ドリーム小説

焼けないオモチ





 夕刻、大江戸スーパーから帰る途中、 は見知った顔がやってくるのに小さく声を上げて銀時に知らせる。時々、神楽や定春と行く公園で犬の散歩をしているおじいさんが居たのだ。
 「おお、 さん。こんばんは」
 「こんばんはー、おじーちゃん。あれ、いつもより散歩の時間遅いですね?」
 「ああ、ちょっと保険屋の人と話をしていてな」
 鳴いてその存在を知らせるおじいさん自慢のサモエド犬が、 に微笑んでいた。彼女も思わず微笑んで挨拶をした。サモエド・スマイルは、相変わらず優しくて素敵だ。
 銀時もおじいさんとは二、三度顔を合わせたことがあったので、軽く挨拶した。
 「そうだ、 さんにこれあげるよ」
 「何ですか?」
 「でーずにーらんどの、めっきーだよ」
 「いやだ、違いますよ、みぇっきーですよぉ…。って、ホントですか?」
 「ああ、保険屋の人がくれたんだけどね、儂と婆さんが持っててもねえ。何か、喋るオモチャらしいよ?」
 「ほーんとーですか!? ありがとうございます!! ありがたく頂きます!」
 「ちょっとそっちの端に寄って、中見てごらん」
  はおじいさんの手から白い箱を受け取り、道の端に駆けて行った。そして、でーずにーのロゴシールを丁寧に剥がし始める。
 「…どうした、万事屋さん? 何だか面白くなさそうじゃのう?」
 確かに、銀時は顔をしかめていた。人の流れの中止まっていたので、人にぶつかられた。
 しかし、おじいさんは、その前から銀時の機嫌が少し悪くなったことに気づいていた。
 「別に…」
 「そうか? じゃ、儂らも端へ行くか」
 おじいさんに誘われて、銀時も歩く。しかめっ面のまま。
  は往来にも関わらず、みぇっきーのズボンの黄色いボタンを押した。箱の裏の説明によると、ズボンについてるボタン二つの他、両手の内側にあるボタンを押しても喋るらしい。
 「ぼく、みぇっきー・もーすだよ! よろしくね! ははっ!」
 「可愛い! よろしくお願いしますッ!」
 人形に向かって頭を下げる に、銀時は片目を細めた。
 「おーい、こんなところで遊んでんじゃないよお嬢さん。ねずみと遊んでないで、晩飯作って下さーい」
 「わ、判ってるよ! いいじゃんかちょっとくらい!」
  が早口にまくし立てると、銀時も速攻で返した。
 「 のちょっとは長いだろうが! 特にそのねずみが関わると!」
 うっ、と口ごもった は、仕方なくみぇっきーを箱の中に戻し、おじいさんにお礼を言って歩き出した。
 おじいさんも手を振って見送る。
 銀時はスーパーの袋を右手から持ち替え、じゃあお気をつけて、と去ろうとした。
 おじいさんは「ああ」と返しながら、銀時から の背中へと視線を移した。
 「…可愛らしいのう」
 「…は? 何が?  が?」
 「 さんもじゃが、お主がじゃよ」
 「は? 何気持ち悪いこと言ってんの? は? じーさん、冗談はよせ」
 心底嫌そうな銀時に対し、おじいさんは快活に笑った。
 「そうじゃない。要は万事屋さん、みぇっきーにアレじゃろ、ヤキモチじゃろ?」
 「だーから、冗談はよせて。なんっで俺がねずみごときにヤキモチなんぞ!」
 「 さんは、大のでーずにー好きとしてこの界隈でもちょっとは知られておる。さっき肩から掛けておった鞄にも、大きなみぇっきーのぬいぐるみが居たしの」
 「 のアレは確かに熱狂し過ぎだが、ヤキモチなんて妬かねーよ。何かぁ、かっこ悪いじゃん俺そんなあんな一匹のねずみにさあ〜〜」
 銀時は否定をするが、おじいさんは楽しそうに笑うだけ。
 「違うって! つか、何で犬にまで笑われてんだ俺?!」
 「そういう犬なんじゃよ。儂もなあ、婆さんがピ・ユンジュンに熱を上げた時なんか、きゃつのポスターに包丁を突き立てたもんよ」
 懐かしそうに目を細めて微笑するおじいさんに、銀時はゾクリとおぞましいものを感じた。
 「あんた、そんなことしたのか…」
 「婆さんが飾った特大ポスターには、まち針を一山分で済んだんじゃがの、さっすが等身大ポスターは許せんくてなあ…」
 銀時の頭に、待ち針を一山分刺された哀れなポスターが浮かび、身震いに似た小さな振動が体を駆けた。
 「もうっ! 銀ちゃん! 置いてくよ!?」
 勝手に先に行った が、銀時を心配して戻って来た。
 「 さーん、勝手にズンズン行ったくせに何言ってんの? 銀さんが居なくて寂しかったなら、ちゃんとそう言いなさい」
 「寂しいわけないですー。早く帰ってみぇっきーと遊ぶんだもん!」
 「晩飯が先だァ!」
 夕日に向かって、今度こそ去って行く二人に、おじーさんと犬は微笑みを交わした。









**勤め先で自慢げに某ねずみのオモチャをゲットしたと、この手の物は自分が欲しいと言えばくれると言っていた人が居ました。私には自慢げに聞こえましたし、少なくとも仕事が始まる前に二人の人に自慢していたくせに、「この笑い声がむかつくよね!!!」なんぞとのたまっていやがりました。てめえ、仕事場にまで持ち込んで何がしたいんだコノヤロー!(←超特大級の怒りの欠陥マーク付で)
 
ていうか、それあたしに寄越せェェェェェ!!!
 挙げ句の果てには「だって
この笑い声、絶対馬鹿にしてるもん!」(ねずみの王様好きの人のために白字にしました。気になる方は反転して下さい。殺意を覚えてしまっても責任は持ちませんのであしからず)とまでぬかしやがる始末。
 貴女とは気が合わないなと思い続けてきましたが、まさかここまでとは思いもよらない。

 その怒りの中仕事をしたんですが、ふと手空きになった時にこのネタが思い浮かびました。ただじゃ起きねえぞ、コノヤロー。…ネタにすることで少しは気が紛れたような紛れなかったような…。
 つか、あの喋るオモチャ、保険会社の特典みたいなのじゃなくて、子供英会話か、未就学児童のための教材あたりの特典じゃなかったっけか…(CMで見たことがあるんですが)? と、はっきりしないまま、ねずみの王様の行方はようとして知れません。かわいそう。ちゃんと持って帰ったのか?
 あ、あと、どこ押すと喋るのかも実は知らなかったりします。サモエドちゃんのこともそう詳しくないです。姿と名前が好き。ピ・ユンジュンの元の名の人も好きです。まち針の件は、真珠●人のアレです。お婆さんには仕返しとして、たわしコロッケを食卓へ出したというエピソードが…あってもなくてもいいです根!
*2008/03/29up



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