ドリーム小説 夢 シゲル ポケモン

REPORT6:ヒカレハジメ 3





 薄着のために、肌寒さを覚える。半そでから伸びた腕をさすりつつ、 はシゲルを待っていた。
 ジョーイに車で来てもらっても、頂上の崖のような斜面という障害は何とかクリアしなければならない。
 バンギラスを安静に運ぶ手段を色々考えたが、出来る最善は、シームルグに協力してもらい、バンギラスを頂上から崖下まで運ぶことだった。何とか力をふりしぼり、シームルグは山の七合目あたりまで運んだ。今のシームルグの力では、重量のあるバンギラスを移動させるのはそこまでが限界。
 安静第一が良いだろうとは思いながらも、車が入れるところまではカメックスに手伝ってもらうつもりだ。
 まだ見ぬ他のバンギラスたちを思い描く。もう一匹、力のあるポケモンがいると救護の安全率は上がるだろう。
 無い物ねだりをしても仕方がないが、仲間割れをしたヨーギラス・バンギラスたち集団グループに助けを求めた方が良かったかもしれない…。
  は、自分の判断に迷いながら、瞳をきつく閉じる。
  の腕の中で、ヨーギラスが身じろいだ。驚いて目を開ける。ヨーギラスは、苦しそうに息をつき、弱々しく鳴いた。
 「苦しいだろうけど、頑張ってね」
 「ヨギ〜」
 「大丈夫。あなたも、バンギラスも、私たちが助けてあげる。絶対に」
 片手をバンギラスの腕に当て、身体の冷たいヨーギラスを抱きしめながら、 はたき火の火を見つめた。ピノにつけてもらった火だ。
 ピノはバンギラスの隣にいる。たき火と、自身の背中の炎とで、動くことが辛いバンギラスを温めてくれていた。
 バンギラスは、少しでも標高が低いところに来たおかげで、気温の助けもあってか、若干呼吸が落ち着いたように思える。
 「ねえ、ヨーギラス、答えるのも辛いかも知れないけど、聞きたいことがあるの。どうして、あんな高いところにいたのか、教えてくれる?」
 「ヨギ、ヨギヨギ」
 ヨーギラスは、バンギラスから聞いていた話をしてくれた。
 元々、ヨーギラスたちはまとまったグループで暮らしていたそうだ。 がビコスから聞いていた情報と一致する。
 けれど、ある日、リーダーのバンギラスが山を下りる、と言い出す。同じ山に住むリングマやドードリオ、ゴーリキー、ドンファンなど、他の種族からも恐れられるほどの力を有したバンギラスだったが、それだけでは飽き足らずに、外の世界で力試しをしたくなったのだ。
 残されるバンギラスたちは慌てに慌てた。もうすぐ生まれるはずのタマゴ、生まれて数ヶ月足らずのヨーギラス、怪我をしたバンギラスを抱えているのだから。
 今グループからリーダーがいなくなれば、他のポケモンたちとの縄張り争いは避けられない。この状態では、とてもじゃないが勝ち目がない…。
 それに、人間の密猟団という脅威もあった。
 リーダーバンギラスは、悩んだ。まとめ役である自分が、勝手に生きることに。仲間のことも大切だけれど、自分の力で外の世界を生きてみたい、そう思ってしまったことに。
 グループの中でサブリーダーの役をこなしてくれているバンギラスがいるが、彼が一番リーダーが出て行くことに反対をしていた。安心して後を任せる望みは断たれた。
 リーダーは何も、すぐに出て行こうとした訳ではない。安全に暮らせるよう、周りの環境を整えてから旅立とうとしていた。
 そんな折り、森で食料を探していると、リーダーとサブリーダーで口論になった。リーダーが、森から出たことのあるパラセクトに外の世界の話を聞いていたからだ。
 力試しをあきらめないリーダーに対し、とうとうサブリーダーのバンギラスが怒りをあらわにした。
 けんかの隙を密猟団に狙われ、何と、怪我の治っていないバンギラスがさらわれてしまう事態が起きる。
 リーダーは、仲間を助けられなかった。
 人間たちが使った武器や拘束具が強力だったためであるが、どうしても、リーダーは自分を許せずに落ち込んだ。
 さらわれたのは、バンギラスだけではない。ムウマ、ニューラ、ヒメグマたちも連れていかれたらしい。
 今なお、シロガネ山はギスギスした空気を残している。
 仲間がさらわれた種族たちは、なぐさめ合うでもなく、いっそう排他的になってしまった。
 ポケモンたちは、個々の力でも、充分に人間に対抗出来るだけのものを持っている。戦闘向きでない種族も、それぞれの性格的なこともあるが、決して負けはしないのだ。
 しかし、今回の共通の敵は、ある程度傾向も対策も分かっているポケモン同士ではない。ポケモンたちよりも高等な道具を使い、知恵も働く、悪意のある人間たち。
 縄張り争いをしていてはだめだ。
 ここは、平生のいさかいを収めて、協力をし合わなければ。
 仲間を失う、という同じ悲劇を繰り返さないためにも。
 もともとそんなに仲が悪かった訳ではなかった気がする。
 どうして、こうなった?
 いつから、こうなってしまった?
 リーダーバンギラスは、夜通し考えた。
 腕力を振るうことをためらわなかった、自分が引金だったように思う。
 繁殖数は他のポケモンたちよりも少ないが、岩や土をも食べる自分たちはまず、イシツブテとその進化系とぶつかった。
 争いの輪が広がったのは、その時からではなかったか?
 考えても考えても、解決の方法は思い浮かばなかった。だからといって、このままではいけない。
 ただ、漠然と、そう思った。
 具体的な案は何一つなかったが、シロガネ山のポケモンはひとつにまとまるべきだ、と仲間に提案をした。
 当然、種族の違いがあるため、完全にはまとまることはないだろう。それに、まとめ役を誰がするかで一悶着起きるはず。
 密猟団から身を守るために必要なことだ、とリーダーが説いても、仲間は納得しなかった。何を今更、と相手にされない。
 リーダーは負け字と言い募る。人間という脅威は、放っておくともっとひどいことになるかしれない。しかし、この山にポケモン調査をしに来る、ただの学者たちだっている。そんな人間までを襲い始める前に何とかしなければならない、と。
 もしも悪くない人間を襲って恨みを買えば、更なる脅威を生む。
 サブリーダーは皮肉気に伝えた。もう遅い、と。
 ヒメグマを連れ去られた母リングマが、どうやら人間に牙を向いたらしい。
 他のポケモンとの共存は、難しくはないはずだ。このシロガネ山のポケモンたちだって、例外なく。多少のいさかいはあっても、山、森、それぞれの種族はそれなりに助け合ってこれたはずだ。
 リーダーの必死の説得もむなしく、誰一人として、他のポケモンと協力する、和解することに首を縦には振らなかった。
 仲間の理解を得られなかったリーダーバンギラスは、あきらめて住み家を出ようとした。他のポケモンたちを説得するために。
 その時、地面を突き破って、ヨーギラスが顔を出した。
 タマゴのヨーギラスが、かえったのだ。
 さらわれたバンギラスの子供だった。
 ヨーギラスの声を聞きつけて、仲間たちが外へ出て来た。サブリーダーの説得も聞かず、生まれたてのヨーギラスは、リーダーについて行こうとする。リーダーから離れようとしないヨーギラスに、一緒に行けば危険な目にあうだろう、と言うが、ヨーギラスはますますリーダーにしがみついて離れなかった。
 リーダーは仕方なく、ヨーギラスをかつぐ。仲間は、リーダーを非難した。罵倒の声を背に、リーダーは住み家を離れていった。
 リーダーバンギラスは、初めの一週間、和解と協力を求めて他のポケモンたちに会ったが、聞き入れてはもらえなかった。それどころか、興奮して見境をなくしているものたちに、攻撃を受けそうになることがあり、ヨーギラスを護るために山を登った。
 新しい住み家は、他のポケモンが滅多に来ない、高いところが良い。単純にそう考えた。
 頂上は、修業の場にもってこいの広さだった。また密猟団が現れた時には、絶対に負けてはならない。ヨーギラスにも、戦い方を教えてやった。岩場が多かったけれど、はかいこうせんの威力の前には大した障害にならない上、食料にもこと欠かない良い場所だった。
 住み始めて三日目のこと、ヨーギラスが苦しみ始めた。リーダーも多少身体の不調を感じていたが、原因が分からなかった。
 五日目。ヨーギラスを水場に連れて行くため、住み家から離れた。リーダーもヨーギラスも、少し体調が良くなる。
 次の日に住み家に戻ると、数時間後にはまたヨーギラスの体調に変化が出た。ヨーギラスは、リーダーが修業しているのを眺めつつ、岩を食べていた。
 そこで、リーダーは、原因はこの頂上の岩ではないか、と思い至る。
 激しく動き、疲れた体にむちを打ち、リーダーは水をたくさん飲ませて、食べた物を吐かせようと思った。蓄えの水だけではとても足りない。
 ヨーギラスを抱えて立ち上がったリーダーは、自分の頭に痛みを覚える。視界が歪み、黒ずみ、倒れた。
 何とか動けるようになってから、二匹は食料のある住み家の奥へと入っていった。
 更に二日後の今日、 に出会った。
 以上が、ヨーギラスがリーダーから聞いていた、ことのあらまし。
 「あの場所に居続けていたら、あんたたちヤバかったわよ? ならしもなしで、空気が薄い高所で修業でバタバタ動いていたら、どんだけ体力あるポケモンも辛いでしょーね。山酔い…低酸素症を知らなかったからしょーがないけれど。寒さも水分不足も敵だ」
 一週間ほども持ったのは、山に住む体力があるポケモンだからだろうか?  は、これが人間だったらどうなっているだろう…と想像し、ため息をつく。脳や肺に水がたまる、と本で読んだ事があった。最悪の場合は、死、だろう。
 「教えてくれてありがとう、ヨーギラス。さあ、水を飲んで」
  は、ヨーギラスに水筒のコップを渡す。バンギラスやリングマたち、山の中腹に住むポケモンたちが使う水場の水だ。
 自力で飲めるほどには回復していた。元々、バンギラスほど低酸素症の症状がひどくなかったこともある。
 ゆっくりと水を飲むヨーギラスを見ながら、 は、どうやったらシロガネ山のポケモンたちが抱える問題を解決出来るか考えを巡らしていた。
 人間が口を挟めるような問題ではないし、今となっては、人間は敵だ。
 密猟団の被害が少ない森で、ポケモンの気配はしていたけれど出会うことが少なかったのは、人間を警戒してのことだったのだろう。ピノやララコットと一緒でなかったら、どうなっていただろうか…。
 山中では、一匹荒々しいドンファンに出会ったが、ピノたちに追い払ってもらった。
 心配事はまだある。
 これでは、ヨーギラスゲットだぜ! どころではない。
 (私の最大の目的が…)
 あと二時間ほどで日が落ちる。
 夜になれば、ニューラの出現率が上がり、 としてはそれも悪くないが、このままだとポケモンセンターに行くことになるだろう。
 ヨーギラスたちは、ジョーイに預ければ心配はなくなる。 に出来るのはそこまでだ。他は何もない。
 ニューラゲットの後で、ポケモンセンターに顔を出せば良いではないか…。
 しかし、それでは心残りでバトルアンドゲットに集中出来なさそうだ。
 第一、そんな風に合理的に進めるには、 の良心が痛みもする。
 ここまで関わったのだから、最後までついていたい…。
  の見立てでは、ヨーギラスもバンギラスも、最悪の死、は免れられるだろう。だが、バンギラスは予断を許さない状況であることに変わりはない。
  は、自分の心に巣くう嫌な感情と冷たい考えを押さえ込めて、ヨーギラスの手をにぎった。
 わずかににぎり返してくれたヨーギラスを、愛しく思う。
 (仲間を持ち、大切な人はたくさんいる。でも、私は、人に対して冷たいところがある。それは、今まで何度か思ったことがある。気づいていること…)
 これではいけない、と思う。
 人との関わりを切り捨ててしまえれば、どんなに楽かと何度考えただろう。
 けれど、結局こうして人、ポケモンと…命と関わりを持とうとしている。
 そういえば、昔、書道の授業で「思いやり」という言葉を書かされた。自分に足りないのは、正しくそれだ。
 何を今更、と一笑に付してしまえないほど、 は落ち込んだ。変わりたい、変わらなきゃ、 の一部はそう思いながらも、彼女の冷静な部分は別の思考を進める。
 気配が、四つ近づいていた。










夢始  



*2006/07/20up