ドリーム小説

REPORT:10 新天地へ





 シロガネ大会も無事に閉幕を迎え、シゲルたちはそれぞれの道へ進むために大会宿泊施設を出た。
 「え、あれ? シゲル、 さんは一緒じゃないのか?」
 タケシがキョロキョロ辺りを見回し、最後にはシゲルにつめ寄った。
 「ああ、 さんは朝からシロガネ山へ行ったよ。ヨーギラスが さんの仲間になったから、山のみんなに別れのあいさつをしに、ね」
 「ええーっ! 何でだよ!? オレッ、 さんにもう一度会いたかったのに!」
 「ピッカー!」
 サトシとピカチュウが不満げな声を上げた。カスミも同意する。
 「でも、しょうがないか。シゲル、 さんによろしく言っておいてね」
 「分かった」
 あっさり諦めたカスミだったが、サトシはなおも残念そうだった。
 「…サトシ、 さんに何か伝言あるなら聞いておこうか?」
 「伝言? よし、今度会ったら、絶対の、ぜ〜〜ったいに、バトルしましょうっ! って、伝えておいてくれよな」
 「あ、オレからも!  さん、お元気で。いつかまた、お会いしましょう! あなたのタケシよりって、イテテテッ!」
 「はいは〜い、あなたの、は余分ですからねー」
 カスミはトゲピーを胸に抱いたまま、片手でタケシの耳を引っ張った。そして、数歩後ろへ移動する。さらっとした一連の動作だが、耳を引っ張る手にこもった力はとても強い。
 そこへ、遅れて大会準優勝者のハヅキも加わった。
 それぞれの今後を話しながら、シゲルはシロガネ山を回ってからマサラタウンへ帰ると告げた。



  はシロガネ山に降り注ぐ陽射しを気にしながら、日傘を買おうと思っていた。木陰にて、ビコス、ピノ、ヨーギラスのサバラスと一緒にシゲルを待っている。
 バンギラスたちにあいさつをすませた後、スピアーたちにも会いに行った。
 出発の時間が近くなったせいか、ビコスの様子がおかしい。 はじっと見ていた。
 ビコスは住み慣れた森を見回したり、木陰から遠く離れないように気をつけながらあちらこちらとフラフラ飛び回っていた。
 長期間離れることが相当寂しいのではないかと思える。
 「ビコス、やっぱり止めとく? 貴女、ここに残ってもいいのよ?」
  の言葉に、ビコスはあわてて首を振った。
 「スピ!」
 行く、とビコスは言ったが、 はビコスが無理をしていないかと心配になった。
 ビコスは腕を振り回し、突き上げ、 と一緒に戦う気だと表現した。
 確かに、この森から離れるのは、とても寂しい。しかし、 やピノたちも気に入っており、離れがたい仲間と思っている。悩んだ末の選択だった。
 「…じゃあ、シゲルが来るまでまだ時間がかかりそうだし、もう少し遊んでおいで。ピノたちも一緒に行ってイイよん」
 三匹は喜んでかけて行った。はしゃぐ声に微笑みながら、 の意識は思索の旅に出た。
 夕暮れごろ落ち合うはずだったシゲルは、いまだにその姿を現さなかった。
 おかしい。
 約束の時間を一時間過ぎた。シゲルに何かあったのだろうか。シロガネ山へは向かっているのだろうか。選手村のポケモンセンターに電話をすれば、チェックアウトしたかは分かるだろう。しかし、 は携帯電話を持たない。
 この世界では、携帯電話は一般的に流通しておらず、固定のテレビ電話網が主流だ。それはそれで便利だが、携帯電話がないのは不便だった。
 電波鉄塔の建設に何か問題でもあるのかと疑問に思う だったが、今はその問題に思いをめぐらすよりも、シゲルの安否を確認したかった。
 人の気配をサーチするよう意識を研ぎ澄ます。
 辺りの様子を探っていると、シゲルが近づいていると分かった。 はピノたちを呼び、シゲルへと向かって歩き出す。
 シゲルは一人ではない。 の知らないポケモンと一緒のようだった。
 走るシゲルとようやく出会えた は、手を振りながらかけ足になる。シゲルも に気づいて手を振った。
  は知らない、と思ったが、図鑑本で見たことがあるポケモンだったと遅まきながら思い出した。
 ムウマだ。
 「シゲルくん、良かった。何かあったのかと思ったけれど、ムウマを見つけたから?」
 「ごめんなさい、 さん。このムウマ、選手村のホテルの近くで会ったことがあるんですよ。山へ入る手前で再会したんです。他のムウマたちはシロガネ山の奥の方へ帰って行ったんですけど、なぜかこのムウマは僕について来てしまって…」
 遅れた理由はロケット団との戦いなど他にもあるが、シゲルは大会の優勝者の話や閉会式の話など、 と別れてからのことを順を追って説明した。
 歩きながらの話となったが、お互いに今日のことを話していると、シロガネ山ふもとのポケモンセンターまではあっという間だった。
 ここで一泊することになっていた。 とサバラスが会いたいポケモンもいるからだ。
 シロガネ山から誘拐されたポケモンたちが警察の保護の元、このポケモンセンターに移送されて来ていた。明日には、シロガネ山へ戻れる手はずだ。
 ヒメグマたちの元気な姿を見れば、あのリングマも喜ぶことだろう。そう思いながら は、初めての親子の対面に、目を向けた。
 サバラスと、その親のバンギラスに。
 親と会えば についてくるという気持ちが変わるかと思ったが、サバラスは頑として と旅をすることを譲らなかった。
 そして、長いようで短かったシロガネ滞在も終わり、シゲルは一旦マサラタウンへ帰ることになった。


  はオーキド博士にあいさつをしようか、とても迷った。シゲルはぜひとも さんをおじいさまに紹介したい、と言ったが、今後の にとって、例えばゲットしたポケモンの数とその行方―…などつっこまれたら困ることが多いため、博士に会うことはためらわれた。
 何とかいつものように口八丁手八丁でごまかす気ではいたが、あまり嘘を重ねるよりは会わずにいた方が良いと判断し、マサラタウンへ行くのはシゲル一人となった。
 お昼前に旅立ち、シゲルとの約束を果たすために、 たちは少しだけシームルグで移動した。
  はビンヌの港町でシゲルを待つことになり、シゲルは徒歩で帰る。
 「シゲルくん、お家でゆっくりしてね」
 「はい、ありがとうございます。でも、ゆっくりしたい気持ちもあるんですけど、早く旅立ちたいなって気持ちの方が大きいです」
 新たな夢へと進むために早く一歩を踏み出したい、そんな想いが伝わるようで は微笑んだ。
 シゲルと別れてから、 は二人分の船のチケットを手配し、旅の用意を済ませるなど忙しく動いた。
 夕食はハンバーガー店で食べることにした。食後のアイスを食べながら、ここ数日の出来事を思い返す。結局ウリムーゲットが出来なかったので、 はとっても残念に思った。またゲット出来る機会はあるだろうか、と考えている間にもこおりのぬけみちへとひとっ飛び行きたくなる。
 ひこうタイプのポケモンが必要だ。みずポケモンも欲しくて仕方ない。
 しかし、手持ちはすでに五匹いる。
 シゲルと一緒に行動する時は、彼のひこうタイプを借りればいい。…一緒の時なら。 一人の時はどうしたらいい? どうしても空の移動が二人分必要な時は?
 みずわざが使えるひこうタイプ? 飛べるみずタイプポケモン?
 みず、ひこうと二つのタイプを持つポケモンはいるが、野山で飛べない。
 どのポケモンを持つか? 制限があるので大変悩ましい。
  はポケモンセンターへ戻ってからも、眠りにつくまで考え続けた。



 シゲルと再会してからホウエン行きの船に乗るつもりだったが、午後には予定が狂った。洋食屋でハンバーグ定食を食べていた時のこと、テラス席にバイクの急停車の音が耳をおおいたくなるほど大きく響いた。
 「…ジュンサーさん?」
 シゲルが疑問を投げかけると、ビンヌ駐在所勤務のジュンサーはバイクにまたがったまま敬礼ポーズを取った。
 「 さんですね? 貴女にお願いがあって参りました」
  は無言で首を傾げる。フォークを置き、ナプキンで口元をぬぐった。
 「お食事中に悪いけど、私と一緒に駐在所まで来て下さらない? 見てもらいたい資料があるんです」
  は了承して、三人一緒に駐在所へ向かった。
 ビンヌ港と町をつなぐ道に、ドーム型のこぢんまりとした駐在所が建っている。薄灰色のコンクリート外壁の地面に近い部分には、変色や多数のひび割れが見て取れた。 は数秒見つめて、築年数をざっと計算した。大した意味はない。
 ジュンサーは、 にクリップで留めた資料を手渡した。
  は表紙のタイトルを見て聞いた。
 「デオキシスはどこに現れたのですか?」
 中身を見れば書かれていることだろうが、 はあえて尋ねた。ジュンサーはパソコン画面を調節しながら答えた。
 「ジョウトとホウエンの間にある、コンジ島よ。昨日の夕方に現れて、とあるポケモン研究施設を破壊していったの」
 「デオキシスの研究者がいたのですか?」
 「いいえ。あ、中身読んで。ちょっと、パソコンの調子が良くなくて…」
 「僕がお手伝いしましょうか?」
 シゲルはジュンサーと一緒にモニタやパソコン本体と格闘し始めた。
  が手にした資料は、全部で五枚あった。表紙右肩には、シークレットBと書かれていたが、 にはどれくらいの機密情報なのか分からない。一般人にも見せて良い程度でBランクかと疑問に思った。
 内容は、表紙と、事件概要やコンジ島の地図、次は研究施設の見取り図…など。
 最後のページで、 にこれを見せられた意味が少し納得出来た。デオキシスは が見た形態全てをコンジ島で発現させていた。直接バトルした に、各形態の傾向を聞こうというのか。
 否。そのくらいは、ロンド博士が研究しているのでは?
  は片目を細めながら読み進めていくと、そのロンド博士が研究施設の防犯カメラから、ある情報を得たことが分かった。デオキシスがメッセージを発信しているようだ、というのだ。
 ただし、そのメッセージが何なのかは解読されていない。
 胸の紫水晶が発光と点滅でメッセージを表現している、と書かれており、詳細は動画資料を参考にするように、と結ばれていた。
 ジュンサーがパソコンを操作しているのは、防犯カメラの映像を見るためだろう。
 この施設が襲われた時間、研究員たちは施設内にいた。人間にテレパシーを使ってメッセージを伝えなかったのはなぜだろうか。
  は、デオキシスにもう一度会いたかった。どうすれば会えるだろう。
 「 さん、準備出来ましたよ」
 シゲルの声で は紙資料から目を上げた。
 ジュンサーがほっと胸をなで下ろす仕草をして、言った。
 「助かったわ、シゲルくん」
 「どういたしまして」
 「 さん、これから見てもらいたいのは、デオキシスの映像です。その資料にもあるように、まだはっきりと決まった訳じゃないけど、デオキシスが発しているメッセージのようなものを見て、何か気づいたことがあったら教えて欲しいの」
  はうなずいてモニタの前に移動した。
 ジュンサーが再生した映像は部分的に切り抜かれたものだった。いきなりデオキシスが映っていて、防犯カメラをにらみつけていた。
 胸の紫水晶が光った。点灯した光はやがて点滅に転じ、モールス信号のようなリズムで動く。
 しかし、 の知るアルファベットや和文のモールス符号一覧と照らし合わせても一致するものはない。三度繰り返して見てみたが、やはり分からなかった。
 ジュンサーと一時間ほど話した後、 たちはコンジ島へ行くことにした。
 運良くヨグニ地方行きの船に乗れたので、二人は海を見ながら一休みする。
 船内で注文したクリームソーダを飲み、潮風に当たっていると、少しだけ別世界にいる気がした だった。
 「コンジ島っていえば、結構、古代の遺跡やポケモンの化石が発見されているんですよ。古代ポケモンにも興味があるから、一度行ってみたかったんです。カントーでは大規模な発掘場に行ったことがあったんですけど、僕は見つけられなくて…」
  も化石や古代遺跡は気になる。古代のロマンには洋の東西を問わず興味があったし、その手の本を読みあさった時期があった。
 このポケモン世界の古代、というのはいまいちピンとこないものがあるが、調べるのもまた面白いだろう。
 特に、伝説の、幻の、と分類されるポケモンには神話などが付随して語られているらしい。詳しく勉強する時間はなかったが、いつかは調べてみたいことだった。
 「えっと、あのショウヤマ研究施設の人たちが身を寄せている他の研究所はどこでしたっけ?」
 「シュウハタ研究所と、サイダ研究所」
 ヨグニ地方のコンジ島にはポケモン研究所は二つあり、最も大きいのが今回デオキシスの襲撃にあったショウヤマ研究施設だった。コンジ島の近くには一回り小さい面積のサイダ島がある。そこには、サイダ研究所があるらしい。
 「どんな研究をしているところでしょうね。化石ポケモンたちだといいなぁ」
 「資料には、複数のテーマで研究活動していると書かれていたわ。化石ポケモンの研究もあったわね」
 研究施設の責任者は、親戚であるシュウハタ博士を頼って研究を続けるらしい。自分の施設が復活するまではシュウハタ研究所にいるとジュンサーから聞いていた。 はジュンサーに頼んで、ショウヤマ博士に会えるよう連絡してもらった。
 一晩かがりで海を渡り、何カ所かの町に停止をして、やっとヨグニ地方へ行ける。そして、最寄りの港から車で長時間の移動をしなければならない。
 二人は明日に備えて、早めに寝ることにした。夕食を摂った後は、ざっと道程を確認し、船酔いにならないよう祈りながら、ベッドへ入った。
 シゲルは研究所と関わりを持てることに喜んでいた。遊びで行くわけではないが、今後のために他の研究者たちがどう仕事をしているのか、どんな研究をしていてどんな設備を使っているのか、知りたいことがたくさんあった。
 オーキド研究所は個人経営ながらも、マサラタウンの広大な土地で最新設備にて研究が行われている。
 ポケモン研究の第一人者として名高いオーキド博士は、古くても良質な機械を好んだが、最新のものでないとデータ集計などに時間がかかる場合も多くまめに設備の入れ替えがなされていた。
 特別な機械などなくても観察や研究は出来る。それは当然のことだが、グレンタウンで見学したポケモン研究所が忘れられない。そこでは、化石の復元が行われていた。
 イーブイの進化や伝説の鳥ポケモンについても研究が進んでおり、シゲルのまた訪れてみたい場所の一つだ。
 自分は何を研究しよう。
 してみたいことは、たくさんある。
 テーマを思い浮かべるだけで、胸がはやった。
 実際の行動に移さないと落ち着かない気がした。明日のためには少しでも早く眠りたかったが、ポケモン研究への情熱が勝り、目が覚めてしまった。
 シゲルは眠りに落ちるまでは今しばらく、と新天地で見られるものを想像し、期待をふくらませた。










**勝手に地方作ってるし…。サイダとコンジ以外は特に描写するつもりはないのですが。サイダ島がどこにあるのか分からないので、カントー付近かと思いつつも、瀬戸内海あたりをイメージして考えました。
 …あんまし深くは突っ込まないでいただけると幸い。

 そして、やっとジョウト編が終わりましたー! パフー!(←効果音)

*2008/08/30up


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