REPORT14:vsデオキシス





 シゲルとライオ2たちが戦っている間、サイダ老博士はなんとかサイダ研究所の入口までたどり着きたかった。
 しかし、今は建物側面。まだ入口まで距離がある上に、黒スーツの男たちに阻まれて進むことが出来ない。
 自分はトレーナーの経験はないが、強いポケモンなら持っていた。それをここで出すべきか迷っていると、女が動くのが目に入る。
 さきほど、シゲルに「」と呼ばれていた。
 彼女は建物の上を見上げている。
 「黒い煙の中で、何かが動いています」
 「何かが?」
 の言葉に、サイダ老博士は目をこらした。
 出てきたのは、デオキシスと、ネイティオだ。
 「おおっ、上手くいったですね! ライオ3、ライオ4と合流するです!」
 「ああ。その前に…マグカルゴ、右の木に、かえんほうしゃ!」
 ライオ3の指示に、マグカルゴは木を燃やすべくかえんほうしゃを放った。
 「バカな! 火事にする気か!? カメックス、火を消せ!」
 シゲルとサイダ老博士の意識が燃えさかる木々に移った時、は宙に浮かぶデオキシスを見ていた。ライオ2たちが入口の方へ走っていくのが見えたが、追いかけなかった。
 右に首を傾げ、涼やかな声で言う。
 「こんにちは。私の手持ちになるために、また現れてくれたのかしら?」
 『、そうではない。自分は仲間を助けに来た』
 デオキシスの念話に、サイダ研究所で行われたことをいくつか連想した。
 「助けられたの?」
 『………』
 「そう。…ライオ4はどこにいるの?」
 「試験体D、余計な話はするな」
 ライオ4が出てきた。リュックを持っている。は、そのリュックを三秒凝視した。
 ライオ4たちが横並びになり、一斉に攻撃を指示する。
 「ネイティオ、カメックスにサイコキネシス」
 「オニドリル、この次にカメックスへドリルくちばしをするです!」
 「マグカルゴ、ブラッキーにかえんほうしゃ」
 消火作業に気を取られていたシゲルは、指示が遅れた。
 ネイティオのサイコキネシスがカメックスに当たる。ドリルくちばしも命中。
 ブラッキーはかえんほうしゃを避けようとしたが、左前足に当たってしまった。
 「カメックス! 大丈夫か? 立てるか!? ブラッキーはどうだ!?」
 「ブラッキ!」
 ブラッキーは大丈夫だ、と返事をする。カメックスはうなりながらも何とか立ち上がった。
 「よし、まだいけるな? 頑張ろう!」
 シゲルの言葉に、カメックスとブラッキーは目に力を宿す。
 サイダ老博士はシゲルたちの奮戦を見たが、数で不利だと考え、自分の一匹だけの手持ちを出すことにした。
 「アーマルド、マグカルゴにみずでっぽう!」
 「マグカルゴ、避けろ!」
 不意の攻撃に避けきれず、マグカルゴの半身にみずでっぽうが当たった。
 「とりあえず、三対三だな」
 サイダ老博士はそう言ったが、デオキシスのことは忘れていない。デオキシスはまだ命令されずに、研究所の上で浮いていた。
 「中でサイダ・ミズキたちがケガをしているぞ」
 ライオ4のその言葉に、サイダ老博士は慌てた。
 「何だと!?」
 「俺たちの相手より、ケガ人の手当をしたらどうだ?」
 「ならばそこを退け!」
 「言われなくても帰るところさ」
 ネイティオとオニドリルがはばたいた。
 「帰るのは、そのリュックを地面に置いてからにして」
 がライオ4を睨みながら言った。
 彼女には耳鳴りが聞こえ始めている。
 ライオ4は無言で返したが、ライオ2が黙っていなかった。
 「女ァ! ポケモンを持たない身で、大口たたくんじゃないですよ!」
 「誰がポケモンを持っていないですって?」
 耳鳴りが大きくなる。
 「なーにを言ってるです!? オニドリル、ドリルくちばし!」
 シゲルとサイダ老博士がを守るための指示を口にしようとした時、上から落ちてくる「何か」があった。
 その何か―…は、ピノだった。オニドリルは、ピノが放ったかえんほうしゃに焼かれる。続いて、高速で現れたビコスにダブルニードルを食らった。連続攻撃に気を失って負ける。
 は、ビコスのちょうおんぱを利用し、自分と彼女にだけ合う波長をみつけていた。多少の距離なら互いの位置が分かるようになっている。ただ音波を送る、聞く、というだけの単純なものだったが、色々な場面で役立つ。
 「えっ、ビコス!? ピノ!?」
 シゲルが驚いた声をあげるが、は冷静だった。
 「サバラス、いやなおと」
 「ヨーギッ!」
 「ま、まだ出てくるですか!?」 
 現れたサバラスが、前線に出ていやなおとを出した。
 マグカルゴとネイティオが地面につっぷす。
 「ピノ、ネイティオにかえんほうしゃ。ビコス、マグカルゴにはかいこうせん」
 「ネイティオ、ヒノアラシにサイコキネシス!」
 「マグカルゴ、スピアーにかえんほうしゃ!」
 いやなおとから回復しきっていない二匹は、命令を聞こうと懸命に立ち上がったが、攻撃かなわず、ピノたちの技を食らった。しかし、まだ気は失っていない。
 「カメックス、マグカルゴにハイドロポンプ!」
 「アーマルド、ネイティオにげんしのちから!」
 矢継ぎ早の攻撃に、マグカルゴとネイティオは地に沈んだ。
 たちの形勢逆転だった。
 そこに、シュウハタ博士が息を切らせて走ってくる。
 「な、何なんだ、これは!?」
 目の前の黒スーツの男たちと、サイダ老博士までがポケモンバトルをしている状況を、すぐに飲み込めなかった。
 「…シュウハター!?」
 驚いた声を上げたのは、ライオ2だった。
 はそれを聞き、ひらめく。
 「シュウハタ博士、ピノたちを連れてきて下さって、ありがとうございます!」
 にこやかにお礼を言った。
 「連れてきて!?」
 ライオ2がまたも声を上げた。
 「いや、連れてきてというか連れてこられて、というか…」
 「この、やっぱり裏切り者ー!!」
 怒りの声を上げるライオ2をライオ4がたしなめた。
 「やめろ。もう行くぞ」
 走り去ろうとするライオ4たち。
 「リュックを置いて行けといってるでしょ!」
 はライオ4たちへと走る。ピノがその後を追いかけた。
 ライオ3は、モンスターボールからライチュウを出す。
 「ライチュウ、ヒノアラシに、じゅうまんボルト!」
 「でんこうせっか!」
 ピノがいち早く動き、ライチュウに突撃した。
 は爆走、といってもよい素早さでライオ4に近づく。
 ライオ4は、のスピードに驚いたが、デオキシスが動いたのを視界の端に確認し、リュックを胸に抱いた。
 へ迫るデオキシスは、触手で彼女を捉えようとする。
 ビコスが間に入ろうと飛んだが、は捕まってしまった。
 そのまま上へと弧を描く触手から放り出される。
 は落ちながら、デオキシスの胸にある紫水晶が日に照らされた光を見ていた。
 「さん!」
 シゲルが大声を上げ、カメックスがを抱きとめようと動く。
 「アーマルド、お前も行け!」
 カメックスとアーマルドが落下するの下で待った。
 その間に、ライオ4たちは走り去ろうとした。ピノが気づいて後を追うが、ライチュウの攻撃を避けている間に、距離が空いてしまう。
 「ヒノアラシ、もう追いかけなくていい」
 サイダ老博士の言葉に、ピノは困った。がカメックスに抱きとめられたのを見て、彼女の元へかけ寄ることにした。
 「シゲルくん、サイダ博士のところへ行ってくれる? 私は、あの人たちを追いかけるから」
 「でも、さん一人じゃ…」
 「大丈夫、深追いはしないつもり」
 は無表情に言ってしまってから、思い出したように微笑みをつけ足した。
 「シュウハタ博士、あとで『裏切り者』の意味、教えて下さいね」
 シュウハタはばつの悪そうな顔をして、下を向いた。
 「行こう」
 ピノたちを見て、は合図した。呼応して、ピノたちはと一緒に走る。
 デオキシスの能力で移動されていたらお終いだが、はライオ4たちを追いかけた。
 「わしも、裏切り者という言葉は気になるが…まずはミズキたちを探そう!」
 「はい!」
 サイダ老博士とシゲルたちは、サイダ研究所の中へかけこむ。
 入口付近にある模型は無事だった。
 ただ、中には煙が充満しており、シゲルたちは衣服で口を押さえつつ、何とか研究所中央へ向かう。
 「メインの研究室はこっちだ!」
 サイダ老博士の導きで、シゲルたちは煙がいっそう出ているところへ出た。
 「ミズキ! コバラちゃん! タクミくん!」
 メイン研究室の入口に、シゲルの知らない男が一人倒れていた。入口のすぐ側にコバラが仰向けに倒れている。その奥、部屋の中にサイダ女史が見えた。
 「足元にガラスが飛び散っておる! シゲルくん、シュウハタくん、気をつけるんだ!」
 シゲルは、カメックスを部屋の入口に立たせ、ブラッキーをモンスターボールに戻す。
 タクミとコバラは目立った外傷はなかったが、サイダ女史は頭部にケガを負っていた。血が顔面に流れている。
 「ミズキ! わしの声が聞こえるか? ミズキ!!」
 サイダ老博士が孫に声をかけたが、反応しなかった。
 ただ、呼吸音は確認された。
 ショウヤマはタクミに、シゲルはコバラにそれぞれ声をかける。
 コバラはシゲルの声を聞き、意識を取り戻した。
 「シゲル…くん?」
 「コバラさん、大丈夫ですか? 一体、何があったんです!?」
 「…それが…サイダ女史の研究中に、爆発があって…。私とタクミくんが駆けつけた時には、化石が青く点滅しだして…。何かレーザービームを当てられていました。更に、ビームを出していた機械が壊れたみたいで……ウッ」
 苦しそうに咳こむコバラに、シゲルはハンカチを渡して、直接煙を吸いこまないようにした。
 「それと同時に、天井が爆発して、黒いスーツの男たちが入ってきて…。エスパータイプのようなポケモンの能力で、私たち、一斉に壁に叩きつけられたの。そこからは、分からないわ…」
 怯えた顔でコバラが言った。タクミとサイダ女史を見て、もう一人ととつじょ加わった研究者がいないことに気づく。
 「ショウヤマ博士は!?」
 悲鳴に近い声だった。
 シゲルたちが室内を探してもショウヤマはいなかった。
 「確か、ショウヤマ博士は、朝ジョギングに行くと言っていたはず…」
 シゲルが言えば、コバラはうなずく。
 「ジョギングついでに寄った、って言ってたわ。ついでに、サイダ女史の研究を見せて欲しいって」
 「ついで?」
 疑問の声を上げるシゲルだったが、シュウハタに止められる。
 「今はそんな話より、早く研究所を出よう!」
 体力のあるシュウハタがサイダ女史を抱き上げ、シゲルたちは研究所を出た。
 シゲルたちが外へ出ると、ちょうど、が帰ってきたところだった。
 「さん!」
 シゲルがにかけ寄る。
 「クルーザーで逃げられたわ」
 「仕方ないです」
 「サイダ博士は、ケガを?」
 「はい。息はしていますが、呼びかけても反応がありません」
 「コバラさん、研究所の中に、救急箱はありますか?」
 は、コバラに視線を送った。
 「え、ええ、ありますよ。でも、研究所の中は煙だらけで…。あと、すぐにウチのクルーザーで港町まで行った方が…」
 「それが、クルーザーは多分動きません。黒スーツの男たちが乗っていったクルーザーの他に一艘ありましたが、ライチュウにじゅうまんボルトを浴びせられていたので、壊されてしまっているかと」
 「そんな!」
 コバラは泣きそうになった。タクミが片手を挙げて言う。
 「あの、クルーザーの中にも救急箱はあります。水辺まで行って、助けを待つか、シュウハタ研究所まで行って、電話を借りるかしないと…」
 「助けを待つ、とは?」
 が聞けば、答えはサイダ老博士から返った。サイダ研究所は、孤島サイダ島にある。クルーザーを使って水路を行かなければならなかった。
 「日に一度、食材を運んでくれるクルーザーが来るよ」
 腕時計を見た。今は十三時前だ。
 「十三時過ぎに来るはずだ」
 「そうですか。あとは、ショウヤマ博士のことですが…」
 サイダ研究所の入り口を見ながら、が言いかけた。コバラが「ショウヤマ博士はどこかへ行ってしまったみたいです」と言う。
 は、それを聞いても入り口を見続けた。膝を折ってピノの頭に手をやる。視線を合わせ、一緒に研究所へ入ろうとした。
 「さん! 待って下さい!」
 シゲルがを止める。
 「シゲルくんたちは、森を抜けて水辺まで行っていて。私は、さっと中を見てくるから」
 「危険だから止めた方がいい。悪いがわしらは行くぞ」
 サイダ老博士が、シュウハタと一緒に歩き出す。
 五、六分は森のような木々の間を歩かなければ、水辺まで行けない。サイダ老博士は、ポケモンが多く住む、大好きなこの土地を恨むことになるとは、思いもよらなかった。
 孫の顔を見たが、青白い。血がいっそう目立つ。
 サイダ女史の手を握り、老博士は無事を祈った。
 コバラとタクミもサイダ老博士に続いた。
 とシゲル、そして彼女たちのポケモンがその場に残る。
 「さん? ショウヤマ博士を待っているのですか?」
 「ええ、彼はここに来ているはず。でも、クルーザーには乗っていないようだったわ。そうなると、まだこの中に残っている可能性がある。ビコス、念のため、研究所の上の穴を見張って。煙は吸いこまないように」
 ビコスはうなずいてサイダ研究所の上へと向かう。
 「その必要はないよ」
 入り口から、男の声がした。
 「ショウヤマ博士…」
 シゲルは全身すすだらけのショウヤマを見た。彼も特にケガはしていないようだった。足取りもしっかりとしており、こちらに歩いてくる。
 はショウヤマのジャージ全身をさっと上から下へ見て、言う。
 「シゲルくん」
 「はい?」
 「ショウヤマ博士の身体検査してもらえる? 何か隠し持っていないか」
 「え?」
 の言葉に、ショウヤマは眉を垂らしてなげいた。
 「やだなあ、火事場泥棒なんてしませんよ」
 「いいえ、デオキシスに関する資料をお持ちのはず。でなければ、こんなに遅く出てくるわけがありません」
 言い切るに、シゲルがショウヤマへの疑いを持つ。
 「……本当ですって。自分の持ち物を、持っているだけです」
 軽く笑うショウヤマに、は切り口を変えることにした。
 「黒スーツの男の一人が、シュウハタ博士を『やっぱり裏切り者』と言ったのですが、何かご存知ですか?」
 「いや―…何のことかな?」
 思い当たる節がない、とショウヤマは続けた。
 しかし、シゲルは、別のことで思い当たった。
 「さん、サイダ女史は、あ、…さっきのおじいさんがサイダ・スギ博士というので、あえて女史と言いますが―…、女史は、中で化石にレーザービームを当てていたと、コバラさんが言っていました」
 「要は、デオキシスを誕生させようとしていた?」
 「恐らく」
 頷くシゲルに、ショウヤマは困り笑いをする。
 「まさか。ぼくらは、純粋に化石の復元をしていたんだよ」
 「その化石に、デオキシスの元がついていたのでは?」
 「いいや、そんなものはないね」
 一蹴され、シゲルは黙りこんだ。はゆっくり瞬きしながら問うた。
 「何の化石ですか?」
 「は?」
 「オムナイト? カブト? プテラ? それとも他のポケモンですか?」
 「……」
 「化石を、あの黒スーツたちの男が、三人がかりで盗みに来たと?」
 「あいつらの目的なんか知らないね」
 そっぽを向くショウヤマだったが、次の言葉で長く沈黙せざるを得なかった。
 「爆発から三十分以上経ちますが、あなたは最初の爆発から、何をしていたのですか?」
 ショウヤマはすぐに答えられなかった。
 先日は、この女はまだ謎しか見えていないと思っていた。真実にたどり着くのは、ほど遠いと。しかし、今は真実に近いところにいる。ショウヤマが、このまま全てを白状すれば、だが。
 「黙っていても、ケガ人が出て建物損壊がある以上、ただの研究失敗の爆発ではことは収まりません。警察組織の捜査が入るでしょう。私は、黒スーツたちのことを証言します。あなたは、何とおっしゃるつもりですか?」
 「……そうだね、ぼくは、最初の爆発で気を失って、何とか目覚めたけど研究所の出口を間違えて、他の部屋で煙を吸いこみすぎて倒れてた、んだよ」
 「嘘ですね。ライオ4と取引していたはずです」
 の推測に、シゲルが反応した。
「取引?」
「取引なんて…」
 否定するショウヤマだったが、は彼をにらんだ。
 正確には、彼の背後にいるものを。
 「デオキシス、出ていらっしゃい」
 の言葉に、シゲルもショウヤマも驚く。
 「なぜ、デオキシスがいると分かった!?」
 ショウヤマがほえた。
 「ただのカンです」
 は嘘をついた。デオキシスの気を感じていただけだ。それをショウヤマには言いたくなかった。
 ピノがの前に出て、サバラスはの右横につき、ビコスは建物上から降りてきた。
 がこの場に来た時に感じた気は十二体分。
 彼女は、モンスターボールから出ているポケモンと人間の気を読み取ることが出来た。
 ショウヤマ、サイダ女史、コバラ、男性研究員(タクミ)、ライオ2~4、ゴローン、マグカルゴ、ネイティオ、そして、の知るデオキシス。
 最後の一体。
 生まれたての、デオキシス!
 「デオキシス、サイコキネシス!」
 サイダ研究所の入口から、猛スピードでデオキシスが出てきた。胸の水晶体は、青。
 「かえんほうしゃ、はかいこうせん、その後、かみくだく」
 は素早く指示を出す。誰が何をするか、各自すぐ理解して動いた。
 「カメックス、ロケットずつき!」
 シゲルの指示で、カメックスが構える。
 サイコキネシスをピノのかえんほうしゃ、ビコスのはかいこうせんで防いだ。その間にデオキシスに肉薄したサバラスが、デオキシスの腕にかみつく。しかし、すぐに振り払われた。
 デオキシスが痛みを感じてひるんでいる間に、カメックスがロケットずつきを仕掛ける。カメックスに吹き飛ばされたデオキシスは、サイダ研究所の壁に激突した。
 「デオキシス、何やってる!」
 押されたデオキシスに、ショウヤマが怒りの声を出した。
 「サバラスのかみくだくは、結構効いていると思いますよ。ピノ、かえんほうしゃ」
 消える技を使われては困るので、は動きのないデオキシスに技を使う。
 「ヒーノーッ!!」
 ピノのかえんほうしゃは、半分ほど壁にのめりこんでいるデオキシスに容赦なく浴びせられた。
 「デオキシスっ!?」
 焦るショウヤマだったが、デオキシスは呼び声に反応しないまま、壁からはがれて落ちた。
 チョウコは風でなびいた髪を手で留めながら、冷静に言う。
 「まだ生まれたばかりのせいもあるでしょうが…四対一では分が悪いですよ。デオキシスの力を過信しましたね。ここで、シゲルくんがブラッキーのシャドーボールでも使えば、デオキシスには致命的です」
 の台詞を聞き、シゲルはブラッキーを出した。
 「くっ…!」
 ショウヤマはくやしそうにうめくが、その目はまだ諦めていなかった。
 「デオキシス、戻れ!」
 ショウヤマがリピートボールを出し、デオキシスを戻した。
 ボールの種類に、とシゲルが反応する。
 「まだ、ぼくらの研究は始まったばかりだ…。キミたちなんかに、邪魔をされたくない!」
 執念を感じさせる声音にもはたじろかず、口を開いた。
 「研究は誰にでも胸を張れるものですか? 正規のものであるなら、私は協力もします」
 ショウヤマに近づく。
 「ですが、もし他人には言えないようなものなら…私は真実を暴きます」
 「勝手を言うな。何をどう研究しようと、ぼくの自由だろ!」
 「それは司法の手に委ねましょうか?」
 ショウヤマは後ずさりをしたが、後ろにビコスがいると気づき、足を止める。
 シゲルがショウヤマの左を塞ぎ、に頭をなでられたピノが右を塞いだ。
 四方を包囲されたショウヤマが歯がみをした時、は背後の気配に気づく。
 が振り返ると、シュウハタがいた。
 「ヨウジくん、逃げろ!」
 シュウハタはモンスターボールを振りかざし言った。ボールから赤い光が飛び出し、ショウヤマの頭上で具現化する。
 中から出たピジョットがショウヤマを持ち上げ、空へ飛び上がろうとした。
 「ビコス、ピジョットにダブルニードル!」
 飛び上がったピジョットにビコスが追いすがったが、ショウヤマに蹴られて攻撃が出来なかった。
 ピジョットはショウヤマを連れて飛んでいく。
 「ビコス、出来るだけでいい、追って!」
 ショウヤマはシュウハタ研究所のある方角へ飛んでいった。は追うべきか、シュウハタから情報を聞き出すべきか、一瞬迷う。
 いや、デオキシスという証拠を持つ、あるいは、他にも何か持ち出したかもしれないショウヤマを追うべき。ピジョットの爪に肩をつかまれたまま長時間飛行するとは考えにくい。一度降りて、背中に乗りかえるはず。そこでビコスが追いつけば…。
 いや、人間を一人ぶら下げてるとはいえ、ピジョットの飛行速度には、ビコスもも追いつけないだろう。
 はシュウハタをにらみ、次にシゲルを見た。は一人ではない。
 「シゲルくん、シュウハタ博士に色々事情を聞いてから、シュウハタ研究所へ来て貰えるかしら?」
 「はい、任せて下さい!」
 シゲルはに頼られたことを嬉しく思った。
 「ええ、あとは任せたわ。私は、ショウヤマ博士を追う!」
 はそう言うと、うっそうと生い茂る木々の間へ飛び込んだ。









**思ったより長い話になってしまいました。もうそろそろ、サイダ島を出てホウエンへ行きたいのですが…!?

* 2015/12/26up

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