「…やっぱり降ってきたな」
紂王は片手で顔を庇いながら、曇天を見上げた。
「ほんとだね。ちょっと待って。折り畳み傘出すから。あ〜、けっこお強く降ってきたね…! こんなことなら、社員食堂でランチにすれば良かったかも」
「傘貸して。持つよ。」
「さんきゅ。って、ちっさいからコレに二人はキツイね…。ま、ちょっと急いで帰ろ。紫陽花は濡れても風情あるっつーか、綺麗だけれど、ウチらは何にもいいことねーっすからな」
は人様の庭先に見える青紫の紫陽花を見ながら言った。
二人はランチを食べに、会社から十分ほど歩く中華料理屋に行っていた。人通りの少ない裏道を通って会社に帰る途中だ。
「そうだなぁ。もう紫陽花の季節か」
「つか、もう梅雨入りしているよ」
「そうか」
「私、紫陽花って色合いが綺麗で好き。この通り道だけじゃなくて、結構この辺は紫陽花咲いているところ多いんだよ? 仕事帰りに雨止んでたらちょっと寄り道して行こ? 駅から少し歩いた小さな公園にね、去年、紫陽花が綺麗に咲いてたの。今年もそろそろだと思うんだな。大振りの白い紫陽花だったよ」
紂王はにこにこしながら言った。
「白か。たまにはそんな寄り道もいいな。そうだ、今度デートしよう。調べれば、どこかに紫陽花園とかあるんじゃないか? 植物園にもありそうだよな。蓮や睡蓮も見れるかもしれないし」
片目を細めたは、低い声で言う。
「でえと。…その名称にはやや抵抗がありますが、まあ、イイでしょう」
「抵抗って…。あれ? と恋人になったんだよな?」
「……はい」
「そう嫌そうにされると傷つくなあ…」
の横顔を上から見下ろしながら、紂王は悲しそうに言った。
「ぅううっ。…嫌じゃないもん。紂は好きだもん。でもまだ何かヤダ」
「その複雑さはよく判らんが…。まあ、今年はもっと深い仲希望。プールか海水浴に行ったり、浴衣で花火大会も王道っぽくていいなあ。うん、見たい」
想像して、頬が緩む。紂王は期待を込めてを見た。
「……まあ、浴衣なら」
「そうか、よし! 着てくれるか! 、愛してるぞッ」
「ぎゃあ! くっつくな! 濡れるだろ、バカ紂!」
小雨に濡れながらじゃれ合う二人は、端から見るならどう見ても、ただのバカップル。
**拍手用に台詞だけで書いていたものを、ちょっぴし手直し。
*2010/03/31up