ドリーム小説

REPORT:7-2 初めてのケンカ





 翌々日、サトシは応援に駆けつけてくれたゼニガメと再会し、見事予選リーグ第一戦を勝ち抜いた。それは、シゲルも同じだった。二試合目は、二人そろって三日目。もしこれで勝てば、勝ち点六で決勝リーグへ進める。
 明日は、ワカバタウンのジュンイチと、サトシに負けたモエが勝負をする予定だ。 はそれを確認すると、シロガネ山ふもとのポケモンセンターへ向かった。
 夕方選手村に戻ると、広場でシゲルを見つけた。応援団と一緒である。
  は片目を細め、眺めた。不機嫌な自分に気づく。
 (おいおいおい 、不機嫌ってどういうこと? シゲルが気になるのは確かだけど、ちょっともーこれって、まるでそんなやっぱまさか、嫉妬? あれ、そんなに私って惚れっぽい?)
 相手は十歳の子供だ、と、くり返し自分に言い聞かせ、 はフードコートに足を向けた。フードコートで店を探すつもりだったが、手前の屋台群に惹かれ、焼きそばとフランクフルトを買った。フランクフルトにかじりつきつつ、あれこれと見ていると、ロケット団のニャースとムサシを見つける。
 「へえ、真っ当に働いてる?」
 ジョウトリーグの記念品として、オリジナルバッジを売っていた。人垣が出来ており、繁盛しているようだ。悪事をしていないのなら、放っておこう。
  はホテルへ戻り、一人黙々と焼きそばを食べた。それから、夕暮れから夜空へと変貌を遂げる風景を窓越しに見つめつつ、静かな声音でつぶやく。
 「っつーか、何もしないのロケット団?」
 大会をぶち壊しにされるのは、 の望むところではないが、このまま何にも起こらなければ は居残り決定だろう。ロケット団の動向に注意をしなければ、と思う反面、星を見つけた の脳裏に「それは違う」と警鐘が響いた。
 まだ、先。
 そんな予感がする。
 自分の敵は、もっと別の、他の何か。
 得体の知れない嫌な予感だけは、昔から当たり続けている。
 それくらい数字当て宝くじにも当たりたいものだ。
 のどの渇きを覚えた時、 はやっと水分を取っていないことに気づいた。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出し、一気に半分飲み干す。口元をぬぐい、大きく息を吐いた。
 ポケモンたちの食事の用意をするため、電気をつける。ポケモンフーズを取り出し、三匹分用意した。ビコス、ララコット、そしてニューラのラニニュを呼び出す。
 「新しい味のポケモンフーズよ。好きなだけ食べて。足りなかったら言ってね」
 ポケモンたちは返事をして、早速食べにかかった。
  は再び水の飲もうとしたが、今度はカップを使おうと考える。備えつけのコーヒーカップに透明な液体を注いでいると、シゲルが戻ってきた。
 「あ、 さん。お帰りなさい」
 「ただいま。シゲルくんもお帰り」
 いつも通りの二人だ。当人たちも、他のポケモンも違和感には気づけない。
 ただ、言葉に出ない空気の違いを、ララコットだけは感じ取っていた。ララコットは食べるのを止めて、 とシゲルを見る。
 「 さん、明後日の試合も、見に来て下さい」
 「ええ、もちろん見るわ。今日のバトルもスマートにKOだったわね。ブラッキーのかみくだくは強力だった」
 カップに口をつけ、 は一口だけ水を飲んだ。
 「あれは、相性が良かったんですよ。ブラッキーも連日のトレーニングで調子が良かったですし」
 シゲルは電気ポットのプラグをコンセントに差し込んだ。冷蔵庫から新しいミネラルウォーターを取り出し、目分量でポットへ注ぐ。紅茶を飲むつもりだった。用意をしながら、後ろの を意識しつつ言った。
 「僕は明後日も勝ちます。そして、決勝リーグへ進んだら、 さんにお願いしたいことがあるんです」
  はシゲルのお願い候補をいくつか考えたが、どれも自信がなかったので、聞いてみる。
 「なあに?」
 「決勝戦は、身内の応援席…とでもいうのか…。試合コートに近いところにまで、友達や家族に来てもらえるんです。だから、 さんに、そこへ座っていて欲しいな、と」
 「私に?」
 トラブルメーカーでもあり、危険を呼び込む確率も高い がそんなところにいては、シゲルの試合がどうなるか分からない。 は迷ったが、嬉しかった。
 「… さんに」
 振り返ったシゲルは、真剣な顔つきだった。
  が微笑んでうなずくと、シゲルもようやく笑った。
 「良かった」
 少し弾んだシゲルの声を聞き、ララコットは食事を再開した。



 天気はずっと選手たちの味方をしてくれるらしく、大会日程中は晴れが続くようだった。今日も良い天気だ。雲は多いが、風がなく暖かかった。
  は軽く伸びをして、シゲルを待つ。予選出場のため、シゲルは今日一緒に戦うポケモンを登録していた。手続きが終わり、シゲルは緊張を感じさせない表情で言った。
 「お待たせしました。さあ、行きましょう」
 予選第三試合目開始まで、あと四十分。控室で時間を過ごし、 は一般の観覧席へ行く予定だった。
 「今日はどの仔と出るの?」
 「今日は、エアームドとカイリキー、そしてウインディです」
 シゲルとの付き合いが古く、前回出場したセキエイ大会でも力を貸してくれた。ガーディから育てて、とても頼れるウインディに進化している。
 「ウインディかあ。…しんそくを覚えて…」
  が目を輝かせた時、ノック音が響いた。
 「はい、どなたですか?」
 シゲルが立ち上がって、ドアへと歩く。
 「シゲルく〜〜〜ん!」
 シゲルの応援団の声だった。
  は両ほほを平手ではさんだ。嫌な顔をしてはだめ、舌打ちなんてもってのほか、と自分に言い聞かせる。
 「応援ありがとう。大丈夫、絶対勝つから」
 「じゃあ、私たちは観覧席に行っているわね!」
 「しっかりね!」
 応援団の激励を受けて、シゲルが戻ってきた。 は先程と変わりなく、姿勢を正し、微笑すら浮かべてシゲルを見た。
 「ごめんなさい、 さん」
 「謝ることはないわ。私もそろそろ観覧席に行くわね。なるべく前の方で観たいから」
 まだあと三十分ほどあったが、 は小さなボストンバッグを肩にかけた。
 「では、また試合の後で」
 「うん、終わったらこの控室で待っていてね。じゃあ、頑張って」
 「はい。全力で頑張ります!」
 力強いシゲルの発言に、 は安心して観覧席へ向かった。前から三列目、シゲルの横顔が視認出来るところだ。
 予選開始後、シゲルはエアームドを出し、対戦相手はイノムーを使った。エアームドは
こおりわざに弱いものの、スピードを活かしてはがねわざで立ち向かった。しかし、初戦はイノムーの勝利に終わる。
 第二戦は、シゲルのカイリキー対ゴローニャで、カイリキーが勝った。
 そして、ラストバトル。シゲルの対戦相手は、ゲンガーをくり出してきた。
 ゲンガーのナイトヘッドとあやしいひかりに苦戦をし、ウインディはだいもんじで対抗した。けれど、あやしいひかりを受け、狙いが定まらずに、わずかにゲンガーへの直撃はそれてしまう。ダメージは少ない。
 シゲルはウインディを励まし、ほえるを指示した。ゲンガーは威嚇の声にひるみはしたが、さいみんじゅつで反撃をしてきた。ウインディはあなをほるで地中に潜り、攻撃を避けた。
 白熱の試合に、シゲルも対戦相手も、せわしなく頭を働かせ、ポケモンたちに指示を飛ばす。そして会場もヒートアップしていった。
 「ウインディ! しんそくだ!」
 ゲンガーの背後に出たウインディは、射程距離内のゲンガーへ突込んだ。ゲンガーはかみなりを出そうとしたが、ウインディの尋常ではないスピードには敵わず、しんそくを食らってしまう。
 まだあやしいひかりの効果が残っているウインディは、真っ直ぐ立てずによろめいた。あわや倒れるか、と思われた時、シゲルの呼びかけに健気に応え、ウインディは持ちこたえた。
 対して、ゲンガーは立ち上がれずに、気絶していた。
 冷や冷やした場面はあったが、シゲルは勝った。勝ち点六で、文句なしの決勝進出決定である。
 遠くでさわぎ立てる応援団の声を聞きながら、 は控室へ急いだ。応援団に先を越されたくはなかった。
 「あら、サトシくん」
 「あっ!  さん! こんにちはっ!」
 「ピーカー!」
 ジュースの紙コップ片手にサトシとピカチュウは、 にかけ寄った。サトシはシゲルの控室の前だと気づいていない。
 「これから試合だったわね?」
 「はい!」
 「あらあら、すっかり元気を取り戻したのね」
 「 さんのおかげです。またバトルして下さい!」
 サトシは持ち前の明るさからくる、くもりない笑顔で言った。
 「ええ、またね。そうだ、今度はニューラでバトルしてみたいわ」
 「いいですね。こないだのシロガネ山のニューラは強かったよな、ピカチュウ?」
 「ピカ!」
 大会が始まる前、サトシたちは開会式に使われるホウオウの聖なる炎を取るために、ニューラと戦った。とても強いニューラだったが、ホウエン地方からの大会参加者、ハヅキがニューラをゲットして、無事に聖なる炎は聖火ランナーの手に渡った。
 「ところで さん、シゲルは…」
  はサトシがしゃべっている間に、素早く人差し指を出した。サトシの口元に当て、言う。
 「今は自分の試合に集中なさい。シゲルくんが勝っても負けても、あなたはまだ戦わなければならない。あなたが勝てば、その後、知りたいことはすぐ分かるわ」
 サトシのグループの試合は、この日最後の試合だった。負けて落ち込んでも、もちろん試合結果は調べれば分かるが、 はわざとそう言った。
 「…はい!」
 「頑張ってね」
 「ぜっったい勝ちますよ!  さんに観てて欲しいなあ」
  はそれに惹かれたが、ヨーギラスに会いに行く予定があった。
 「ごめんなさい。これから、シロガネ山ふもとのポケモンセンターに行くの。でも、決勝戦は全部観るつもりだから、勝ち上がってね」
 「ええ、必ず。だから、絶対! 観て下さいね。約束!」
 サトシが右手の小指を出した。 はクスリ、と笑って倣う。
 「はい、約束ね」
 お決まりの指切りげんまんの歌を唄い、小指を離した。
 「ああ、私の弟も、サトシ君くらい可愛ければなあ…」
 ため息交じりに が言った。
 「弟?」
 「そうよ。私、妹と弟がいるの。三人姉弟」
 「へえ〜。 さんは一番上のお姉ちゃんなんですね。何か納得」
 「納得?」
 うんうんうなずくサトシだったが、 は何が納得なのか分からない。取りあえず、自分の行動を思い出しつつ、ピカチュウと首をかしげあった。
 「だって、 さん、お姉さんってカンジだもん」
 「あらあら。嬉しい。私、十二の時、同級生の女の子にお母さんみたいって言われたことはあるけれど」
 「お母さん? ウチのママやカスミみたく口うるさくないのに?」
 カスミが聞いたら激怒しそうなセリフだった。
 サトシは目を丸くして驚いていた。 は苦笑いしながら首をふる。
 「まだ、そんなに親しくないからよ」
 会場アナウンスで、本日最後の試合となる三グループの出場者名が流れた。開始まで、あと十分程度だった。
 サトシは急いで残りのジュースを飲み干し、 に別れを告げ、ピカチュウと走って行った。
  はサトシが勝つと信じている。シゲルとサトシがいつ対決することになるのだろうかと、考えた。気の早い話だが、早く観たいし、最後まで…最終決戦の優勝者争いまで待ちたい気持ちもある。どちらかというと、後者。 の考えるライバル対決に、これ以上ふさわしい舞台はないように思えた。

 試合コートと控室はほとんど距離なく、ほぼ直結している。立ち聞きには気が引けたが、シゲルは、 とサトシの会話を聞いていた。
 いつの間にあの二人は仲良くなったのだろう?
 シゲルは、 からサトシの名前を聞いていない。
 親しげな様子や、指切りが気に入らなかった。
 (バトルをしたって? いつの話だ?)
 自分の知らぬ間に、 とサトシが会っていた。それは、 の自由だ。シゲルに止める権利はなく、文句を言えるような間柄でもない。
 サトシも、 にバトルを観ていて欲しいと思っていた。シゲルと同じく。
 シゲルは、サトシの素直さが周りの人を、ポケモンを惹きつけていると感じていた。幼なじみとして過ごしてきたから、それが分かる。
  も?
  は、いつか自分より、サトシを選ぶのではないか。
 「嘘だろ…? 何でこんな気持ち…」
 思わずつぶやいた時、ドアがノックされた。
 「シゲルくん、 です。入っても良い?」
 すぐに返事が出来なかった。シゲルは深呼吸を三回して、まぶたに手の平を当てる。さらに三つ数えて、ようやく返事をした。
 「どうぞ」
  がにこやかに入ってくる。
 「決勝戦進出おめでとう!」
 「ありがとうございます」
 シゲルは普通の調子で言ったつもりだったが、 がわずかに首をかしげたのを見て、ドキリとした。彼女はまばたきをせず、じっとシゲルを見た。
 「もっと喜んでいるかと思ったわ」
 「いえ、喜んでいますよ。ただ、はしゃぐのは優勝してからです」
 「そう…?」
  の不思議そうな声を聞いて、シゲルは何とか別の話題を、と必死で考えた。
 思いつく前に、 が言った。
 「シゲルくんが優勝するころにはヨーギラスが退院出来ると思うの。一緒で悪いけど、お祝い企画…うーん、企画というと大げさか…。とにかく、お祝いしたいな」
 「お祝い…」
 「ああ、騒がしいのは苦手? それとも、オーキド邸でも開催される?」
 「いえ…。別に予定はありません」
 シゲルは歯切れ悪く言った。視線は から外している。
 「おせっかいかとも思ったけれど、私、閉会式の夜には帰るから…。最後にちょっと、一緒に食事だけでも、シゲルくんとヨーギラスと一緒にいたいの」
 そう、あと残り五日。
 シゲルにだって分かっていることだが、改めてカウントされると、最後の日が来るのが嫌だった。嫌で嫌で、たまらない。 は平気みたいだ。
 今生の別れ、という訳でもないのに、シゲルは五日後が恐い。
 念願のポケモンリーグ優勝を果たしていたとしても、夜は来なくていい。
 そこまで分かると、この、目の前のひとは特別なんだと感じた。
 だからこそ、子供のような理由で を困らせてはいけないと思った。
 「嬉しいです。ぜひ、一緒にお食事しましょう」
 「良かった! じゃあ、私、色々プラン考えておくわね。そういうの、好きなの…」
 「お任せしますよ」
 シゲルはホッとした思いで軽くうなずいた。
 「明日はゆっくり休んでね。ポケモンたちの調整もあるだろうけど。あ、明後日の応援席に行く話しは詳しいこと聞いてなかったわね?」
 シゲルにとって、 に近くにいて試合を見てもらうことはとても心強い。一昨日 に頼んだばかりだった。それが今はチクリと胸を刺す。なぜ?
 だめだ、そんなこと。
 「身内応援席は、トレーナーの後ろにベンチがあって、そこに座れるんです。バトルフィールド内側、スタジアムの壁の際。ものすごく近いですよ」
 「うわあ、きっと大迫力ね! 私バトルも好きだから、想像だけでも燃えるわ〜」
  は両手を顔の前で組んだ。心の中で夢見るポーズ、とつぶやきつつ。自分でポケモンバトルをするのが一番だが、シゲルの戦いは見ていてとても気持ち良い。バトルの組立のスマートさが気に入っている。
 シゲルはうっとりしている を見ながら、自分に言い聞かせる。
 ( さんを困らせては、だめだ。サトシと何話したっていいじゃないか。そんなことで文句言える筋合いはない)
 しかし、口をついて出たのはライバルを意識したセリフだった。
 「サトシよりも上手くバトルして見せますよ。ずっとね…。昔から僕の方が上ですし。 さんも、会場の人たちも、みんなを巻き込むくらいの熱いバトルを約束します。そして、勝利も…」
 ライバルのサトシよりも、常に上でありたい。強くありたい。
 そう受け取ることは出来るが、 は直感した。
 「もしかして、さっきの会話、聞こえていたの?」
 「……はい」
 「そう」
  が短くつぶやき、視線を下に落とした。シゲルはあわてて弁解しようとする。
 「サトシとはいつバトルすることになってもおかしくないでしょう? 何度も同じこと言ってしまいますけど、僕はサトシにだけは負けたくない。セキエイ大会ではアイツよりも順位が悪かった。でも、ジョウトへ来る前に家の庭で対決した時は僕が勝ちました。修行の成果です。今までだって、ずっと精進してきました。サトシだけじゃなく、他の人にだって負けません。もう、誰にも負けたくない!」
 語気が強まった言い方になり、シゲルは自分で言っておきながら驚いた。バツが悪くなったので、部屋の隅に視線を逃す。
 「負けたくない、という気持ちは分かる。弱気になるのと負けるのは好きじゃないもの」
  はボストンバックの持ち手を握り直し、顔を上げた。シゲルが見ていないのに微笑を浮かべる。
 「私、約束があるから出かけるわ。ヨーギラスのところへ。そして、シロガネ山にも行くかもしれない。ああ、…でもその前に」
  は言葉を切って、後ろを向いて言った。
 「一目見ていくわ」
 何を、とは言わない。しかし、シゲルには伝わっただろう。
 「 さん」
 「観てきてあげる。ライバルの力。…ちょっとだけね」
 「観なくていいですよ。もちろん、止める権利はありませんけど。今の僕にサトシの情報は無意味です」
 「正直、私が見たいの。あの子面白い子ねぇ。シゲルくんのバトルスタイルも好きだけれど、サトシくんのも個性というのか…性格が如実に現れていて面白い」
  は、二人の戦い方をこう評価していた。シゲルは柔軟、サトシは変化・あるいは躍動。
 もっと長い間観察すれば、たくさんの表情を楽しめるだろう。根本は変わらずとも、人は成長するものだ。自分の希望に沿って、最適化されていく。
  は振り向いてシゲルを見た。
 「あら、どうしたの?」
 シゲルは眉根を寄せて、少し機嫌が悪そうだ。
 「……じゃあ、行くわね。遅くなるようなら、連絡します」
 「僕も行きます!」
 シゲルは思わず叫んだ。一歩前へ出る。 はドアノブに手をかけながら、言った。
 「…あなたの相手は別の人たちでしょう?」
  は機嫌が悪い、と自覚していた。シゲルが応援団といるのが嫌なら、残ればいい。あるいは、シゲルがついて来ると言っているのだから、連れて行けばいい。しかし、それもシャクだった。
 「ガールフレンドたちは大切にしないとね?」
 「え?」
 シゲルの疑問の声を無視して、 はドアを開けた。複数の足音ともに、わさわさと別の音が混じっている。応援用のボンボンの音だ。
 なるべくなら顔を合わせたくなかったが、ぐずぐずしすぎた。 は早足で応援団たちとは反対方向へ歩いた。
 「待って下さい、 さん!」
 控室を飛び出したシゲルに、応援団たちは反応してかけ寄る。
 「シゲル〜!!」
 シゲルは彼女たちを見ない。 も振り向かなかった。
 「 さん!」
 歩くのを止めない に、シゲルは多少のいらだちを覚えた。
 「何か勘違いしていませんか? 何か、怒っていませんか?」
  はようやく止まる気になった。機嫌悪く細まる両目を開け、顔半分をシゲルへ向ける。
 「勘違いはしていないし、怒ってなんかいないわ。何を言っているの」
 「…怒ってますよ」
 「怒る理由がない。怒れないわ」
  はすぐ切り返した。「ガールフレンドたちは大切にしないとね?」というセリフは余分であったと後悔する。
 「勘違いしているのはあなたよ」
 言わなくてよいことだ、と は自分を叱る。けれど、時間は数秒たりとも巻き戻らない。
 シゲルは、 の声音の冷たさもさることながら、もう声をかけても振り向かないだろう彼女の背中にも確かな隔たりを感じた。
 「…どうしたのシゲル?」
 「ケンカ?」
 心配した応援団の女の子たちが声をかけた。
 「…ケンカ…かなあ」
 シゲルは、サトシに対して見せた対抗心が子供っぽかっただろうかと反省する。
 落ちこむ気持ちもあるが、決勝戦に向けて対策を考えなければならない。負けられない、負けたくない、とシゲルは自分を奮い立たせた。










**また間が空きましたが、ケンカというのもちょっと微妙な7話の2をお届けします。
二度目のケンカはいつになるやら……。
 因みに、前回書いたミュウ・ミュウツーのこと、ミュウツーが生まれた経緯はもちろん知っていますよ念のため。

*2007/04/16up
■すすすすすいませんん! ロケット団のくだりでジョウトリーグと書くべきところが、ホウエンリーグになってましたと気づいて2007/09/24にお詫びして訂正させて頂きます(泣)!



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