DO YOU KNOW? 「…って、銀ちゃんが云ってたネ」 ああ、またそれか。 銀ちゃん。銀ちゃん。銀ちゃん。 あの旦那の悪影響で要らねー知識を覚え込んでいたり、 驚くほど真っ直ぐな意思を学んでいたり、 あの男の存在を、影響力を、嫌というほど思い知らされる。 「チャイナは旦那の受け売りばっかじゃねえかィ」 「何言ってるヨ。それは、銀ちゃんの云う事が信じられるからアル」 傘の影の中でも、ひと際輝く白い笑顔。本当に信じていなきゃ、出来ない笑みだ。 「大抵は私の好みの考えと一緒だし。…あー…まー、くっだらねーコトもあるけどな! 平気で嘘つくし! こないだなんかねー、聞けよチクショー! ずっと牛肉だと思っていた肉がだぜ? 何と、只の豚肉だったアルー!! クリスマスに食べた肉まんと同じ豚肉だったのヨー!!! もうあの天パ殺してー!」 キーキー、ジタバタと暴れ出すチャイナを横目に見ながら、万事屋の旦那のついていた、確かにくっだらねー嘘に思わず口元を緩めた。 俺的にゃあ、そんなのにまんまと騙される馬鹿チャイナが可愛くて仕方ない。 牛肉、喰った事ねーのかィ。 素直に食事に誘う事もままならない性分が、ちょっと憎い。我ながら。大人しく食べていられる訳がないから、牛肉を巡って、ひたすらバトルになりそうだし。 お、いーじゃねーか。楽しそうだ。 近藤さんに掛け合って、屯所でスキヤキでもやれねーかな? バーベキューでも良いなあ。 そうしたら、いくらでもチャイナ一人連れ込むくらいは、してやるさァ。 二人きりにはなれなくても、万事屋の旦那からひっぺがす事が出来るんなら今のところは御の字だろう。 「そんなに牛肉喰いたいのか?」 「うーん、乳臭くてイマイチネ。豚の方が好みアル。鳥肉も好き。ていうか、肉が好き」 「って、結局喰ったんかィ!」 「うん、お登勢さんって謂う大家さんが居るネ。その人が持って来てくれた」 バーベキューだな、こりゃバーベキューに決定。牛も豚もイケる。鳥も…、ま、何かメニューあんだろきっと。 「で、この私がぜ〜〜んぶ! 飲み干してやったアル。その時の銀ちゃんと新八の顔と来たら、ケッケッケッケッケ!!」 悪どい笑みと声を出すチャイナは、すごぶる楽しそうだ。 でも、また出たよ、あの名前。 眼鏡のにーちゃんはこの際どーでもイイ。 そうやって喋っているうちに、万事屋に着く。 公園で一戦交えた後、チャイナに暴れ回られちゃあ市中被害甚大、家に着くまで暴れないよう監視してやる、そう言って肩を並べて歩いた。 「じゃ、俺は仕事に戻らァ」 「おう! 税金分しっかり働けよ、官僚! でないと酷いアル」 「いわれなくても判ってらーァ」 「死ぬ程度に頑張れよ!」 ふつー、死なない程度に、だろーが。馬鹿チャイナ。 「俺は過労死なんかしねーよ。殉職も、土方さん身代わりにするからアリエナイ」 憎まれ口は叩き放題だし、別れの挨拶もしない。 手を振るような真似は、勿論の事、ない。 振り返らずに去る。 チャイナが階段を登る足音に、名残惜しさ、一抹。 そんなちっせーモンは、また、あの名前を聞く事で、見事に飛散・消失する。 「ぎーんちゃあああん! たっだいまー!」 やけに弾んだ声で。 あの馬鹿チャイナの事だから、きっと小さな身体ごと弾んでいたかも知れない。 言わなきゃ気付かねーだろうし、言うつもりも今のところはないんだが、どうしてくれようこの沸々生まれる黒い感情。 赤い色も見える。 けど、どーしても、チャイナの口から旦那の名前が飛び出る度、黒い方が多くなるんだよなァ。 責任取って、少しはこの苦しみを理解しやがれ、馬鹿チャイナ。 おめーは知らねーだろうが、和らげられるのはおめーしかいねーんだよ。 だからせめて。 万事屋の旦那の名前を呼ぶの、減らしてくんねーかィ? って思うだけじゃ、減らねーどころか増えそーで、嫌だ。 振り向きたくなかったけど、振り向いて万事屋を見上げた。 笑い声が聞こえる。 周りに真選組の見回り連中が居ない事を確かめて、構えた。 右手を拳銃型にして、見えもしないチャイナに向かって。 撃つ! 撃ったのは、何だろう。 何でもいーや。 何か届いとけ。
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