ドリーム小説 夢 シゲル ポケモン

REPORT6:ヒカレハジメ 1





 良い天気だ。晴れ晴れとしているのはシゲルの心も一緒で、彼には試合前の緊張すら、驚くほど心地良かった。
 選考会を余裕で勝ち進んだシゲルだったが、さすがはポケモンリーグに挑戦するだけはあるという、目をみはるような戦いをするトレーナーがたくさんいた。
 順番が早かったため、落ち着いて観戦し、どんな相手が残るのかと観察。
 生憎とサトシは見つかりそうにない。どれだけ強くなっているのか、気になるところではあるが。
 シゲルは のもとへ戻り、ポケモンゲットの手伝いをしようと決めた。彼女は、シロガネ山のふもとまで行くと言っていた。気分転換、と思う。
 まずは、選考会で戦ってもらったポケモンを選手村のポケモンセンターに預け、村の入り口で自転車を借りた。レンタル品ではあるが、中々気に入るデザインだ。
  も自転車で行っているはず。モルフォンとクロバットに、空中から捜すのを手伝ってもらう。
 「ヒノアラシかコラッタを連れている女性がいたら、教えて欲しい。もし女性一人でも、薄オレンジのシャツを着ていて、黒髪の肩くらいまでの長さを目印に捜してくれ。頼んだぞ」
 二匹は羽ばたいて左右の空に別れた。
 三十分ほど進むと、森へやって来た。この森を抜ければ、ふもとへたどり着く。森の中へ入るまでには、 は見つからなかった。
 自転車で進むのは困難だと判断したシゲルは、森へ入ってすぐ、草むらに自転車を隠す。
 辺りは静かで、バトルの声は聞こえない。勘を頼りに歩き始めると、クロバットが降りて来た。
 「どうした、クロバット。誰かいたか?」
 「クロロ!」
 「よし、案内してくれ」
 「クロクロ」
 クロバットの案内で、シゲルは先へ進む。
 特に野生ポケモンとも出会わず、シゲルはすんなり と再会した。既にモルフォンもいる。
 「シゲルくん」
  はスニーカーの靴ひもを結び直しているところだった。
 「来ちゃいました」
 「勝ったのね?」
 「ええ、もちろん」
 「おめでとう」
  はにっこりと微笑み、ヒノアラシのピノも、祝福の声をあげた。
 「ありがとう、ピノ」
 「ヒノッ!」
 ピノを抱き上げたシゲルは、モルフォンとクロバットに礼を言う。
 「どうです、 さん。ポケモンゲットの調子は?」
 「今回はあまり…。うーん、欲しいなって思うポケモンはいるんだけど、一度にゲット出来るのは限りがあるから…」
 ポケモンの乱獲を防ぐためのルールだった。トレーナーが持てるモンスターボールは六個まで。それ以上のポケモンをゲットするためには、一度、ポケモンを預けなければならない。
 預かりシステムを持ち歩く事は到底困難だ。ポケモンセンターなどにある転送装置を小型化出来たとしても、車に乗せる必要があると思われる。
  には恨めしいルールであったが、ポケモンのことを考えて作られているのだから、仕方ないといえた。
 だから、先日のロケット団のような行為は、違法。
 しかし、 はその違法をやってのけている。
  がゲットした数は、既に十匹。シゲルには、ピノたちを含めて五匹ゲットしてあると伝えている。その内の三匹は、自分の研究所へ転送したとも話した。
 大嘘である。
  はロケット団の落とし物のモンスターボールを、全部せしめていた。お気に入りのポケモンは、ぜひとも連れ帰りたいという思いからだった。
 「数匹連れ帰るってことで、課題はクリア出来そうだけど。でもねー、欲張っちゃうのよう! もっとたくさん欲しい!」
 「あははは。このシロガネ山付近は、強いポケモンがたくさんいると聞いています。 さんのお目当ては?」
 「ヨーギラス。山の中を捜すのが一番良いのだろうけど、森でも目撃情報があるのよ。恐らく、食料探しのために降りてくるのでしょうね」
  はあくタイプのポケモンを集めようとしていた。純粋にあくタイプ、ではなく、他にも属性がついているポケモンを。
 みず、こおり系統が好きな だが、今の目標はあくタイプを集めること。
 そこで、ニューラは絶対に外せないと思っていた。しかし、手近なところで捜すとなると、今はヨーギラスが一番なのだ。ヨーギラスは、いわとじめんの属性を持っている。いわ・あくタイプとなるバンギラスに進化をさせれば、相当な戦力になるだろう。
 あとは、ヘルガーが欲しい。デルビルでゲットをして、じっくり育ててみたい。
 みずとあくの組み合わせはジョウト地方にいないらしく、実に残念である。
 「あ、ヤミカラスも欲しいなあ」
 明日にはヤミカラスとデルビルをゲットするつもりでいた。今日は、ヨーギラスとニューラのつもりだったが、シゲルが来たことでいささか予定が狂う。
 「何か…ゲットする基準でも?」
 「…属性を二つ持つポケモン捜し。それ以上は、秘密」
 シゲルは、ヨーギラスの進化図を思い描く。サナギラスになって、バンギラスになる。ヤミカラスは進化しないといわれているが、初めからあくとひこうタイプである。他にも、たくさん属性が二つのポケモンはいるのに、 のこだわりが判らない。
 「僕、ヨーギラスを捜すお手伝いをしたいんです。一緒に捜してもいいですか?」
 「…ええ!」
  は人工的な笑みを作った。
 これで、目的以外のポケモンのゲットは、自重しなくてはならなくなる。空きのモンスターボールは、あと、三つ。という設定。
 「今ね、ララコットに辺りを偵察してもらっているの。戻ってくるまでは、あまり遠くへは離れたくないのだけど」
 「クロバット、モルフォン、お前たちもヨーギラスを捜すのを、手伝ってくれ。あ、ヨーギラスは見たことないか…」
 シゲルはポケモン図鑑を取り出し、ヨーギラスのデータを液晶画面に映した。
 「こいつだ。頼んだぞ」
 モル! クロ! と、思い思いに鳴いて、二匹は宙へ舞った。
 すると、入れ替わりに、ララコットが戻って来る。ララコットは を見上げ、首を振った。
 「そっか、残念。捜し方を変えるか。ララコット、捜している間に、他のポケモンに出会った?」
 ララコットは頷く。
 「飛んでいる、もしくは、羽があるポケモンはいた?」
 ララコットは後ろを向き、片手を伸ばした。
 「よし、その仔をゲットして、ヨーギラス捜しを手伝ってもらいましょう。森に住むポケモンなら、ヨーギラスが現れるポイントを知っているかも」
 「なるほど。ええ、捜す数は多い方がいいですしね」
  は頷いて、ララコットを先行させる。シゲルはピノを放した。
 周囲に気を配りながら進むと、ピノとララコットが に視線をよこす。 は立ち止まり、シゲルもそれにならった。
 しばらく耳を澄ませていると、シゲルの耳に聞きなれた羽音が届く。 は早くに気づいていたが、どんなポケモンが現れるのかまでは、見当がつかなかった。
 「 さん、まずいですよ。スピアーの群れです」
 「スピアー? …ああ」
  がのんびりした調子で返事をすると、シゲルは眉根を寄せる。
 「刺激さえしなければ、襲ってくることもないですけど、群れでいる時にはあまり会いたくないですねえ」
 スピアーはどくばちポケモンである。素早い動きと、おしりにある毒針で敵を仕留める。
 特に、進化待ちのコクーンたちを護っている場合のスピアーは、仲間を護るために容赦ない攻撃を仕かけてくるはずだ。
 マサラタウンを旅立ったころ、トキワの森で出会ったスピアーたちは、まさしく凶暴だった。コクーンの巣に迷い込んだだけだったが、ひどい目にあった。追いかけ回されても、うかつな攻撃は出来ないと思い、手は出さなかったからだ。
 シゲルに非はないはずだが、彼らが悪い、と言い切るのも気が引ける。
 今回の群れ移動は、食料探しだろうか。
 「うーん。確かに、羽があって飛んでるけど。どうしよう。群れかあ…」
 ララコットをちらりと見て、覚えさせたばかりの技を使わせようと決める。
 「ララコット、昨日の、お願い!」
  のお願いポーズに、ララコットは半歩引く。そして、半眼で を見上げた。
 「おねが〜い!」
 シゲルには何のことか判らないので、ララコットがため息をつくのを黙って見ているしかない。どうしたものかと、ピノを見る。彼は、 とララコットのやりとりを見もせず、長いあくびをしていた。
 「あの、 さん?」
 心配そうに声をかけるシゲルに、 は笑顔で言い切る。
 「大丈夫! 心配しないで」
 ララコットは羽音のする方へ進んで行く。 の指示で、ピノはララコットの近くの木に登り、援護待機。
  とシゲルは、低木から身をかがめて、ララコットを見守った。
 羽音が大きくなり、スピアーの群れが姿を現す。鋭い切っ先は、何もおしりの毒針だけではない。両手ですら、獲物を仕留めるのにこれ以上ないくらいに鋭い。
  はスピアーの手の形を見て、昔映画で観た、中世ヨーロッパの騎士が使っていた武器を思い出す。ランスと呼ばれていた気がするが、定かではない。そういえば、スピア、という同じく槍の武器もあった。
 スピアーたちはララコットを見つけ、警戒しながらも彼女の頭上を通って行く。
 シゲルは何が起こるのだろうかと、冷や冷やしながら見守った。もし二匹だけで敵いそうにない時は、逃げるために自分のポケモンを使おうと思う。
 モルフォンがいれば、ねむりごなが出せるし、モルフォンもクロバットもちょうおんぱが使えた。しかし、モルフォンたちが戻って来る可能性は低く、通常の物理攻撃をしかけるしかない。シゲルは、ベルトにつけたモンスターボールに手を運んだ。
 ララコットは、スピアーたちの中で、唯一…数秒ではあるが…視線が合わさったスピアーに、技をくり出す。
 ウインク! ウインク!
 ララコットの善戦虚しく、メロメロの誘惑を受けたスピアーは、鼻で笑って過ぎて行く。
 「あれ?」
  が小さく呟いた。
 「げっ! そうか、あいつらのもとがスズメバチやアシナガバチなら、働きバチはみんなメスだ!」
 「 さん、どうするんですか?!」
 どこまでスズメバチ科の蜂たちと似ているのか判らないが、もし一匹が毒針を刺すと、毒以外に攻撃フェロモンを出す。残りの集団もそのフェロモンにつられて、襲いかかってくると思われた。
 「ピノ! メロメロ!」
  は大声でピノに命令した。
 「ヒノーッ!」
 ピノはご機嫌な声で了解し、バッと木の枝から降り立った。
 その反応はあまりにも派手だったため、一斉にスピアーたちの気を引く。
 ピノは視線を浴びて、照れた。事態の危険性に気づいていない。
 「ッ! ピノが的に…!」
 シゲルは慌ててモンスターボールを大きくして、構えた。
 「待って、よく見て」
  が制止し、シゲルが落ち着いてスピアーたちを見ると、半数のスピアーたちの目はハートマークになっていた。
 「えっ?」
 「…ちょーっち、やりすぎだけど…。メロメロ、大成功!」
 言うや否や、 がかけ出す。モンスターボールを出し、さらにピノに伝える。
 「ピノ、目の前のカワイ仔ちゃんに、サービスサービスぅ!」
 「ピィーノんv」
 可愛らしく小首を傾げたピノは、そのままスピアーに抱きついた。
 「すッ?! スピピアーーーーー!!!」
 メロメロ状態最高潮のスピアーは、そこで気絶。
 「はーい、恋するスピアー、ゲットでーす!」
  が投げたモンスターボールに、気絶スピアーはあっさり閉じ込められた。
 「そ、そんなゲット、ありですか?」
 シゲルの問いに、 とピノがウインクで答えを返す。
 「ありよ」
 「ヒーノ」
 メロメロにかからず、仲間の様子に戸惑っているスピアーたちが正気に戻る前にと、 はゲットしたてのスピアーを出して、言う。
 「あなたには、これから私と旅をして欲しいの。もちろん、このピノも一緒よ。急で悪いけど、仲間のみんなに、お別れのあいさつをしてもらえるかしら」
 スピアーはピノを一目見て、仲間に向き直った。
 身振り手振りで、恋に落ちたことを説明し、女王スピアーにお世話になったと伝えて欲しいと言う。最後に、みんな元気で、と言うと、仲間たちはうなずき、去って行った。
 「あら、穏便に終わったわね。…良かった」
  がほっとして言うと、シゲルに肩をトントンつつかれた。
 「ララコットは、良くないようですよ?」
 「…あは」
  の判断ミスで、同じメスに向かってメロメロ攻撃を使ったばかりでなく、狙ったスピアーには鼻で笑われる始末…。
 ララコットは、大いに不機嫌だった。
 「ごっめーん、ララコット! 怒らないで。あなたは、とっっても、魅力的なのだから。ね、ラヴリーララコット!」
  が甘えた声でララコットを抱きしめる。頬をくっつけ、頭をなで、必死だ。
 「コラッタ」
 「あ、冷たい! …ねえ、許して。ごめんなさい。ララコット」
  から視線を外し、ふくれるララコットの頬に、シゲルの人差し指が触れる。
 「 さんの言う通りだよ。僕も見てたけど、ララコットのウインクと笑顔、すごく可愛かったよ。もう一度、見せてくれるかい?」
 ふわりと微笑み、シゲルはララコットの瞳をのぞきこむ。
 「…」
 元々口数の少ないララコットは、無言で首を振った。
 「だめ?」
 シゲルの優しい声に、ララコットは負けた。
 「コラッタ、ララッタ。コラッタ」
 「…機嫌、直してくれるのかな?」
 ララコットが何と言っているか、シゲルには判らなかった。しかし、 はにっこりと笑う。
 「シゲルくんに褒められて、良かったわね、ララコット?」
 「コラッタ」
 まあね、とでもいうように、ララコットはこっくりうなずいた。









夢始  



**ララコットがうらまや…もとい、羨まスィーー。
*2006/03/22up