RUN&RUN !! 1 ナルトは家に残してきた が恋しくなった。 (やっぱ、 ねーちゃんに来てもらえば良かったってばよ) 中忍試験合格の為、ナルトは一人修業を積んでいた。口寄せの術を会得するまでは、家に帰らないと決めた。 はナルトに軽く言ったのだ。 「あたしついてってあげよっか?」 いつもの軽口で。 「だってあんた一人じゃ心配なんだもん。あたしが居ないと!」 「心配ねーって、 ねーちゃん居なくったって、俺一人で充分だってばよ!仙人っていう、何かすげーらしーヒトが教えてくれるんだし!!」 強がり、といえばそれまでのもの。 しかし、 と過ごした半年は掛け替えのない時間になっている。 うずまきナルトの、二人目の理解者。 。 彼女は、突如木の葉の里に舞い落ちた。昏く歪んだ空間から、にゅっと現れたのだ。ナルトの目の前に。 当の は、気が付くなりあっさり事実を受け入れて、いずこかへ去ろうとした。 ナルトが引き止めて、雨の夜の一宿を貸して以来、 はすっかり居着いてしまった。二人はすぐに打ち解け、楽しい日々が始まり、ナルトは のことをねーちゃんと呼ぶようになる。 も、ナルトを弟のように可愛がった。 一人で暮らしてきたナルトは、家族が出来た思いだ。離れることがあるのも、仕方のないこと。少しくらい、あったって、いい。 ナルトは忍だ。まだ駆け出しの下忍だが、忍者なのだ。子供だからといって、甘えは許されない。それは解っている。けれど、淋しい。 だったら、修業を早く終わらせるに限る。 どれだけ淋しくとも。どれだけ辛くとも。 自分の為に強くなる。それは大切な人を守る為。それはやはり自分の為。 必ず強くなって、ねーちゃんを護るんだ! 決意。ナルトの心を包んで、飛翔させる想い。 徐々に高まる力を感じた。体内を駆け巡る『チャクラ』は、ナルトの体力を奪い去ってゆくが、彼はチャクラコントロールを止めたりはしなかった。 「口寄せの術!」 ボンっと出て来たのは…まだしっぽのある蛙一歩手前の生き物だった。 「……」 修業場に選ばれた河原で、ナルトは自分をほったらかしにして覗きをしている、自称ガマ仙人の自来也に突っ込んだ。 「ちっとは期待しろってばよ!!」 自来也は茂みの隙間から目を離さず、怪しい笑みを浮かべたまま水遊びをしている女性たちを見続けた。 突っ込んだあと、力の果てたナルトが倒れる。 二十一日間もの間、ずっと修業を続けっぱなしだったのだ。倒れたのも一度や二度ではない。自来也は一考して、ナルトを担いだ。 は苛立っていた。ナルトが危ないというのに助けに行けないのだから。あの自来也とかいう大男は、ナルトを危険な目に遭わそうとしている。自来也の目の前には崖が広がっていた。ナルトはまだ目覚めない。 ならばどうするか。自分ならば、荒いが崖から突き落とす。 ナルトや火影から九尾やチャクラの事は教わっていた。ナルトの力の発現が身に危険を感じた時や、激しく怒った時という事ならば、わざと危険な目に遭わせるのも有効な手のひとつだろう。そんな事は判っている。 しかし、落ち着かない。 「う〜〜〜」 歯がみして唸っても、声は届かない。ここは木の葉の里。火影の部屋である。 「ちょっと! 火影様! ナルトがついに堕とされましたよ!! あの人何なんですかぁ?!」 三代目火影が術を使い、水晶玉に映像を映していた。悲鳴を上げる に、火影は落ち着いて言う。 「……いや、見てみろ。ナルトの中に居る、九尾が動き始めたぞ。ただでは死なん奴じゃ。自衛の為に、ナルトに力を貸すじゃろう」 の知識の中でも、九尾の狐といえば戦慄するに値する敵ばかりだった。玉藻前、蘇妲己、摩掲陀国(まがたこく)の華陽夫人、上海の九尾社長…。どれも違う九尾狐狸精だったが、この世界にも違うのが居るらしい。 それも、よりによってナルトの中に。 封印という形をとっているが、暴れ出さないという保証も、封印が破れないという保証も無い。現状維持が出来るとして、こういった強大な力というのは悪用されるのが相場だ。例えナルト自身にその気が無くとも。 はそう考えると、自分の力の全てで、可愛いナルトを守りたいと思った。 力の理の異なる世界で出来ることなど、たかが知れていたけれど。 そういう時の為のとっておきが、 には幾つもあった。今まで生き抜いてきた証でもある。 思考を続けながら、水晶に映るナルトを見守ることしか出来ない だった。 「おわ! すげえ! でっけー蛙ぅ」 「あれは、ガマブン太…!」 「がまぶんた??」 「そう、忍蝦蟇のガマ親分だ。…懐かしいのう。あれを見るのは四代目以来だ。九尾のチャクラをもってすれば、ガマブン太を呼び寄せる事は可能だからな」 「んじゃ、一番強いんだ〜。スゲーな、あの蛙」 ナルトは何とか九尾の力を借りて口寄せの術に成功し、巨大な蝦蟇蛙を呼び出した。 ナルトが安全になったと気が抜けたのか、 は人格が変わっていた。火影は、一体何人の人格が の中に居るのかと思う。 多重人格。 これが、周りの人間が一致して評価する の特徴である。 本人には大した事ではなく、自然に、気分次第で口をついて出る言葉が違うだけ。多重人格とは思っていない。 もともと、誰でも持っている。 例えば、身近でいうと、電話に出る際に声色が変わる人はいないだろうか。改まった場では一歩引いて謙虚になったり、初めて会う人には、いつもとは違う自分を演じてしまう―…。そういった打算や感情の機微が、 の場合はダイレクトに出る。極端な性格の所為だろうが。 勿論、わざとそう見せている時だってある。 は自分の全てを武器にする。 「うわー、これでやっとナルトが帰ってくるぅ! わーーい!」 ハッピィ、ハッピィ♪と小躍りする を横目で見ながら、火影はナルトの成長と、取り巻く環境が見事に変わった事を嬉しく思った。 その日の夕方。 はやまなか花という花屋でお見舞い用の花束を購入して、木の葉病院に戻る所だった。あれからナルトは気絶してしまい、ガマブン太により病院に運ばれた。 医者の話では、暫く目を覚まさないという。 「ボク、どうしよ…」 この世界の事を、もっと良く知らなければならないと痛感した。一口に忍といっても、今まで関わってきた世界とは違う。チャクラなどの単語の意味、使い方は知識として覚えているが、この世界では多少異なるようだ。 もともと今日火影の元を訪れたのも、今居る世界について知る為だった。 そして忍の術を学ぶ為。 遺伝などの生まれつきの素養が無いと、扱えない術もあるそうだが、 とて、チャクラの流れる人間だ。出来るだろう。…やらなければ。 病室に入り、用意してあった花瓶に花を挿す。店員の女の子の勧めで、水仙を買って来た。 大切なものを護るにはちからが要る。 理想を語るならそれに見合うちからが要る。 は、ナルトの寝顔を見ながら、忍としての訓練を受けようと決めた。 夕日がナルトと を照らす。茜色の世界で、ナルトの寝顔はとても穏やかだった。 ■余談? 歴史上では、九尾の狐というのは妲己、華陽夫人、玉藻前の順に名は変わっても、同じ九尾だという解釈のようです。マジでか? 因みに、ダッキは古代中国・殷王朝の王妃、カヨウはインド方面の王妃、タマモノマエは平安時代の妃。鳥羽院…鳥羽上皇の寵愛を受けた人です。 更に、九尾社長というのは、ガンガン・ガンガンWINGに読み切りとして載った「上海妖魔鬼怪」(荒川弘先生作)に出てくる、おっかない社長さんです。そして格好良い。 何で九尾社長が例えに出るかって? 好きだから。(←ミもフタもない) |
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