十四日、は、万事屋の台所に居た。
今日は万事屋のメンツは仕事に出かけている。ゆっくり作業が出来るというもの。
昨日百円ショップで買ってきた四つ葉のクローバーの型に閃きを貰い、バレンタインのチョコレート作りを始めた。
銀時に渡すメッセージカードなども幸せを運ぶクローバーで統一した構想。
「さあ、テンパリング開始!」
意気込んで刻みチョコレート、お湯、温度計と格闘し始めただった。
出来たものを冷蔵庫で冷やし固めている間に、メッセージカードを書く。愛の言葉は照れくさいが、銀時への愛の言葉を短く綴った。
チョコレートが固まった頃合いか、と冷蔵庫から取り出し、型から外す。
色とりどりの四つ葉のクローバーに、はにっこり笑って成功を喜んだ。


ガラガラと戸を開ける音がした。
「ただいま~」
気の抜けて間延びした声が台所まで聞こえた。
「銀ちゃん、お帰りなさい!」
は飛ぶように迎えに出る。
「あれ、新ちゃんと神楽ちゃんは?」
「夕飯の買い物に行かせた」
「あ、そう」
ということは、しばしの間、二人きりだ。
新八や神楽への友チョコ分も用意してあるが、本命の銀時とはサイズと量が違った。
居間兼応接間のソファに座った銀時を見て、はラッピングしたチョコレートを取りに台所へ向かう。
チョコよーし、メッセージカードよーし、ラッピングよーし、全方向問題なし!
「銀ちゃん、ハッピーバレンタイン!」
が笑顔全開でチョコレートを差し出すと、銀時は「待ってました」という本心を隠しつつ「あれ、今日バレンタインだっけ?」とうすら惚けた。
「そうだよ! チョコ貰ってくれる!?」
「ああ、俺にくれるっつーんなら、もちろん貰う」
「開けて開けて!」
言われるままラッピングを開けると、四つ葉のクローバーの形をしたチョコレートがいくつも出てきた。
「……………」
沈黙する銀時に、は疑問を覚える。
「? 銀ちゃん、どうしたの?」
嬉しそうではない銀時に不安を感じ、恐る恐る訊いた。

「………ハートじゃないのか」
ぼそっと呟かれた銀時の言葉に、は飛び上がりそうになる。
理解した。
「えっと、あの、銀ちゃんやこの万事屋に幸せが訪れますように、って願っての形なんだけど…」古今東西、チョコレートの形はさまざまある。形が四つ葉のクローバーだろうが、バレンタインのチョコレートには違いない。
しかし、銀時が期待していたものと違ったと分かり、は慌てた。
「ごめん、このチョコ刻んで溶かせばまた使えるから! ハート型のチョコ、いますぐ作るね!!」
普段クッキー作りに使っているハート型がある。それに流し込めばいい。
銀時の手からラッピング袋を奪い取り、ダッシュで台所へ向かおうとする。だが、銀時はの手を掴む。
「ハートがいいな、とは思ったけど、『銀ちゃんを世界で一番愛してる!』なんてメッセージつけられたら、どんなものでも、それは俺のためだけのチョコレートだよな?」
「もちろん!」
は大きく頷いて肯定した。
「ハートも愛も、ここにある」
メッセージカードをに見せながら、銀時は言った。
「なら、チョコの形を変える必要はねーよ」
は銀時に手を引かれて、ソファへ導かれる。
、ハッピーバレンタイン?」
少し楽しそうな響きを含ませた声で、銀時が言う。そのまま抱き寄せられ、口づけられた。
「……銀ちゃん」
「俺もを世界で一番愛してるから、幸せを運んでやるよ」
もう一度口づけられ、は幸せで満たされる。
視界の端に、机の上に置かれたラッピング袋が入る。四つ葉のクローバーのチョコレートが、幸せの錯覚でハート型にみえた。
これからは、来年も、再来年も、これからは銀時のためにハート型でチョコレートを作ろう。
どんな形でもからの愛を銀時は受け取ってくれるだろうが、ハートが一番的確に、そしてストレートに大好きを表せると思えた。
銀時はというと…。
目がハートになっているに満足して、三度目のキスは深く甘く…つい執拗なくらいになってしまった。








**銀ちゃんらしさって何ですかね……? と震えながら思います。
お前本当に毎週ジャンプで銀魂読んでるの? という感じ。
読んでますとも。最近の涙を禁じ得ない展開に打ち震えながら読んでますとも!
*2015/01/27 Write
*2015/02/09 up

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