ドリーム小説

I want to delete.





 「あれ、っつかしーな、出来ねえ」
 屯所の廊下を歩く に、総悟の独り言が聞こえた。何をしているのだろう、と思い、足を速めた。
 「総ちゃん、近藤さんの出張土産、貰ってきたわよ。入っても良い?」
 「はい、どーぞ」
 平坦な声で返事が返って来たが、部屋に入って見た総悟の顔も、困っているだろう割にはいつも通り無表情で携帯電話を操作していた。
 しかし、 の方を向くと困った顔で言った。
 「セキュリティが上手くかけられないんでさァ」
 捕物中に大暴れした総悟は、周囲に器物破損の被害を与えて、更には自分の携帯電話にまで修理不可能なダメージを負わせた。そこで、まだ発売されたばかりの目新しい機種に乗り換え、自分好みにカスタマイズしていたのだった。
 幕府関係者の親しい人、といえば松平くらいのものだけれど、情報セキュリティに関しては携帯の電話帳も守れときつくお達しが出ているからロック関係の設定はサボれない。
 何より、 の電話番号や貰ったメールはちゃんと守りたいと思っていた。
 「これ、この さんから貰ったメールをフォルダ作って振り分けたんです。でも、フォルダを隠したいんですが、全然消えねーんですコンチクショウ」
 「あら、偉い。ちゃんとバックアップ取っておいたのね? ふんふん、このメーカは私が使っているのと同じだわ。私のより三世代も新しいと変わってることもあるけど。ね、取説見せて」
  は慣れた手つきで携帯電話を操り、時折取扱説明書に目を落とした。
 「はい、終わり」
 「あ、スゲエ! ちゃんと消えた! ありがとうございます!」
 「どういたしまして」
 「次は、写真のフォルダも作りますね。えーっと、フォルダ名編集…」
 総悟が操作を始めると、こちらへどんどん近づいてくる声が聞こえた。近藤と土方だ。
 「よし、『消えろ土方』」
 「ンだとコルァアァーッ!!!」
 聞きつけた土方が勢い良く障子戸を開けた。
 「何ですかィ、ノックもなしに無礼な」
 「うるせーよ! お前に無礼とか言う資格ねーよ!」
 うるさいのがそろった、とぼんやり思っていた は、廊下に近藤を見つける。にっかり笑って総悟と土方のケンカを眺めていた。
 「よう、総悟、ただいま」
 「お帰りなさい、近藤さん。新隊士募集、どうでした?」
 「ん、まあ、ぼちぼちな」
 近藤に聞かれて、総悟は と一緒に携帯電話をカスタマイズしていたことを話した。
 「じゃ、お次は電話帳別行きますぜ」
 土方は総悟を見やり、注意した。
 「バッカオメー、そんなん一括してロックしときゃいいだろーが」
 「それもしますよ。でもシークレットも作っときたいんです。で、テストで電話帳作って…と」
 テストで、というのに疑問を持ちながら、土方は総悟の携帯電話画面を覗き込んだ。
 「名前は『消えろ土方』」
 「やっぱりかテメェエエェエェッッ!!!」










**人様の相談に乗り、電話帳がシークレット登録しても消えないとかいう話を解決したため思いついた小話。っつーか、そんなことがあったと五、六ヶ月も経った今更思い出して思いついた、が正しいですが。
*2007/12/27


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