いわれている本人としては誠に遺憾ながら、ここ最近の への周りの評価は、「お母さん」である。 To other somebody 確かにこの愛おしさは、子供を愛する母親のそれに近似しているかも知れない。母性が強い、といえばそれまでだが、可愛い弟分であるナルトは、やはり子供とは違う。 寝顔を見つめて、ナルトの服のボタンをつけ直す我が身では、自分自身にさえもやや説得力に欠けてしまうが…。 自分の血と肉を分かつ子供や姉弟でなくても、ナルトとの家族のような暮らしはとても幸福に溢れていた。 穏やかな空気。 時間。 空間。 寝息。 鼓動。 ナルトが紡ぎ出す、全てのリズム。 この一瞬でさえ、愛おしい。 壊したくない、壊されたくない、大切な時間。 そして、いのち。 明日は、うずまきナルトの誕生日である。 生まれてすぐに数奇な運命を背負わされた少年は、すくすく元気に、元気すぎるくらいに育っていた。 まばゆい金髪に、瞳もきらめき、身体全体から光のオーラを放っている。発せられる声だって、とびっきり明るいものだ。 「ねーちゃん、ねーちゃん! ねーちゃあん!!」 サクラに「シスコン」といわしめる程のひっつきぶりで、 と見れば飛びつくのが当たり前。子犬のようにじゃれるナルト、とことこ後をついてくるナルト、振り返れば、最高の笑顔をくれる。 ああ、愛おしい。 この子を護りたい。何者からも、何事からも。あらゆる事から、護り抜いて見せよう。 忍術の習得は困難が多いが、ナルトと同じ忍者になると決めた。同じ道の力でしか、護れない事もあるから。 いつも、いつでも決意をする。 毎夜、毎夜。 毎朝、時には寝惚けていて昼間になる事も…。 今日を無事に終えられた事に安堵し、 は寝る準備を始めた。 月は満月を過ぎ欠けていたが、明るく輝き、優しいミルク色の光で里を包んでいた。 「 ねーちゃん、おっはよーーー!!!」 最後の目覚まし時計である、 の黄色ネズミのアラーム音が鳴り響く中、ナルトはネズミに負け地と大声を張り上げた。 朝の弱い は、今日も死にそうな気分で起き上がる。 「うはよーーー…」 「もー! しゃきっとするってばよ! 今日はオレの誕生日なんだから、ごーはーんんんん!!! ご馳走!」 「それは晩ご飯にね…。ケーキも夜です」 フラフラと洗面所に向かい、 は顔を洗った。 今朝は和食だ。夜に洋食メニュー目白押し攻撃を仕掛けるため、という理由と、二人が手を抜けば、例外なくトーストとコーンフレークだけになるから…。時々は栄養を考えて、玉子料理を作ったり野菜&フルーツのジュースを飲んでみたりもする。 基本的に二人揃って野菜が苦手なので、意識的に取り入れないと、物凄く偏った食生活となるのだ。ナルトはひたすらカップラーメン、 は肉とスイーツ。 が小さなボールに生野菜を盛れば、ナルトは冷蔵庫から和風胡麻ドレッシング・甘味を取り出す。 この魔法のようなドレッシングを掛けてなら、二人は野菜を美味しく食べる事が出来た。 他のメニューは、白ご飯に鮭フレーク、玉子とワカメとじゃがいもの味噌汁、いわしのみりん焼き。 が食卓を整えている間に、ナルトは植物への水やりを終えた。いつもの朝の出来事である。 「さ、食べましょう」 「いっただきまーす!」 食べている途中で、ナルトは今日の修業内容について話した。 「そんでその失敗がさ、おんなし事の繰り返しで、ちーっとも上手くいかねーってばよ。あーあ、早く ねーちゃんに新技見せたいのになぁ!」 不満を隠さず、眉根を寄せて唇を突き出すナルトは、溜め息を飲み込むようにご飯をかき込んだ。 「楽しみにしているわよ? ナルトは成長が早いから…」 「え? エヘヘ。そう?」 「そう。ホント、早いわあ」 子供の成長期くらい、素直に喜ぶべきなのだろうが、小さいもの好きな にとっては、ナルトの背丈が伸びる事が、少し残念でならない。いや、丈夫に大きく育ってくれなくては困るのだが。 ナルトは「成長が早い」の意味を別に捉えたようだったけれど、確かにその意味合いも含めて言った。 抜群の術行使能力とは言い難いが、ナルトは覚えが早い。物事の構成の理解が不得手でも、コツを掴めばあとは完成へ一直線。勿論、術を覚え、一度くらい成功させたからといってそこで終わらないのが忍術である。 しかし、 は、それは他の物事にも通じるな、と思い直した。 そして、自分を省みる。水遁と土遁、幻術、変化は問題ないのに、火遁が苦手だ。他の事ならば、 はそつなくこなせた。 来週のテストまでには、火遁基礎の術の幾つかは出来るようにしなければならない。 「あ、今日は何時くらいに帰れそう? イルカ先生は、定時より少し遅くなるとおっしゃっていたわね」 ナルトの誕生会に、イルカも参加する事になっていた。 「エロ仙人は、誕生日だからって早く終わってくれねーってばよ。まあ、オレも中途半端な感じで終わるのは嫌だけど…。うーん、でもなあ…。ねーちゃんやイルカ先生待たしとくのも悪いし…」 「いいのよ、私達は。真夜中に帰ってこられたりしたら、困るけどね」 「…ニシシシシシ! そうか、そうだよな! イルカ先生と ねーちゃんが二人っきりなら、オレいなくてもいっか!」 「何バカな事言っているの? 味噌汁顔面にぶち掛けられたいの? 主役が居なくて何が誕生会ですか」 「でもさ、イルカ先生はきっと喜ぶと思…」 「ナルト、このいわしのようにみりん漬けにしてやろーか?」 はにっこりと微笑んだ表情を維持したまま、別人のような低い声でナルトを脅した。 「………ごめんなさい」 「よろしい」 そのまま互いに無言で朝食を済ませた。 出掛ける時間まで、あと十五分ほどある。ゆっくりベッドで寛ぎつつ、ナルトは甘えた声を出した。 「 ねーちゃん、オレ、イチゴいーっぱいのケーキが食べたいな。ねーちゃん作ってくれる?」 「ええ、いいわよ。作ってあげる。スポンジに挟むのも苺にしちゃう」 「ホント!? いやった〜ぁ! オレのは大きく切り分けてね! 絶対残さないから」 言いながら に抱き付いたナルトは、満面の笑みを見せた。 そう、この笑み。 この倖せそうな、そして、どこかしらいたずらっ子の表情を隠し切れないナルト特有の笑みが、たまらなく愛おしい。 はナルトの髪を撫でつつ、呟く。 「今日も明日も、もちろん明後日も、ナルトにとって倖せな日でありますように…」 「…アリガト、 ねーちゃん」 「ナルトに会えて、本当に良かったと思うの」 頭上から聞こえる声が、いつもにも増して優しい。ナルトは を見上げた。 「だからね、ナルトには、倖せになって欲しい。私をこんなに倖せな気持ちにさせてくれるのだもの。貴男の倖せを、願っているわ」 ナルトは、 こそ自分を倖せにしてくれる、と思った。温かな手、声、眼差し。知っているようで知らない、懐かしいのに懐かしくない、欲しかったのに手に入らなかったもの。 それを、この人はくれる。 「ナルト、生まれてきてくれて、ありがとう」 ほら、くれる。 「私に倖せをくれたように、他の誰かにも、そうね、貴男の大切な人にも倖せを運んであげてね」 ナルトはもう一度 に抱き付いた。 が痛がらないよう、力一杯抱きしめたい気持ちを我慢して。 「……なんて、私が言うのもナンだけどね。そんな気がするけどね。言っておきたかったのさ〜」 おどけて言った は、ナルトを抱きしめ返す。 「私が言わなくても、貴男はきっと、知らずにやってのける。それは本当の優しさだと思うわ。掛け値なしの優しさは、ちゃんと自分にも戻ってくるからね、ナルト」 「うん、判った。ってーか、今、戻ってきてるから、ホント良く判るってばよ」 「ん?」 「 ねーちゃんから、今、ちゃーんと貰ってる♪」 笑い合いながら、離れた。ナルトは相変わらずの笑顔だったが、モナカ同様、笑いながらも少しだけ涙を浮かべていた。 「お誕生日おめでとう、ナルト」 「うん、ありがとう!」 ナルトの笑顔が続くようにと、いつでも願っているよ。 貴男のために、私のために。 君のその笑顔こそが、私の倖せの源だから…。
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