4:名前を呼ぶことに意味はある You were found





 受は一瞬頭が痺れたように感じた。
 何だって?
 何でも良い? 好きなように呼べ? 何を言っているのだ、この人は!
 「キャサリンでも荘田瑠璃●でもデ●ズニー○ーでも、何でも」
 「??」
 「因みにミラ・ジ○ヴ●ビッチなんて最近のイチ押しよ?」
 「……」
 電波なひとだ…!
 受は本能的に距離を置いた。

 「いや、だからね? 私の事を呼びたければ、勝手に名前付けて呼んで良いと言っているのよ。ドゥ・ユゥ・アンダスタン?」
 「…ふざけているのですか?」
 「いいえ、本気。私の基本」
 黙り込む受を見て、少女は微かに笑んだ。玉を軽く真上に放って、キャッチ。
 「じゃ、これでさよならね。ホント、拾ってくれてありがとう」
 少女が去ろうとするのを、受は引き止めた。
 「何? お礼の一割なら、何も持ってないからナシよ?」
 少女のカプリパンツの裾を離して、受は呟く。真っ直ぐ瞳を見つめて。
 「私の名前は受です。貴女のお名前は、何と仰るのですか?」
 思わず、溜め息をつきそうになる。好きなように呼べと言っているのに。少女にだって判らない訳ではないが、本名を名乗る訳にはいかないのだ。
 この子は、悪人には見えないけれど。
 「他の人には、 と呼ばれているよ」何かを諦めて、告げる。
 「 …さん?」
 「良いよ、名前だけで。君が気になんなきゃ敬語も要らんし」
 「…はい」
 受が微笑んだのを見て、 は再び別れを告げる。もう会う事もないだろうが、素直で、利発な少年と出会えて良かったと心に沁みる気持ちを感じながら。
 「あの、謝罪しなければならない事があるのです」
 「はい?」
 受は、申し訳なさそうに昼間の経緯を話した。

  は特に怒る訳でもなく、そうなの、とだけ言った。受は驚く。
 「 ?」
 「ま・心配したからねえ。怒ったって良いけど。そんな気起きないし。う〜ん、良いてことよ!」
 にっこり笑って言われたので、受はほっとした。
 「良かった」
 「あたしよか、謝るんならこの子に謝って欲しいな」
  は、玉の中心部を押す。
 「あたしよ、デルビール!」
 ポンと音がして、中から赤い光が放たれる。外に出て来た一筋の光が、何とあの獣に変わった!
 「デルデル!」
 受は声もなく、呆然と目の前の光景を見つめている。それしか出来なかった。
 人間業ではないのだし、名乗らない少女。普通ではない獣。 は、…。
 「お帰り、デルビル。御免ねー、あたしが遠〜くまで投げちゃったから、怖い目に遭ったねぇ。でも、大丈夫よ。もう大丈夫」
  は戯れつくデルビルを撫でながら、デルビルと目を合わす。もう一度、大丈夫と囁いて。
  が言うには、モンスターボールと謂うらしいあの丸い物体をボール代わりにして遊んでいたらしい。
 「これは、デルビルのじゃない、只の空きボールなんだけどね。デルビルのお家はこっち。君には摩訶不思議で理解出来ないだろうけど、そんな事もあるさ。気にすんな☆」
 ベルトからもう一つボールを取り出して説明する。
 軽く言われても、受は気になって仕方ない。好奇心の塊のようなこの少年は、恐る恐るデルビルに触った。デルビルは受の方を向き、ギロリと睨む。
 「!」
 受は怯んだが、「すまなかったな」と謝った。デルビルは少し唸ったが、受に尻尾を差し出す。受にはどうしたら良いか判らず、視線で に助けを求めた。
 「ヒトで謂うトコの握手みたいな?」
 受がそっと尻尾を握ると、デルビルは二度尻尾を上下させた。仲直りである。 は安堵の笑みを浮かべる受に、デルビルを預けた。
 「デルビルは何なんだ? 犬? 霊獣?」
 「霊獣? …犬も違うし。まあ・みたいな感じで。えーと、説明が面倒だなあ。うと、まあ、犬…犬型モンスタだな」
 「モンスタ? 怪物?」
 怪物と謂う単語にデルビルが反応して、不満げな声を発する。
 「ああ、御免」
 「デル!」
 すっかり受に懐いたデルビルは、すぐに機嫌を直した。受に擦り寄る。
 「…こいつ、可愛いな!  、デルビルに子供が出来たら、ぜひ私にくれないか?!」
 「えぇ? や、こいつ子供産むんか? てかな、雌型居ねえし。ポケモンの生態良く知らないからなあ、あたし。エー、ゴメン、ムリ」
 「う〜〜ん、普通の雌犬じゃ駄目かな」
 「…さあ?」
 戯れ合う受とデルビルを眺めながら、 は帰るきっかけを失った事に気付く。どうしよ。早く帰らないと、他の子達が心配しているだろう。
 「なあ、 。もっと訊きたい事があるんだ。明日も会えないか?」
 先手を打たれた。まあ、この世界での目的が判明するまでは遊んでいようか。 は気持ちを切り替えた。
 「明日? あんたこの辺の子じゃないでしょ? こんな荒野に。それと、狩り? 狩猟民族にしては良い服着てるわねえ」
 受は返答に困った。身分を教えるのは良くない事かも知れないが、受は を信用している。けれど、王子だと言う事で、 がよそよそしくなるのは嫌だった。
 「あんた、貴族の子でしょう? 貴族でなくてもいいや、金持ちの子供」
  は当てずっぽうで言った訳ではなく、受の身に付けている装飾品はかなりの意匠である。それに剣。凝った造りの柄と鞘。何より近場で見たこの国の子供とは違う風貌に、言葉遣い。以上を総合したまでの事。
 「違った?」
 「いいや、違わないよ。わたしはこの国の第三王子だ」
 ふむ、と は考える。もしかして、私のするべき事は受と居れば見つかるのかしら?
 「あそう、王子様が得体の知れないあたしと明日遊べるの?」
 「一緒に王宮まで来れば良い。もてなすぞ」
 「あっさり言ってくれンじゃない。…そうね、気が向いたら、遊びに行くわ」
 「なんなら、 の家に遊びに行っても良いか? 今から」
 「ヒトん家の迷惑考えなさいよ、アンタ。あたし一人暮らしだけど」
 そろそろ十一時になる。 は腕時計を見ながら、ウチの子達は御飯食べたかしらと不安になった。念波で連絡ぐらいしておくんだったと、後悔。
 受はやっぱり失礼だったなと思う。でも、 ともっと居たかった。気が向いたらでは、約束では、頼りない気がしたから。
 思い切って、受は吐露する。
 「 が来てくれたら、楽しくなると思うんだ。もっと、一緒に遊んでくれ! 勿論デルビルも一緒に…」
 「デルッ!」
 デルビルは尻尾を振って了解する。
 「デルビルはオッケイしてくれたぞ?」
 受は、眉根を寄せている を伺い見た。
 「うん。まあ、今ントコ暇してるし。うん、あたしもオッケーぇ!」
  は、いつものようにノリに任せる事にした。彼女は考えて考えても、最後は抜けている事が多い。最後にはノリと展開に任せて行動を取る。
 それでも良いか、と、喜ぶ受を見ながら思った。











夢始  




2005/05/05up。ミラ・ジョ●ォビ●チの名前が出てくるのは、当時、バイ●ハザ●ドの1を観たからです。新作レンタルで。えらい昔に書いた作品だと思い知らされますよ。瑠●子さんといい(真●夫人の主人公)。
*2006/01/29 英字タイトル追加。
*2015/02/08 今更一部の文字を伏せ字に(苦笑)。