「こんばんは。ってことで、宜しくお願いしま〜っす!」 「はい?」 「 ねーちゃんをヨロシクだってばよ、イルカ先生!」 木の葉の有名ラーメン店、一楽の前で。 会うのはこれで二度目の とイルカ。 はにっこり笑って会釈をした。イルカは困ってナルトを見る。 「あれ? 火影のじーちゃんから聞いてない? 明日から、ねーちゃんってば、アカデミーの生徒なんだってばよ! そんで、イルカ先生のクラスなの」 「そうなのー。です」 またもや は微笑む。ナルトの両肩に手を添えつつ、イルカを直視。 「はああぁあ?!」 突然の事に、イルカの困惑度はメータを振り切る手前へ来た。 「ま、ま、説明はラーメンを食べながらにしましょうよ。もー私、お腹ぺこぺこで」 「オレもオレも!」 「え、あ、ちょっと!」 「おっちゃーん、味噌ラーメン大盛りひとつー!」 ナルトと は早々と店内へ入って行く。イルカは仕方なく後をついて行った。 夫婦と入れ違いで席が空く。ちょうど三人分横並びの空きが出来、離れて座らずに済んだ。カウンタ席の奥からナルト、 、イルカの順に座る。いつもは店主の前に座れるのだが、今日は他の客が沢山居た。 初めて座り、いつもと違う角度からの店内景色を一通り見て、イルカはメニューとにらめっこしている を見た。 。得体の知れない女。だが、ナルトはすっかり懐いているし、火影も の事を認めているので、里の者は が木の葉の里に居る事に強く異論を唱えられない。 ナルトは、 と出会った経緯は火影にしか話していないから、イルカは少し不信感を抱いている。 が里に居着いたのは、ほんの半年程前だ。元・木の葉三忍の大蛇丸の影がちらつく昨今、里の中から崩される恐れもある。 時期から考えて、最適。いや、露骨すぎるか…。 一部の上忍、中忍には大蛇丸の事は伝わっている。中忍試験に参加した下忍には、里の一般の者やアカデミー生徒、他の下忍には伝わらぬよう箝口令が敷かれていた。 それでも、少しずつ、ピリピリした空気がある。 海野イルカは、 の事を知ろうと、注意深く彼女の観察を始めた。 この、木の葉の里の一員として迎えると、火影が決めたのだ。 火影様を信じている…。 の事も、信じる事が出来るか? 否、今はまだ。 「すみませーん。しょーゆとんこつと、ミニチャーハン、杏仁豆腐のセットひとつー」 の幼い声が店内に響く。看板娘が了解の意を伝える。イルカも注文をした。 今は、腹ごしらえだ。 の近くで、とくと観察させてもらおう。 イルカは、少しでも、 と話しておこうと決めた。 朝。目覚ましが鳴る。一つ、普通の時計のベル。更に五分後、デジタル時計の電子アラーム音でうずまきナルトが起きた。 三分後には、ヒヨコのぴよぴよっという、合成音の鳴き声が響き渡る。その頃には、ナルトは顔を洗い終わっていた。一分後、四つ目の黄色いネズミ時計がピカピカ鳴く。 は愛らしい鳴き声を楽しんで、満足してアラームスイッチを切った。 「切ったなら起きろってばよ!」 ナルトが速攻で突っ込んだが、 はものともしない。 「いや〜ん、あと一時間…」 「長ッ! ねーちゃん! 今日からはグータラ主婦の真似は出来ないってばよ! アカデミーに行くんだろ?!」 が布団の中でもぞりと動く。 「そうでした…。でも、ムリ。あたし動けそうにないよ。眠いよ。今、眠眠族に襲われて大変なんだから…」 「何だよ、みんみんぞくって!! もー、ほら、おーきーろーっっ!!!」 ナルトは が包まっている布団を剥がしにかかる。 の弱々しい抵抗では防ぎようもなく、ナルトは布団を自分のベッドへ放った。 の布団はナルトのベッドのすぐ横に敷かれている。彼女は必死に青いカバーの敷布団にしがみつき、ナルトに大きな溜め息をつかせた。 「ほんっと、 ねーちゃんの寝起きの悪さは里一だな…」 自分もそんなにすぐ目覚める! という方ではないが、 は酷い。酷いったら酷い。 「 ねえちゃあぁん! ハラへったー!!」 「うぅう、おのれえぇええ…」 は低い声を発しつつ、何とか重い身体を起こした。 ああ、頭がぐわんぐわんする。死にそうだ。 しかし、ここは可愛いナルトのため。 は洗顔し、朝食作りに取り掛かった。 ご飯を炊き、手早く味噌汁と焼き魚を作る。その間に、ナルトは観葉植物の水やりとおかずのたくあん切りを済ませた。 は洗濯もする。ナルトが冷蔵庫から昨夜の残り物を出しながら、 のドタバタ気配が無くなっている事に気付いた時、当の は風呂場で船を漕いでいた。 そーっと風呂場に近づき、ナルトは中をのぞき見る。 ……寝てるってばよ……。 は木桶に手を入れて、洗濯物を握ったまま静かな寝息を立てている。 居眠り女王を起こすため、ナルトは大きく息を吸った。 「寝るなアアアアアッッ!!!」 怒声は、小気味良いほど風呂場に響き渡る。ナルトは の肩をつかみ、激しく揺さぶった。 また眠りの世界に行ってしまった は、フラフラしながらコーヒーを作る。半分ほどはミルクを入れてカフェオレで。その方が胃に良いらしい。コーヒーメーカの残りは、ガムシロップを一個入れて飲み干す。余りの苦味に、顔までいらん具合に渋くなった。 「何だか、今日のねーちゃんってば、いつもよりおかしいってばよ?」 ナルトは魚の皮を取りつつ、 を見る。 「あたしもそーおもおー…。すっげ死にそう。今日休みてえ〜」 「いくらオレでも初日からはサボんなかったぜ? いたずらはしたけど」 「うわあー…ん」 あくびが止まらない。 は味噌汁とご飯を合わせた茶碗を置く。半分も食べられなかった。中々入って行かないのだ。 「ねーちゃん、ちゃんと夜眠れた?」 ナルトが心配げに聞く。自分はあっさり眠っていた。心配事でもあるのだろうか、と思う。アカデミーで学ぶ事への、緊張からくる不眠なのだろうか。 「ねーちゃん?」 「うん」 「ホント、大丈夫?」 「うん」 「オレ、アカデミーまでついてってやるってばよ! ねーちゃん一人じゃ心配だもんな!」 ニカッと笑って言うが、 は力なく笑っただけだった。 「ねーちゃん…」 「ごめーん。修業はいいんだけどさ、お子様の中に混ざるとゆーパラダイスでも、学校キライだし? 集団行動とかもーしたくねえええええええ。って思うと、どーにも暗くなってしまうわ…」 は、人魂でも飛ばさんばかりの勢いで落ち込んだ。 「そんなにキライ? って、まあ、オレもキライっちゃキライだけどさぁ」 勉強つまんねー、とナルトが唇を尖らす。 「今更ながらに、通信教育とかに切り替えられないかしらかしらご存知かしら?」 「忍者の通信教育…? そんなの聞いた事ねえって」 朝食を済ませた二人は、食後のノルマをこなす。 は後片づけ、ごみの日なので、ナルトがごみを出しに行った。 この半年で、すっかり暮らしの役割分担が出来ている。 少しは頭の冴えてきた が、時間を確認。ナルトの提案で、自転車通学となった。ナルトが元気いっぱいに「オレが漕ぐってばよ!」宣言を出し、 は言われるままに自転車の後ろに乗る。 徒歩ではアカデミーまで二十分ほどかかる距離を、半分に出来る。少し早めに出て、ナルトは懐かしの学舎を紹介した。 少しずつ登校の生徒が増えてきたところで、二人は職員室へ向かう。途中でイルカを見つけた。 「イッルカせんせーい!」 ナルトが呼び掛ける。朝の静かな校舎に、彼の声は良く響き渡った。 「お、ナルト。 さんも。おはよう!」 爽やかに微笑みつつ、イルカが手を振る。ナルトは駆け寄って、イルカに飛びついた。 「おはよーってばよ!」 「おはようございます。改めて、今日から宜しくお願い致します」 も小走りに駆け寄りつつ、会釈をした。すっかりダメダメ から、マトモモードに切り替わっている。 「ああっ、また猫かぶりー」 「お黙りナルト」 朝の起き抜けのゾンビのような声とは、想像もつかないほどの柔和で上品な声だった。浮かべる微笑みの口角の角度、三日月型の双眸も、完璧だ。 イルカは苦笑いをしながら、二人を職員室に通した。 体力測定の結果、 はアカデミー生どころか、中忍レベルにある事が判った。こうなると、誰か上忍がついてマンツーマンで教えた方が遥かに戦力になる。 もそれを希望した。 しかし、今や木の葉隠れの里は、大蛇丸の出現で気の抜けない状態になっている。中忍試験の続行が大蛇丸の意向でもある以上、本選を行わぬ内に不意打ちでの里攻めはないと考えられた。考えられる、双方にとっての戦いの場は、中忍試験本選。 準備を怠ってはならん! 先代火影の、強い意志だった。上忍、中忍は里の警備と、いつも通り舞い込む里内外の任務に当たっていた。襲撃に備えての特別編成暗部も動いている。 は落胆したが、まだ道が閉ざされた訳ではなく、火影の厚意により、アカデミー生として忍者の心得や忍術を学ぶ事になった。独学も考えた だったが、火影の強い勧めで入学を決意する。 ぺーぺーの一年生には違いない。それでも、 の素質を考慮して、イルカの担当クラスで預かる事になった。 入学から時間も経ち、演習に入り始めたクラスで、一人欠員が出たという理由もある。 三人一組はまだ固定させずに入れ替え制なので、 も入りやすいだろう。 は談笑する火影を見詰めながら、思った。 そうかなあ……? お子様大好き! な自分はイイとして。 「みんな! 突然だが、今日から一人、友達が増える事になったぞ!」 教室の生徒にどよめきが走る。 「聞いてないコレ!」 「ふっふっふ、木の葉丸も知ってる人だぞぉ」 にっと笑うイルカに対し、火影の孫・木の葉丸は疑問符を浮かべる。 「入って良いよ、 さん」 イルカの声を合図に、 はゆっくりと扉をスライドさせる。 「あーーーー!!!」 木の葉丸が を指差し、大声をあげた。 は気にも留めず、きっちり扉を閉めて教壇へ近づく。 「みなさん、初めまして。 と申します。宜しくお願いします」 両手を身体の前で合わせ、微笑んでからゆっくりと会釈をする。小首を傾げつつ、顔見知りの木の葉丸へと笑いかけた。 木の葉丸は を指差したまま、のたまう。 「年増が何でこんな所に居るんだコレェー?!!」 「お黙り木の葉丸」 またもや完璧な微笑みを浮かべて、 は木の葉丸を蹴倒したい衝動を堪えていた。 **ナルト夢・一話目をお読み下さった皆々様、お久し振りです。ナルトです。あんまし話進んでませんけど(痛)、二話目のお届け。 イルカ先生のお出ましなので、大変ウキウキしながら書きました。書きつつ、初めてイルカ先生のお目覚めメッセージというモノを聞きましたよ! 照れ! 白カブトさんもいいねいいね! …一年以上は前にレンタルしたCDの内容ですけど。まだ全然聞いてないので、休みの内に聞きます。イルカ先生も関さんも大好きー!! あ、忘れがちな映画も見に行かねば! ナルトの勇姿を、今年も大スクリーンで拝めるのは、有り難い事です。 *2005/08/28up |
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