ドリーム小説 シゲル 夢小説 ポケモン REPORT3:いつでもどこでも闘う少女は仲間をゲットのこと





 
嘘、は自分の首をゆっくり絞めゆくものだと は自覚している。
 今まで、散々自分の経歴を偽ってきた彼女は、嘘を破たんさせないようにせわしなく脳を回転させていた。
 オーキド・シゲルという少年と、なぜか午後のティータイム…真っ最中。
 ワカバタウンの大通り沿いの、にぎやかなカフェテラスで。
 シゲルは生意気にもブラックコーヒーなぞ飲んでいた。対する は、カフェオレにガムシロップは二個、フレッシュミルクは一個を入れて飲む。
 ブラックコーヒーなんて、十歳くらいのお子様が飲むものではないと心底思っていた。が、シゲルは平然と飲み干してゆく。
 信じられない。
 デザートとして頼んだのは、シゲルはザッハトルテ。 は欲張りにも、レアチーズケーキに、季節のフルーツ盛りだくさんのタルト、チョコバナナプリンパフェ…。
 時にはこういう演出も大事なのよ! と、心の中で訳の判らない言い訳をしつつ、 は大人の科学者ぶるのをすっかり諦めていた。
 何を話したら良いのかも判断がつきかねるため、もっぱらシゲルの質問に答えていく。質問攻めも一通り終わったところで、シゲルは改めて に頼み込む。
 「 さん、無理は承知の上です。でも、僕はあのポケモンにもう一度乗ってみたいんです。シームルグに乗せて下さい!」
 シームルグはポケモンではない。 の影に住まう、本来なら実態のないはずの霊子体。だが、特別な力で実体化をすることが出来るため、 やその他の者でも背に乗せて飛べる。
  は迷っていた。このままシゲルと居続けて良いものかと。
 だが、彼はこれからポケモンリーグに参加するのだという。それならば見逃せない。純粋にポケモンバトルを身近で見たいという思いと、何か騒動が起きそうな気がするから、元の世界に帰れる可能性が出てくるという期待。
 無事に終わって欲しいと思う反面、ロケット団のボス登場となる展開を想像してしまうのだ。
 サトシやカスミ、タケシもやってくるのだろう。そして、あの愛らしいピカチュウも。
 「…どこか人目に付かないところなら、少しくらいはいいわよ?」
 声を落として了承の意を伝える。
 「本当ですか? ありがとうございます!」
 シゲルはホッとした表情を見せ、すぐさま嬉しそうに微笑んだ。
 「交換条件あり。私、ジョウトのポケモンリーグを見てみたいわ」
  もにっこり微笑んでみた。
 「いいですよ。一緒に観戦しましょう。あ、僕のバトル、ゼヒとも見て頂きたいですねぇ。僕と僕の可愛いポケモンたちが必ず優勝しますから!」
 自信に充ち満ちた瞳を向けられると、ああ、シゲルってそういやこういうキャラだったよな、なんて懐かしく思い出す だった。
 「ふふっ、それだと、私、数日間留まらなきゃいけなくなるわよ」
 「…そうですよね。無理ですか? お仕事は休めませんか?」
 「どうかな…。有給使っちゃおうかな。うぅーん、そうね、オッケイもらえたら見て行くわ」
 「ええ、それがいいですよ。絶対! 楽しいですから!」
 シゲルが喜々として笑むのを見て、 は微笑みながら後ろめたさを感じていた。




 ポケモンセンターにて、シゲルに仕事場へ連絡するよう勧められた。彼がジョーイさんと話している間に、 は連絡を取るフリをしなければならない。それくらいはいいとして。
 ああ、どうしよう…。
 自分のその場しのぎの行動にはほとほと呆れるが、立ち止まるのも、シゲルの前から黙って立ち去るのも気が引ける。
 行き当たりばったりなのはいつものことなのだが。多少はポケモンの知識があるため、何とかはなると思うことにする。よし、せっかくなのだから、楽しもう!
  は無理矢理自分を奮い立たせた。テレビ電話の談話コーナーで独り呟く。
 「ポケモンをゲットよ!! もとい、ゲットだぜ!」
 と、有名キメ台詞をまねて、 は次の行動へ移るべく、シゲルの元へ向かった。
 シゲルはポケモンを健康診断に出し終えたらしく、ロビーでくつろいでいる。 が近付くと、シゲルは立ち上がり、小走りにかけ寄って来た。
 「 さん、どうでした?」
 「オッケイが出たわ。でも、ジョウトのポケモンを数匹連れ帰ること。これが条件でね。有給使えても、ある意味お仕事の延長ってワケ。期限は明日から十三日間。十四日目の朝には通常出勤…」
  は口元を歪めて見せた。セリフに合わせてと、良くもまあスラスラとウソが出るお口だこの口は、なんぞと思いつつ。
 「それでも良かったじゃないですか。ゆっくり楽しみましょう。僕もポケモンゲットお手伝いしましょうか?」
  は軽く笑いながら両手を振る。
 「いいわ。大会前だもの。時間は大切に使わなくちゃ!」
 「僕は全然大丈夫ですよ。僕もポケモンも、日頃から体調管理はバッチリです! それに、例の約束… 」
 シゲルはシームルグのことを言っている。
 「そのことなら、帰る時じゃあダメかしら? 船には乗らずに、あの子に乗って帰るのよ 」
 「判りました。明日すぐにゲットしに行きますか?」
 「大会の日程は?」
 シゲルは大会の日程をかいつまんで説明するため、 と並んでイスに座る。
 「聖火リレーも盛り上がりますよ 」
 前回のセキエイ大会の話をはさみ、ざっと聖火リレーから最終戦、閉会式にまで話は及んだ。
 「ってことで、シロガネタウンには、前日までには入っておきたいんです。ポケモンのエントリーを済ませてしまいたいのでね。選考会に一日、開会式に一日と一日休み。予選リーグに四日間、また一日休みをはさんで決勝リーグは三日間と三日目には決勝ファイナルの後で閉会式…と」
 「じゃあ、明日一日はポケモンゲットに費やして、明後日は夕方までにシロガネタウンへ行く。そしてポケモンリーグを見まくって、閉会式の後は夜通し朝までお空の旅強行軍…。わお」
  はおどけて言ったが、本当にすることではない。なので余裕の表情だ。
 「まあ、試合の時間以外は近場でポケモンゲットにいそしみます」
 「僕も何か さんのお手伝い出来ればいいのですけど…」
 シゲルがどこかすまなそうに言うのを見て、 は明るく笑った。大丈夫よ、とウインクひとつ。シゲルお勧めのポケモンの話に話題を変えて、二人は夕食へ向かった。




 朝。良い天気である。朝食後シゲルと別れた は、独り草原で立ち尽くしていた。ポケモンゲットだぜ! と、張り切って出て来たは良いが、肝心なことを忘れていた。
 「だってホラ、主人公なんて、いっつもピカチュウお外に出してんじゃん?」
 つぶやく言葉も虚しい。風がかき消してくれる大きさの声でもなかった。冷や汗が出てきそうな勢いで、 は暗い目つきをして独りごちる。
 「……モンスターボール、持ってないじゃないか」
 ポケモンは自分一人でも倒せる。式神を使うまでもないという自信があった。が、いかんせんそれでは通じないのがこの世界。
 ざわめく草むらに注意を向けつつ、 は途方に暮れる。自分の間抜けさ加減をひたすら責め、左後ろにいるポケモンらしき気配の生き物とどう対峙するかを算段し始めた。
 「街にもどろ。道具屋くらいあるよねお金ないじゃないよ…」
 ますます落ち込む気分。腰のウエストポーチには、こういった時のため、少々の貴金属を入れてある。まずは、換金から始めなければ。
 大きくため息をつき、 はワカバタウンへ戻る道へ向き直った。それを狙ったかのように、草むらからは見知らぬポケモンが出てくる。
 初めは無視しようかと思っていたが、 の目はポケモンに釘付けになった。ポケモンにはさほど珍しくないと思われる、短い手足。かわゆい系のポケモンにはよくあるはず。 はそういう小動物にひたすら弱い。
 ポケモンは襲い来るかと思いきや、のんびり草原を横断しつつ、 から視線を逸らさない生き物。 も自然とその視線を受け止める。
 見つめ合うこと一分ほど。
  の耳は、女性の叫び声と機械のエンジン音を拾っていた。
 「お前…追われているのね?」
  の語りかけに、生き物は頷いた。緑色の頭を何度か上下させたが、もう身体だけ前を向けつつ、顔だけ の方を向けるのには限界だった。ポケモンはくるりと顔を進行方向に向け、ちたちた歩いて行く。
 「あの、そんなのんびりで良いの?」
 心配になった が尋ねるが、ポケモンはヒノヒノと言って、やっと思いついたかのように走り出す。
 「達者でな〜」
 言ってすぐ、別の気配に気付いた。ヒノヒノが現れた辺りにもう一つ。注目していると、がさりと大きな音をたてて、紫色の身体に紅い瞳、くるんと尻尾を巻いた愛くるしい生き物が現れる。
 「ギャアー!! こ、コらッタぁあー??!」
 メス型ニンゲンがこれでもか、という大音声で叫びたくる勢いに、ねずみポケモンのコラッタは目を見開いて止まった。
 「いやあああああ!! 本物だー! もーゲットゲット! ボールなんか無くても愛の網でからめ手。あなたのものは私のもの。そうよわったっしはあ〜理不尽の女ぁ〜」
 異様なセリフと節の狂った歌を唄うニンゲンに対し、コラッタは本能的に危機を感じ取り、素早くもと来た草むらに方向転換をする。
 しかし、 には大した素早さには映らない。 が軽く踏んだワンステップで、すぐにコラッタの背後につく。ぎゅっとしっぽをにぎり、
 「召し捕ったり〜ィ!」
 と、喜々として叫んだ。だが、これくらいではポケモンは仲間にならない。適度にダメージを与え、弱ったところをモンスターボールで捕獲。これがセオリィ。それが出来ない は、すぐさま反撃をくらう。
 コラッタの伸びた前歯の攻撃をかわし、しっぽは放さず、高速でぐるんぐるんに回した。コラッタが悲鳴をあげながら目を回したところで、 はぐったりしているコラッタを抱き留める。
 「コラッタゲットだぜ!」
 正確にはゲットではないが。 は気にしないことにした。
 すぐ街へ向かおうとした時、近付いてくる機械音が無視出来ない大きさになる。
 近い!
  はコラッタを大切に抱いたまま、後方へ跳躍した。着地と同時に、物凄いスピードで変わった形の車が現れる。中に乗っているのは、男女一組。
 胸部には、Rの文字がプリントされている。それ即ち、ロケット団の証。
 追跡者がロケット団なら、先程のポケモンが放ってはおけなくなる。怒りの表情のロケット団員を追いかけるべく、 は走った。
 森の闇はどんどん濃くなってゆく。ヒノヒノの気を探ると、ロケット団員に今にも追いつかれそうなのが判った。 は走る速度を上げ、終いには木々の間を飛んで渡り始める。森での移動はこちらの方が断然早い。
  が追いついた時、ちょうどロケット団がヒノヒノに向けて網を投げたところだった。ヒノヒノが悲鳴をあげてもがく。
 「よっしゃー! とっととアジトへ戻るわよ、コサブロウ!」
 山吹色の髪の女が拳を振りかざして喜んでいる。コサブロウと呼ばれた男は、ヒノヒノを自力で回収しながら、くつくつと笑っていた。ヒノヒノが手も足も出ないから。
 でも口は無事。
 「ヒノーッ!」
 ヒノヒノの怒りのかえんほうしゃが発射される。断末魔のような悲鳴をあげたコサブロウが、真っ黒になってぽてりと地に倒れた。
 詰めが甘い。 は冷たく評価すると、車から降りてきた女めがけて跳躍した。
 「何やってんのよコサンジ!!」
 「誰がコサンジだッ?!」
 女がわざと名前を間違えてやると、期待通りコサブロウは怒りで立ち上がった。相棒の名前を間違えるなと盛大に抗議をしようとしたが、一瞬にしてその相棒は吹き飛んだ。
 「え?」
 目の前には、相棒である女の代わりに、黒髪の女が立っている。
 「ヤマトっ!!」
 コサブロウは相棒の名を呼ぶ。
 悲鳴をあげる間もなく、地面にしたたか打ちつけた背を庇いながら、ヤマトは自分を見下ろす女をにらみつけた。
 「ヒノヒノに手を出しちゃダメ」
 黒髪の女が高い声で言う。大きな眼がヤマトを責めていた。
 「ふ、ふざけるな…っ!」
 ヤマトが殺気をこめて言い放つと、女は半眼になってぞっとするほど冷たい声を出す。
 「つべこべ言わずに消えなさい。これ以上は許さないわよ」
 ヤマトは二の句を継げなかった。ロケット団として数々の修羅場をくぐってきた彼女だったが、目の前の女に異様な恐怖を感じて固まってしまう。
 そんなヤマトを救ったのは、コサブロウだった。同じく恐怖を感じた彼は、竦んだ足に活を入れて車に乗りこんだ。 はそれを見ながら、何もしない。コサブロウが気合いのうなり声を上げながら めがけて突進してくる。オープンカー形式の車だ。勢いと無茶な旋回で、後ろの席から段ボール箱が落ちた。
  はというと、目的が自分ではないと予測し、もう一度ヤマトをにらんだ。
 ヤマトが小さく悲鳴をあげたが、車のエンジン音にかき消される。
 コサブロウが運転席から身を乗り出し、ヤマトはコサブロウに向けて何とか震える腕を伸ばした。相棒の腕をつかんだヤマトは、心密かに安堵を覚える。
 そのままロケット団は猛スピードで逃げ帰った。
 「ぷはぁ〜。けむい〜〜」
 排気ガスのせいで はわずかにむせる。けほけほ咳をしながらも、ヒノヒノを助けるべく振り返った。
 ヒノヒノはまだ網から出られず、困った顔で を見る。ヒノ〜と鳴く声も元気がない。
 「だいじょーぶ、今出してあげるね」
 ヒノヒノが安心するよう、優しい声音でしゃべりかける。コラッタを抱えたままでは少々やりづらかったが、 は何とか網の結び口を見つけた。かなり丈夫な素材で出来ていて、ちょっとやそっとでは…ナイフ程度では切り裂くことも出来ないだろう。
 思案していると、 の隙、とみたのか、いつの間にか正気を取り戻していたコラッタが暴れ始める。
 「ちょ、こら、かむなァア!!」
 コラッタの鋭い歯にかまれるのはゴメンだと思い、 はコラッタの首根っこをつかんで頭の上の高さに振り上げる。そこで はひらめいた。
 「…お前のその丈夫で鋭い歯よ!」
 「コラッタ?」
 ぐぐっと に瞳をのぞき込まれたコラッタは、ニンゲンに心底不審げな視線を返す。
 「コラッタの歯で、この網を破って欲しいの! ヒノヒノを助けるために!」
  の必死の頼みに、コラッタはヒノヒノを見る。ヒノヒノも、頼む! とばかりに鳴いた。
 コラッタは、意を決してうなずく。やると決めたからには必ず助けるのだ。瞳に決意をきらめかせ、ひっさつまえばを二度使い、コラッタは網を食いちぎった。
 「やったぁ!」
 「ヒノヒノー!」
 ヒノヒノは喜びの声を上げながら、破れたすきまに身体を通し、何とか外に出る。網の硬い繊維のようなもので、多少身体に傷がついたが。
 「良かったね! ヒノヒノ!」
 「ヒノッ!」
 「いいのよ、お礼なんて」
  はにっこり微笑んでヒノヒノを抱き上げた。ひとしきり抱きしめて、解放する。ヒノヒノは降りると、コラッタにもお礼を言った。コラッタはヒノヒノの無事を喜ぶ。
 ポケモン同士で和やかに話が進んで、どうしてニンゲンに追われるハメになったのかという話題になった。 はヒノヒノの話に耳を傾けつつ、ほくそ笑んだ。
 そう、これはチャンス。
 ポケモンにとっては、 もあのロケット団としょせんは同じ人間。
 だが、今の雰囲気から上手く話を持って行けば、二匹まとめてゲット出来るのではないかと思う。いつ切り出すかが問題だ。 はタイミングを計る。
 ヒノヒノの身ぶり手ぶりを交えた解説が続く中、 はロケット団の落とし物を思い出した。段ボール箱の中から見えたのは。
 紛れもなく、モンスターボール。パッカリ開いた中には、ボールが三つだけ入っていた。周りを見ると、七個、八個、九個…。見えるだけでも十七個くらい。
 あのロケット団員は、数が少ないとされるポケモン・ヒノアラシを大量ゲットのため、捕まえた一匹に仲間の居場所を案内させようとしていたらしい。ヒノアラシはコサブロウが居眠りをした隙に、ヤマトの目をも盗んで逃げ出した。
  は普通の人間だが、動物の言葉が解る。ポケモンも例外ではなかった。
 「そうなの…。一時間もあいつらと鬼ごっこ状態だったなんて、ほんと、大変だったわね」
  がヒノアラシに近づき、頭を優しくなでる。
 「ごめんなさい。私が言っても仕方ないけど。ポケモンをひどい目にあわせる奴等は許せないよ…」
 心からのセリフだった。こんなに可愛い仔たちを悪用しようなんてのは、絶対に許さない。世界征服などというものに使役するのだろうから、それなりのあつかいが待っているはずだ。
 この世界にいる間は、ロケット団のような奴らと闘おう。いまいち憎めない敵役だっているけれど。
 私一人では少しキツイ。
 「ヒノアラシ、コラッタ、私の仲間になってくれないかな? 普通に遊んだり、ポケモンバトルをしたり、一緒に食べて、寝て…。そして、またロケット団のような悪い奴らがいたら、力を貸して欲しいの」
  はひと呼吸おいて、続ける。
 「一緒に、闘って欲しいの」
 りんと響く力強い声。ヒノアラシもコラッタも、互いに一度だけ視線を絡ませてから、 を見つめた。
 変で、怖い、人間のメス。
 でも、惹かれる。
  の真剣な眼差しを信じ、二匹は笑顔で頷いた。








*2005/06/18up
ヒロインちゃん変なおなご全開一歩手前くらいなんですよコレでも…。さー、次もポケモンゲットだぜ!
ところで、「コサンジ」と聞くと「仔サンジ」と脳内変換するのは私だけでしょうか。ワンピのサンジさんー。
**2005/06/19;す、すみません…。シロガネ大会中に一日休みがあったので、大会日程とヒロインの休み期間を訂正しました……。
2007/02/01;何で今頃、とばかりに、ヒロインの休みをまたまた訂正ですお馬鹿私! 予選の前にも休みがあったの根!



夢始