6:君に決めた master and servant 豪勢な歓迎の夕食も終わり、話題の尽きない夜が明け、 と受は友好を深めて行った。 受の案内で城下町の探検も、楽しく過ぎて一日が終わろうとしている。 は受が用意してくれた民族衣裳に身を包み、受は受で一般市民となんら変わりない格好だ。 受が案内出来る場所といったら城下の半分もないが、 とデルビルと探検と称してあちこち行くのはとても楽しかった。明日は笑いだけで顔面が筋肉痛になるのではないかと冗談ながらに思う。日がなこんな風に笑って暮らせたら、どんなに倖せだろう。 「ねえ、 は何時までここに居られる?」 は口をガバリと開けて固まる。受が困っていると、 は口を窄めて難しい顔を作った。…沈黙。 「判んない」 「好きなだけ遊べる?」 「多分」 「一緒に…」 「判んない」 「居たいと思う」 「それは私もカモー」 真剣な面持ちの受を前に、 はぐるぐる目を回す。 「…かも?」 受は不満に思った。顔にも声にも表れる。 の顔を見据え、次の言葉を待った。 「良く判んない」 けろっとした表情で言われては、受はそれ以上続けられない。 「でも君は好きー」 とても軽いノリで は言う。受とデルビルが驚くのも構わずに、 は続けた。 「あんねー、いつ帰っちゃうか判んないけど、暫くはこの国辺りに居るつもりー。他にもこの大陸中回ったりして観光したい。探検ラヴ! 君が云ってた聞太師って人が修業してた島にも行ってみたいな。そしてあたしも修業三昧希望」 にっこー、とでも聞こえてきそうな程の満面の笑み。 「どっかお勧めの観光地とかない?」 「……ない」 不機嫌になった受を見て、 は「イヤン、お子様」と思うが、さすがにこれは口に出さないでおく。受が早足になったので、デルビルはマスタを一瞥して受の後を追った。 何ですかコノヤロー、マスタであるあたしよりも、かわいこちゃん王子を選びますかコノヤロー! と心中文句を言う。これも口には出さない。 相変わらず、あたしは人を怒らせるのが得意みたい、などと全く反省のない だった。 それよりも。 夕闇迫る街中に、 は警戒をし始める。複数の視線を感じた。それは、デルビルも同様だ。受に知らせる為に、彼の前に回り込んで軽く吠える。 「何だ?」 さっと が背後に付き、小声で囁く。 「後付けられている上、囲まれつつある」 「…城に帰るのは不味いな…。逃げ切れるか?」 驚きはしたが、受は冷静に対処をしようと に意見を求める。 「出来る。逃げるだけで良い?」 「…」 受が即答出来ない訳は、昼間に がやらかした城下のゴロツキとの一戦にある。悪いのはどう考えてもゴロツキどもだったが、 の圧倒的強さと口の悪さに同情を覚えた程だ。 「ほ、ほどほどに…」 受はやんわりと制止してみる。 は了解の意で頷いた。 「普通の人ならね?」 「え?」 の言った意味がすぐには判らなかった。受の中で普通の人以外のカテゴリは、神・仙道・妖怪・動物…。 「普通の人間じゃないのが混じっている」 鋭く囁かれた の言葉に、受は困惑した。狙われるような理由が無いからだ。では、狙われているのは… とデルビル? 「 、心当たりは…」 台詞の途中だが、受は口を閉じた。微かに聞こえていた街の騒めきが消えたから。今居る場所は裏路地で、人通りは全くない。だが、家の中には居るであろう人間の気配も消えた。 「珍しい組み合わせなのかな、この世界では?」 が上空に向かって喋る。 「随分と手駒を集めたのねえ…。こんな大仰な結界を張るくらいですもの。誰に喧嘩売っているかは、承知の上なんでしょうね?」 敵を真っ直ぐに睨んで、 は攻撃的な性格を見せる。生来の柄の悪さが出てくるのは、もうすぐそこだと思った。遠慮などしなくても良い相手のようだから、喋る間に幾通りもの攻撃方法を思い浮かべる。 対象は、宙に浮いている男一人。 にも、デルビルにも、人外の力の持ち主だと判る。受には、男の外見で人外だと判り、警戒を強めた。自然と腰を落とし、戦闘態勢に入る。勝てる見込みはないけれど。 の足手纏いにはなりたくなかった。 「 、あいつは、恐らく妖怪仙人だ」 「妖怪仙人?」 僅かに視線を交わし、 はすぐ男に視線を戻した。邪悪な気配は、確かに妖怪と呼ばれるに相応しく思える。 闇・魔属性の者達と、理性を持っているのかも疑わしい獣、操られているのか、人間が数人という組み合わせの集団。 は狙われる条件を満たしている。何せ、こういったトラブルは日常茶飯事と謂って良い。 自分とデルビルは負けやしないが、受はー…。 結界は敵の陣地内。見た目は確かに今まで居た殷の城下町のままだ。派手に暴れて壊しても、現実世界には影響がないタイプと思われる。 あの男が受の云う通り妖怪仙人だとして、果たして の知る高等結界を作り上げることが出来るのだろうか。 ー…妖怪仙人に入れ知恵をしている奴が居る。 わざわざこの世界の住人を立てて攻撃して来る意図は、 だけが狙いではないとも考えられた。 仕掛けられる前に仕掛けて、捕獲してやる! 「デルビル、人間以外には、容赦しなくて良いよ」 「デルッ!」 デルビルは久々の実戦に喜んで尻尾を振る。ギンッと敵をひと睨みし、何時でもマスタの命令に従えるよう神経を研ぎ澄まし始めた。 「デルビル、あの男にかえんほうしゃ!」 の声に応え、デルビルは口から猛火を吐き出す。炎は空飛ぶ男に躱されたが、勢いを衰えさせることなく、そのまま斜め左の屋根に居た悪魔羽根の雄牛への攻撃に使った。見事、不意を突かれた雄牛を丸焦げにする。近くに居た人間の男は悲鳴を上げて後退った。 空飛ぶ男は、見た目人間とも取れなくはないが、鷹のように獰猛な目をしている。その金色の目を光らせて、男は へと向かって来た。 胸元よりモンスターボールを取り出した は、男目掛けてボールを放り投げる。 「フシギバナ、はっぱカッター!」 「バナー!」 低い鳴き声と共に現れた生き物は、身体に生えている葉っぱを何枚も使い、鷹男に攻撃をする。四方八方からの攻撃に、男は避け切れず何枚かの葉で体中を切り裂かれた。 男は悲鳴も上げず、尚も へ向かう。 「次はつるのムチよ! あいつを捕らえて…」 が言い終わる前に、フシギバナは蔓を身体の両側より出して攻撃をした。空を飛ぶ相手に、良く使うパターンであった。フシギバナの二本の蔓は男の両手を捕らえる。 「地面に叩き付けろ!」 「バッナーァア!!」 フシギバナが渾身の力を使って男を空中から地面へ叩き付けた。 |
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