巡る世界編。

REPORT:12  サイダ研究所




 シゲルが苦労をして掘り出したのは、ひみつのコハクと呼ばれるものだった。
 この中には、こだいポケモンのプテラの遺伝子が眠っている。
 「これで、プテラが現世によみがえる…」
 シゲルは、まだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
 半透明な黄褐色のコハクの中に、何かがあるのが判る。図鑑で見たプテラの形が見える訳ではない。しかし、陽に透かすと中心に黒い何か、が見えた。
 光沢のあるひみつのコハクを手にし、シゲルは興奮して叫ぶ。
 「やった! 見つけたぞーっ!!」
 ミサヲも両手を挙げて喜んだ。
 「すっごーい! 久々の大発見かも!」
 「あははははっ! それはすごい! ああ、すごいなぁ…」
 命の源が閉じ込められている神秘。
 そして、よみがえる奇跡。
 力強く雄叫び、翼羽ばたき飛ぶプテラ…!
 過去にプテラをよみがえらせた研究者たちはたくさんいたが、自分もその一人になれることへの興奮は、とてつもなく大きい。
 しかし。
 「…どうしよう」
 「え? どうかしたの? もう嬉しくないの?」
 「いや、嬉しいんだけど、その…僕には時間がなくて…」
 「ああ、そんなこと。じゃ、わたしがサイダ博士やおねーちゃんに頼んであげる。シゲルさんの代わりに、プテラを復活させて、って」
 ミサヲは胸を叩き、任せろとばかりに提案した。
 「ね?」
 「…いや、ごめん、それは出来ない」
 「なんで?」
 シゲルは言いにくそうに口を開いた。
 「僕も、ポケモンの研究者なんだ。だから、プテラ復活は自分の手でやってみたい…! でも、僕は旅をしなくちゃいけなくて」
 「旅? 研究より大切な旅なの?」
 ミサヲの指摘に、シゲルは困った。
 そう、研究に専念する前に解決しておきたいことなのは確かだ。そのために、ホウエンまで旅をして、事件を終わらせなければ。
 プテラの復活そのものに興味はあっても、デオキシスの件を放ってはおけない。
 いつ終わるともしれない旅へ…。
 コハクを抱きしめる手に力がこもる。
 とも、離れたくない。
 彼女にこのことを話せば、きっと置いていかれるだろう。シゲルの夢を叶える、第一歩なのだ。には、ついていくことに反対される気がする。
 シゲルが考えこんでいると、頭上で砂の鳴る音がした。
 見上げると、がいた。
 「さん」
 は無言で崖を滑り降りた。慣れたような動作で、素早く、無理なく着地。体勢が崩れることもない。
 「わああ。おねーさん、すごい!」
 ミサヲが歓声を上げると、はにこりと笑って見せた。
 「シゲル君、途中から話を聞いていたわ。あなた、どうしたい?」
 シゲルに向き直ったは、真剣に聞いた。
 「旅は、私一人でも…」
 「いいえ、だめです! 僕も一緒に行きます!」
 「せっかく、化石を見つけたのに? 君が優先させなくちゃならないのは、夢の方でしょう?」
 シゲルはたまらず声を荒げそうになる。
 「それならデオ…、あの子のことだって、僕は気になります。ポケモン研究者が関わっているかもしれない。僕と同じ夢を叶えたはずの人たちが、何をしているか分かったもんじゃない。僕は許せないんです。ポケモンの力を、悪用しようとしている奴らが!」
 デオキシスのように、悪人に利用されているポケモンは、実は多い。ゲットされれば人に従わざるを得ないポケモンたちは、ロケット団をはじめとした悪人に忠実だ。
 ポケモンの素晴らしい能力を、悪事にしか役立てられない奴らが許せない。
 特に、今回のデオキシスは、ポケモン研究者が誕生させた可能性が高いと思っている。デオキシスが生まれる条件を考えれば、そう思うのが自然の成り行きだろう。余計に同じ研究者として、人として許せないと感じるのだ。
 ポケモンの悪用、と聞いて、ミサヲは目を丸くした。はそれに気づいていたが、口止めは後回しにする。
 「…じゃあ、少しの間、がまんしてね」
 「はい。もちろんです。今やらなくちゃいけないのは、プテラの復活じゃありません。その研究は、すべてが終わってからにします。ひみつのコハクを持ち歩いてでも、僕はさんについて行きますよ?」
 「ありがとう。でも、持ち歩くのは、危なすぎると思うわ」
 が困ったように眉根を寄せた。
 「ねえ、サイダ博士に相談したら? 預かってくれると思う。サイダ研究所では、ポケモンの化石についても研究してるから、ちゃんと保管する機械もあるよ」
 ミサヲが存在を主張するように、片手を挙げて話に入ってきた。
 「あなた、サイダ博士の知り合い?」
 「うん、わたしのおねーちゃんが、博士の下で見習いしてるの。わたしは、よく研究所に出入りしているから、みんなと知り合いよ」
 にっと笑ったミサヲは、たちをサイダ研究所に誘った。サイダ博士は明日出張から戻るが、他の研究者たちに口利きをしてくれるのだと言う。
 シゲルは、サイダ博士や研究所を信用して良いものか、迷った。思わずを見る。
 視線に気づいたは、軽く首を傾げて戻した。
 「素敵な提案だけれど、私たち、明日直接博士に会う約束をしているの。その話の後、どうするか決めるわ」
 「サイダ博士と、お話?」
 「ええ。今日のところは、お世話になっているシュウハタ研究所に戻るわ。シュウハタ博士たちが、シゲル君のことを心配しているし。私、それで迎えに来たの」
 ひとまずミサヲとは別れた。明日、サイダ研究所で会う約束をして、たちは発掘場の小さな休憩小屋へ向かった。
 「シゲル君、シュウハタ博士たちには、ひみつのコハクはカントーに持ち帰る予定だ、と言ってもらっていいかしら?」
 は小屋が見えてから、シゲルに頼んだ。
 「はい。シュウハタ研究所にコハクを置いておく話になっては困りますから」
 「そう。そして、オーキド研究所の名前は出さない方がいいかもしれない。あなたのフルネームでオーキド博士の関係者と気づいているかもしれないけれど」
 の言うことに、シゲルはうなずいた。
 昨夜、研究のことについて色々話をしたが、あえてオーキド博士の孫だとは言わなかった。彼らも、シゲルのファミリーネームについて言及はしなかった。
 オーキドの孫というだけで、変な勘ぐりをされては困る。だから、シゲルはキネガワやシュウハタにフルネームを名乗ったことを少し後悔していた。
 オーキドユキナリは、カントーのみならず、世界的に有名なポケモン研究者である。その博士の孫がわざわざコンジ島までやって来て、デオキシスのことを調べている…。
 相手がもし、の言ったように、デオキシスの誕生実験をしていたとしたら、そのことをどう思うだろうか。
 少々猜疑心が大きくなっている気もしたが、シゲルは慎重にことを運ぶように、と自分を戒めた。
 小屋に戻ると、案の定二人の博士は、シゲルのひみつのコハクは、シュウハタ研究所で復活の研究をするといい、と勧めてくれた。しかし、それは丁重に断った。
 シュウハタが調べたところ、ひみつのコハクに間違いなし、とお墨付きが出る。
 一晩明けて、とシゲルは、サイダ研究所へ出発した。久々に会いたいからと、ショウヤマもついてくることになった。彼の案内で、隣のサイダ島へは、小さな船で行く。
 「さあ、着いたよ」
 ショウヤマの案内で、森を十分ほど歩いた。
 の開けた視界に入ってきたのは、半球型の建物だった。オレンジの外壁には、いくつものモンスターボールオブジェが飾られている。入り口も半円型で、白い縁取りがあり、その白縁上にもモンスターボールがついていた。
 建物てっぺんのパラボナアンテナ三つがなければ、一見してポケモンセンターにも見えるな、とは思った。
 ショウヤマは受付で名乗り、たちを伴ってサイダのいる応接室へ向かった。ノックをし、サイダに合図する。
 「サイダさん、こんにちは。ショウヤマです」
 「はい、今開けます」
 ややトーンの低い女性の声がした。
 開いたドアからは、鮮やかなオレンジ色の頭だけが出た。
 「っとと」
 完全にドアを開いた女は、ショートボブの髪を揺らし、にっこりと笑った。
 「あはは。少しこけちゃった」
 「相変わらずだね、サイダさん。おっちょこちょいは直らない?」
 「直らない、直らない。でも、昔よりはマシになったよ?」
 笑顔を交わし合う二人を見ながら、はサイダの全身をざっと観察した。彼女は長身で、白衣の下に黒いジーンズと赤いシャツを着ている。涼やかな目元は、理知的な一面をうかがわせていた。
 「あ、お客さんたち。えっと、さんでしたね?」
 「はい、初めまして。と申します」
 はよそいきの声音で答えた。
 互いにあいさつをすませた後、ソファでお茶を頂くことになった。お茶うけのお菓子は、ピカチュウの人形焼きのようなものだった。
 「それで、あなた、どういう筋の方?」
 サイダは単刀直入に聞いた。は涼やかに受け答える。
 「カントー地方から参りました。趣味でポケモンの研究をしています。どこのラボにも属していません」
 「そう。趣味で…。例えば、どんな?」
 「最近は、タイプを二つ持つポケモンたちについて研究していました。今は、少し興味を持ったポケモンがいまして、研究テーマに使えないかと、ショウヤマ博士にお話を伺っています。もちろん、サイダ研究所で盛んな、古代ポケモンの研究にも興味がありますわ」
 はサラサラと言葉をつむぐ。
 「先程見かけたプテラたちのオブジェ、素敵でしたね」
 「ああ、あれね。そう、素敵でしょう?」
 サイダはにこりと笑んで言った。彼女は足を組み変えて、をじっと見る。
 「私と祖父が一緒に作ったのよ」
 「まあ、そうだったのですか。すごいですね! あれを全部?」
 サイダの研究所には、六体の古代ポケモンの模型が飾られていた。いずれも、ほぼ等身大であった。
 「そう、全部。祖父は模型が趣味だったから」
 だった、と過去形になっていることには気づいたが、祖父のことについては尋ねなかった。
 「ところで、サイダ博士の去年の論文を拝読しまして、いくつかお尋ねしたいことがあるのです」
 「去年? ああ、オムナイトの…」
 「はい」
 は事前に調べておいたサイダの論文で疑問点があり、研究者としての一面を見せることにした。ショウヤマがいることを考慮しつつ、サイダと議論を交わす。時折、ショウヤマも口を挟んだ。シゲルは大人しく聞くしかなかった。
 「…ありがとうございました。これで、疑問はなくなりました」
 「そう、よかった。でも、さん凄いわね。オムナイトたち古代ポケモンのこと、よく分かっていらっしゃる」
 「ありがとうございます」
 「古代ポケモンは専門じゃないのでしょ? さっき言ってた興味を持ったポケモンって、何?」
 サイダの問いに、ショウヤマたちにも話したように、はシロガネ山での出来事などを説明した。
 「ああ、その件。デオキシスっていうのね。私も少し興味があって、ジュンサーさんやショウヤマ君に聞いたけど、謎だらけの存在よね」
 「ショウヤマ博士に?」
 はその話を本人から聞いていない。シゲルと一緒に彼を見る。
 「そうだっけ? ああ、一度メール来てたね。返信したの忘れてたよ。何せ、まだ警察がひっきりなしに研究施設に来ていた時だし。質問攻めにされて忙しかったんだ」
 ショウヤマはそう言うと、軽く肩をすくめた。
 「あれから音沙汰ないし、忙しいだろうから連絡取るのも気が引けていたのよね。ねえ、デオキシスのこと教えてよ」
 サイダは興味津々である。ショウヤマはたちに話したことを、もう一度話した。
 「ふうん。とてつもない破壊力を持った、エスパータイプ、か…。ねえ、鳴き声はどんなだった?」
 「鳴き声はなかったよ。一言も」
 「そうか。じゃあ、襲ってきたソレがデオキシスだと判明したのは?」
 「警察の力だ。残っていた防犯カメラの映像から、ホウエン地方の研究者がデオキシスだと割り出した。ホウエンには、デオキシスを研究している人がいるんだって。ええと、ロンド博士だったかな?」
 「ホウエンのロンド博士…。聞いたことないな」
 眉根を寄せたサイダは、立ち上がって部屋の奥へと移動した。ついたての向こうから、小型のノートパソコンを持って現れる。
 「ラルースシティのロンド博士、検索出来たね」
 サイダがロンド博士について、略歴や論文のタイトルなどを口にした。にはビンヌにいたジュンサーから聞いていたことだった。取り立てて新しい情報はない。
 「確かに、デオキシスについて研究しているようね。まだまだ目撃されて間もないから、大した研究成果は上がっていないようだけど。まあ、他のポケモンと違って、デオキシスそのものを直接観察出来ないんだから、数年の研究じゃしょうがないか」
 は、ジュンサーから聞き及んていたことは言わないことにした。ロンド博士は、デオキシスの胸に納まっていた結晶のようなものを持っている。調べれば分かることだろうが、黙した。
 ショウヤマは、を見て言う。
 「さんは、ロンド博士には会わないの?」
 「お会いするつもりです」
 次の目的地である。このヨグニ地方からホウエン地方へ行くのには、また船旅となる。
 「ところでさん、私に会いに来た理由は、さっきの話だけ?」
 サイダはまた足を組み変え、を挑発するように聞いていた。に目の照準を合わせて、今にもビームを出してきそうだ。
 は朗らかに笑って、それを受け止めた。無用な勝負をするつもりはないが、負けるのは嫌いであったし、サイダの多少の悪意は初めから感じ取っていた。
 「いいえ、まだあります。ですが、それは二人でお話させて頂きたいのです」
 ショウヤマを遠ざけるためのことだった。しかし、ショウヤマに出鼻をくじかれた。
 「あれ、スポンサーのことで聞きたいんじゃないの?」
 「スポンサー?」
 サイダが疑問の声を発し、を見た。
 「前に海神祭の時に話してくれたじゃない。それをさんに言ったら、サイダさんに会いたいって…」
 「サイダ博士にお会いしたいと思った理由には、確かにそれもあります。ですが、もっと他に、お尋ねしたいことがあります」
 は真剣な表情でサイダを見つめた。
 「どうして二人だけの話になるの?」
 「今は申し上げられません」
 「…分かった。じゃあ、場所を移動しよう」
 シゲルとショウヤマを残し、たちは応接室の外へ出た。サイダは自分の研究室へを招いた。
 巨大な円筒の装置が部屋の中央に鎮座している。周りには、いくつものコンピュータと計測装置が並んでいた。スチール製のデスクには、計測結果と思しき紙の束が散乱し、飲みかけのコーヒーカップも置かれている。
 サイダは小さなイスをに勧めた。
 「早速、本題に入ってくれる?」
 「はい。まず、先程の新しいスポンサーについて。ぶしつけで申し訳ありませんが、大きな企業とお聞きしました。どこの会社ですか?」
 「とある製薬会社」
 「古代ポケモンの研究に関わりがあるとは、思えません」
 「ポケモンというより、ここら一帯で採れる薬草関連、及び、発掘される化石に含まれた古代の植物について興味があるらしい。それらを採取し、提供すること。更には、それらをポケモンが食していた可能性について調べるためよ。このサイダ島は、先祖代々サイダ家の土地。島一つが私有地みたいなものなの。だから、研究所に出資することで、この島の産物を手に入れたいというわけ」
 「なるほど」
 最もらしい理由だと思った。サイダは、とある製薬会社と名を伏せたが、は聞いてみることにした。
 「どこの製薬会社でしょうか」
 「…どうして?」
 「私は、その製薬会社が別の目的でサイダ研究所に出資を申し出ていると考えています」
 「別の目的?」
 「はい」
 が先を続けないので、サイダは自分で心当たりを探した。
 「思い当たることはないわね。調べたら分かることだから言うけど、ホウエン地方に本社を構える、ディプス製薬よ」
 ホウエン地方と繋がった。まだ弱い点だが、は気になった。
 どこまで話すべきか迷う。サイダは、の敵になる人物か、否か。
 「その出資の話が出る前に、このサイダ島で植物以外の化石の発見はありましたか?」
 「二年ほど前に、オムスターの化石を見つけたわ」
 「結晶、クリスタルは見つかりませんでしたか?」
 「いいえ。ないわ」
 サイダの答えに、は少し考えた。
 「コンジ島で発見されたことは?」
 「そういえば…、四ヶ月くらい前にそんな話があったような…。でも、見つけたのは、確か素人だったはず。ただの水晶で大きさは一センチくらい。普段コンジでは見つからないはずだと言われて、新聞に取り上げられていたっけ」
 おかしい。それなら、なぜ、サイダに出資をするのか。の考え違いなのだろうか…。サイダが嘘をついている可能性を考慮して、は慎重に言葉を選ぶ。
 「例えば、このサイダ島やコンジ島から大昔の水晶体が見つかったとして、その中にポケモンがいれば、あなたの研究対象になりますか?」
 「…そうね、なるわね」
 「そうですか。ありがとうございました。質問は以上です」
 「もう終わり?」
 「はい。お手数をおかけしました」
 「ちょっと、冗談でしょ? どうしてこれが二人で話さないといけない内容な訳?」
 サイダは鼻を鳴らしてを睨んだ。
 「申し訳ありません。本来はもう少しお聞きしたかったのですが、私が知りたい情報をお持ちでないようなので」
 は話すにつれ、サイダに対して不信感を抱いていた。どこがおかしい、とは言えないが、嫌な予感がする。目の前の女性には、もう話すことはない。
 そして、警戒の対象にカウントした。
 シゲルは、ここへは置いていけない。彼には悪いが、ひみつのコハクの研究をするのであれば、他の場所にしてもらおうと思った。
 「分かったわ。じゃあ、応接室へ戻りましょう」
 サイダは速い溜め息をついて、歩き出した。怒ったような顔つきで、早足で部屋を出た。応接室に近づいた時、ロビーで大声がした。
 「何かしら?」
 「ミサヲちゃんの声です」
 がミサヲを知っていることに驚いたが、サイダは何も言わずロビーへと向きを変えた。
 「ミサヲちゃん、コバラちゃん、どうしたの?」
 サイダが尋ねれば、ミサヲが大声で知らせる。
 「すっごーーーい大発見なのっ!」
 「大発見?」
 サイダの疑問には、ミサヲの姉、コバラが答えた。
 「はい、ミサヲがプテラの卵の化石を見つけたようなんです」
 「おねーちゃん、見つけたよう、じゃなくて、本当に本物なんだってば!」
 「まだ確定していませんが、ほぼ間違いなしと思われます。今、鑑定に回しています。あと二、三時間で結果が分かります」
 ミサヲの抗議を片手で制して、コバラは言った。ミサヲはむくれたが、に気づくと笑顔で手を振った。
 も手を振って応える。
 「ミサヲ、知り合い?」
 「うん、ほら、昨日話した人。ねえ、シゲルさんは?」
 「一緒よ」
 「うわあ、じゃあ、わたしが掘り当てたプテラの卵の化石、見てもらいたい!」
 ミサヲの提案で、彼女も応接室についていくことになった。コバラは仕事があるからと他の部屋へ行く。
 応接室では、シゲルとショウヤマが研究談義に花を咲かせていた。そして、ミサヲの大発見により、更に話が弾む。
 「ミサヲちゃん、凄いね」
 シゲルがほめると、ミサヲは誇らしげに言う。
 「えへへへ。シゲルさんがひみつのコハクを見つけたでしょう? だから、わたしの卵の化石を使って、絶対にプテラをかえして欲しいの」
 プテラの復活を夢見る表情でシゲルに伝えた。シゲルはその願いを、ミサヲのため、自分のために叶えたかった。
 しかし、今はまだその時ではない。
 「ありがとう、ミサヲちゃん。でも、僕は、今は無理だ」
 「…昨日言ってたよね…」
 シゲルは、本当にすまなそうに謝った。
 「ねえ」
 様子を見ていたサイダは、シゲルに言う。
 「来週には、一つのプロジェクトが終わって、部屋に空きが出来るわ。もしよかったら、シゲル君はここに残って、プテラ復活の研究をしてみない?」
 「え?」
 サイダは笑顔でシゲルに近寄った。
 「だって、こんな条件の整った機会は、珍しいわよ。ぜひ、そうなさい。歓迎するわ」
 「いいね。僕のところで迎えられないのが残念だけど、ここはいい設備もたくさんあるし、何より、サイダさんは優秀だ。ここで学ぶことは、君にとってよい経験になるよ」
 ショウヤマも後押しした。
 「お気持ちはとても嬉しいです。でも、僕には他にしたいことがあるんです」
 シゲルが困りながら、一瞬、を見た。は何気なくシゲルを見ているだけだ。
 「僕は、さんと一緒に、デオキシスについて知りたいんです」
 その決意は揺るぎない。
 確かに、サイダの提案はとても魅力的だった。けれど、自分の決めた優先順位を変えるつもりはない。
 それを聞いて、ミサヲは「あ〜あ」と呟いた。
 「残念。でも、わたし、いつかシゲルさんにあの卵かえして欲しい。それまで、大切にとっておくね」
 「…いいのかい?」
 「うん! だから、約束して。いつか、わたしにプテラを見せてね!」
 「ああ、分かった。約束だ」
 シゲルとミサヲが笑い合っているのを、は微笑ましく見守った。
 しかし、ちらりと視線を走らせた先で、サイダが忌々しげな表情を浮かべていたのを見逃さなかった。



 たちが帰った後、サイダは頃合いを見計らって電話を架けた。
 「ショウヤマ君、今時間いい?」
 「ああ、いいよ」
 「あの女、こっちのこと見透かしてるよ」
 「そうかな。さんは、まだ謎しか見えてないよ。答えなんて、ほど遠い」
 「私には、そうは思えない。確かに、これまでの情報じゃ私たちのこと知るには足りないだろうけど、あの人勘も鋭いみたいだし」
 「それは、ちょっと君が挑発的すぎたからじゃない? まあ、あのくらいならアリかもしれないけど」
 「だって…」
 「だって? さんにちょっとそっけなかっただろう? いつもの君らしくなかった。サイダさん、もっとクールじゃない。ドジだけど」
 ショウヤマは忍び笑いをもらした。
 「もう! どうして、さん、じゃなくて、名前で呼んでいるの?」
 「…そんなこと? 何となく、彼女にはその方がいいと思って。さんもある意味クールだよね。少し好み」
 サイダは絶句した。
 「あれ、本気にした? やだなあ、名前で呼んでいるのは、気を許していると思わせるためだよ。フランクに接して、軽いノリの男だと思ってもらいたいからね」
 「あの女も演技してるわよ」
 サイダは冷たい声で言った。










**また長く(苦)。
 気がついたら、サイダさんが敵っぽくなってました。(←いい加減)

 ゲームではひみつのコハクに残された遺伝子から、プテラが復活しています。コハクだけでいいんじゃねーかと思いきや、アニメではミサヲちゃんがプテラの卵の化石を発見している設定なんですよ。
 化石孵しゃいいじゃんか、とはいかないんです。
 遺伝子必須なんです。
 あれ、プテラもある意味いでんしポケモン?(←ええー)
*2009/08/01up

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