ドリーム小説

REPORT6:ヒカレハジメ 2





 結局、森の中ではヨーギラスを見つけられそうにないため、 たちはシロガネ山に登る事にした。
 ふもとまでやって来た時、 は空腹を感じた。買っておいたおにぎりをシゲルと分け、ピノたちにはポケモンフードを与える。
 しっかりと胃に収めた一行は、山の中腹あたりまでやって来た。
 「スピアーたちがヨーギラスとバンギラスを森で見かけたのは、二日前。大体、二、三日置きに下へ降りてくるグループ。他に、六体ほどの集団でいるグループ…」
 「森は広いですが、考えようによっては出現場所を特定出来るかも。ヨーギラスたちが好みそうな木の実などは、割りと決まっています。また明日捜してはどうですか?」
 時間さえ気にしなければ、数日キャンプをしても構わないくらいなのだが、 にそんな暇はない。
 「住み家の好みも、そこそこ決まっているわ。いくつか候補は思いつくのだけど。動き回る森の中を捜すよりは、必ず帰る住み家へ行くのが良いと思う」
  はあらかじめ、ネットや本でヨーギラスたちの好み・習性を調べていた。
 「柔らかい土が豊富な場所に卵は埋められる。その土を食べながら地上へ出てくる。成長してからは硬い岩を好んで食べるから、道しるべくらいにはなってくれるかもね。ヨーギラスたちから遠いところは、被害…と言ってはなんだけど…が少ない」
 ヨーギラスとその進化系の研究家の資料を思い出しつつ、手分けをして住み家を探そうと提案した。
 「私たちは上の方へ行くわ。気をつけてね」
 「はい。 さんたちも、お気をつけて」
 シゲルと別れた は、頃合いをみて、スピアーに話しかけた。スピアーには、ビコスと名づけた。
 「あなたたちは、山には行くことあるの?」
 「スピアスピ」
 「そっか、じゃ、ヨーギラスたちの居場所は知らないかあ。うーん、どうしよ。あまり高いところには住まないようだから、これ以上登ってもいない確率高いな」
 「ピノ〜?」
 ピノは の肩に乗っている。どうするの? と、聞いた。
 「もう少し行ってみるか。ビコス、森にやって来るヨーギラスたちの特徴とか、何か知っていることはない?」
 元々、ポケモン保護区以外に生息しているヨーギラスたちは、一つのグループで行動していたのだそうだ。
 それが、半月ほど前から、集団と二匹だけのグループに分かれたらしい。ビコスは、理由までは知らない。
 「ふうむ。ケンカでもしたんかな? それなら、元々の縄張り範囲外に居を構えている可能性が高いわねー」
 ララコットたちに偵察をしてもらいながら、 はとうとうシロガネ山の頂上付近にまでやって来てしまった。
  にとって山登りは大した事ではないが、ポケモンたちには疲れの色が見て取れた。空気も薄くなり始め、長時間の滞在は適さない。
 「みんなはここで待ってて。私は、もう少し上まで行ってみる。何かいる気配がするから。別のポケモンかもしんないけど…」
 もはや、歩く、というよりは文字通り登る、いや、よじ登るという表現がピッタリになってきた。崖のような斜面を登り切ると、完全に雲におおわれた頂上が姿を現す。
 息が乱れている。 は深呼吸を繰り返した。
 視界の悪さに舌打ちをして、それでも前へ進む。ゆっくりと。
 手探りも交えて岩肌に辿り着き、ざらついた感触を手の平に気配へと近づいた。左手が空を切る。岩壁は途切れ、 の目の前に暗闇へ続く空洞が現れた。ためらいなく足を踏み入れる。
 歩きながら、ウエストポーチからペンライトを取り出した。小さな灯で映し出される奥で、何かが動いた。
 僅かな影の振動。大きさからして、バンギラスだろう。ここへ来て、 は確信めいた気持ちでバンギラスとヨーギラスがいると思った。
 「バーンギラスさーん。こーんにちはー」
 反応なし。
 「バンギラスさんじゃありませんか〜? 私〜、 いーますねん」
 何で関西弁だ、私、とセルフツッコミしつつ、 は岩陰をのぞいた。
 「!」
 確かに、バンギラスはいた。足元には、小さなヨーギラスもいる。バンギラスに必死にしがみついていた。
 「バンギラス、アンタ、具合悪いの?」
 侵入者に対する、緊張からくる汗ではないようだ。バンギラスの顔には、びっしりと玉のような汗が浮かんでいた。
 ヨーギラスは、心配そうに とバンギラスの顔を交互に見ている。その不安げな目つきは、どこかトロンとしていて、吐く息の速さも気になった。
 「ヨーギラスも、か。診てあげる。医者の資格はないし、ジョーイさんにはとても及ばないけど、少しくらいは楽になるかもよ?」
  がバンギラスに手を伸すと、警戒のうなり声が大きくなった。
 「…原因を調べて治さないとさ、あなたより体力のないヨーギラスは、やばいんじゃない?」
  の指摘に、バンギラスはうつむく。かすみ始めた視界には、小さな仲間。
 「さあ、大人しくして。私に任せてちょうだい」
  は優しい声音で言った。



 シロガネ山の中腹から下に向かって調べることにしたシゲルは、クロバットの知らせでヨーギラスたちの住み家を見つけた。
 「よく見つけてくれたな。ありがとう、クロバット」
 木の陰から住み家の入り口の様子を見る。居場所は特定出来たので、 に知らせるべきだと思った。シゲルはクロバットを連れて、モルフォンを捜す。クロバットのちょうおんぱでモルフォンに合図を送った。
 「さて、 さんはどう捜したものか…」
 大声で捜す、というのが手っ取り早いが、どのみち別れたところまでは山を登らなければならない。
 「クロバット、モルフォンとの距離はどれくらいだい? 近い方?」
 「クロクロ」
 クロバットはコクコクうなずいた。
 「そうか。…上手くいって良かった。いつかちゃんと調べるよ。ちょうおんぱによる、ポケモン同士のコミュニケーションについて。同じポケモンたちのことは調べられているけど、別々のポケモン同士っていうのは、まだメジャーじゃないと思うんだ。 さんは凄いよな、クロバット。ポケモンの知識も、バトルの仕方も…」
 森でのスピアーゲットを思い出し、少し笑ってしまった。
 クロバットとモルフォンで連絡を取るのに、ちょうおんぱが有効だろう、と言ったのは、 だった。ランチの時に近距離では試したが、広範囲でも問題ないようだ。どれくらいの距離まで有効なのか、じっくり実験したかった。
 ポケモンの技は、使い方次第…。
 「あれ、モルフォンと一緒にいるのは、 さんのスピアー? おーい、モルフォーン! ビコス!」
 飛んでくる二匹に目を留め、シゲルは大きく両手を振った。モルフォンたちは急いでやって来る。
 「どうした、ビコス。 さんに何かあったのか?」
 「スピースピアー」
 ビコスは腕に巻かれたハンカチを見せる。シゲルが白いハンカチを解くと、中にはジョーイ宛のメッセージが書かれていた。
 「ヨーギラスとバンギラスに低酸素症の疑い? …高山病のことか。そうか、ヨーギラスはともかく、大きなバンギラスを運ぶのは大変だ。それで車の手配を…。分かった。ビコス、大変だろうけど、ふもとのポケモンセンターまで頑張ってくれ。クロバットはポケモンセンターの場所を覚えているな? あのシロガネタウンに行く前に寄ったところだ。…って、どうしたんだ、モルフォン?」
 慌てた様子のモルフォンをよく見ると、森の奥を気にしていた。シゲルの目には何も見えないが、耳を澄ますと、音が聞こえた。
 「何だ?」
 モルフォンもビコスもシゲルに何かを伝えたいようだ。クロバットも慌て始めるが、何のことだか分からない。
 「来るのはポケモンか? 危険なのか?」
 三匹は一斉にうなずく。
 「……。ここはいい。ビコスとクロバットは、大急ぎでジョーイさんを呼んできてくれ! 僕とモルフォンで何とかするさ。さあ、行ってくれ!」
 シゲルにうながされ、ビコスとクロバットは羽ばたいた。飛び上がった時、クロバットが気づかわしげにシゲルを見る。シゲルは、安心させるために微笑んだ。
 「モルフォン、いつでもをねむりごな出せるようにしておいてくれ」
 「フォン!」
 固唾をのんで待つと、地響きのような音が聞こえてきた。
 木々の間から出て来たのは、三匹のリングマだった。いずれも、怒り顔。
 「な、何で?」
 ポケモンが怒る時。
 他のポケモンや人間に縄張りを侵された時、食料関係、仲間割れ、エトセトラ…。
 「…モルフォンとビコス…、ここへ来る前、リングマに会って―…」
 シゲルが言い終わる前に、リングマたちは突撃して来た。
 「…ッ。モルフォン、ねむりごな!」
 「モルフォーン!!」
 リングマの攻撃をきれいによけ、モルフォンはねむりごなを放つ。
 リングマたちは怯んだが、一番体格の大きいリングマは両腕でねむりごなを振り払いつつ、モルフォンに突っ込んで来た。
 「モルフォン、リングマの腕に、特に爪に気をつけろ!」
 シゲルの注意も虚しく、モルフォンはリングマのきりさく攻撃を受けてしまう。
 「モルフォン!」
 吹き飛ばされ、苦痛の声を上げるモルフォンをシゲルは受け止めようとする。しかし、受け止め切れずに一緒になって吹き飛ばされてしまった。
 「うわあ!」
 シゲルは地面に尻もちをつく。けれど、モルフォンはしっかり抱いて放さない。
 「モルフォン、しっかりしろ」
 「フォ…ン」
 モルフォンは弱々しく瞬きをする。
 シゲルは、モルフォンに労いの言葉をかけ、モンスターボールへ戻した。
 リングマたちの敵意は収まっていない。
 「話し合えたら、どれだけ良いだろうね。でも、それが出来ない今は、力づくで止めさせてもらう!」
 気色ばむリングマを見すえながら、シゲルは、モルフォンとは別のモンスターボールを取り出した。
 「行け! マイ・スイート! カメックス!!!」
 シゲルの呼び声に、気合いの一声で応えたのは、シゲルのパートナー、カメックスだ。巨体は威風堂々、眼差しは力みなぎり、威かくの声は鋭い。
 リングマの中には、カメックスを見るなり、後退るものもいた。
 「水で頭を冷やしてもらおうか。カメックス、リングマたちにハイドロポンプ!」
 ひとかたまりになっているリングマたちへ、カメックスの正確無比なハイドロポンプが発射された。爆発的勢いの攻撃で、リングマたちは散り散りになる。
 しかし、やはり一番大きなリングマだけは、水浸しになって片ひざつこうとも、闘志を失わないでいた。
 「…さっきは力づく、とは言ったけど、出来ればこれ以上争いたくない。ビコスや僕のモルフォンに非礼があったのなら、代わりに謝るよ。だから、もう、止めてくれないか?」
 シゲルの説得に、リングマは考え始めた。
 「頼むよ」
 リングマはにらむのを止めない。シゲルが次の言葉に困っていると、低木の間から、ララコットが現れた。ぎょっとしつつも見守っていると、ララコットはシゲルに視線をくれる。そのまま、ララコットの目線はリングマへ。
 ララコットは足音を忍ばせて、リングマへと近づいていく。リングマは気づいていない。
 自分の視線でララコットの存在を悟らせないよう、シゲルはリングマの視線を受け止め続けた。
 ララコットはリングマの足元で止まり、リングマを見上げる。やっとララコットに気づいたリングマは、警戒して立ち上がった。ララコットは気にせずに、リングマへ向き直る。
 「コラッタ!」
 「!!??」
 ララコットが何事か告げると、リングマは無言で大きくのけ反った。
 「ら、ララコット?」
 シゲルの呼びかけに、ララコットが振り向く。彼女は、ゆったりとした足取りでシゲルとカメックスの方へ歩き出す。
 それを慌てて追いかけるのは、リングマ。
 「グマッ、グマグマ!」
 待ったをかける手つきのリングマが叫ぶ。しかし、ララコットはリングマを見もしない。そのままシゲルの足元でジェスチャーを始めた。
 まず、小さな腕で力こぶを作った。そして、何かをかつぎ、引っ張る。
 「……えっと、力持ちと、運ぶ?」
 「コラッタ、コラッタ」
 シゲルの解釈に、ララコットは指打ちの真似をした。
 「あれ、違う? それとも、惜しい?」
 違うのなら、首を振ればいい。シゲルは困ってカメックスを見た。
 「コラッター」
 「カメーックス」
 二匹はうなずき合い、カメックスがふらふらとララコットに近づくリングマへと迫る。リングマはカメックスを見ていない。ララコットだけを見ていた。そこでシゲルは、ララコットがメロメロを使い、リングマをとりこにしたのだと気づく。
 リングマの様子に納得した時、カメックスがリングマを担ぎ出した。そして、そのままで数歩歩いて、降ろす。
 シゲルの脳裏にようやく閃きが走った。
 「…力のあるリングマとカメックスで、バンギラスを運ぶんだね?」
 「コラッタ!」
 「よし、協力するよ! 行こう、カメックス」
 「カメカメ」
 ララコットの案内のもと、シゲルたちは大急ぎで山頂へ向かった。










夢始  



**まだまだ続きます。
 シゲルが さんに惹かれ始めるまでは――…。

*2006/07/06up