ドリーム小説
6:君に決めた master and servant 3






 荒涼とした風景の一部に、七色に輝く翼を持つホウオウの存在は、とても目立つ。特に、夕闇忍び寄るこの時間帯には。
 ホウオウは西へ飛んだ。受が思い起こす殷の版図でいくと、臨潼関の近くだ。ホウオウの背から降りて、受は溜め息を吐いた。
 鷹男の言葉を思い出す。今は、考えても仕方ないのだが…。
 「ホウオウ、 達は大丈夫だろうか…?」
 ホウオウは大きな顔を受にすり寄せた。ホウ、という一声が、大丈夫だと言っているように聞こえた。
 受は、ホウオウの全身をよくよく眺めてみる。素晴らしく美しい生き物だった。
 火の鳥を連想させるホウオウを見て、改めて が普通の女でないと思う。
 「この大陸には、火の鳥と謂えば朱雀が居るし、鳳凰と呼ばれる…お前と同じだな…吉兆の徴の鳥が居るとされている。伝説の鳳凰と、お前は同じなのか? だとしたら、 は、仙女か女神かー…」
 受の呟きに、ホウオウは、片羽根を振り振り「違う違う」のジェスチャをして見せる。
 「…違うのか?」
 ホウオウが大きく頷く。何度も。
 「えっと、違うのはホウオウの事?  の事?」
 「ホウホウ」
 「…二度言って頷いたのは、両方って事?」
 「ホウ!」
 「 が羨ましい。ホウオウやデルビルの言葉が解るのだから」
 受が怪我をしている翼にそっと触れた時、ホウオウがくちばしを使って自分の羽根を一枚加えて取った。そのまま、受に渡す。
 「貰って良いのか?」
 「ホウ」
 「…ありがとう」
 受は、やっと笑えた。
 ホウオウも嬉しくなって鳴く。
 「あら、仲良しさん?」
  のゆったりとした声が響いた。
 彼女はデオキシスと一緒に、宙に浮いている。ゆっくり降下して、ホウオウを労った。
 ホウオウは、安心してじこさいせいに集中出来る。
 「凄い…」
 眩い光に包まれたホウオウの身体は、焼けた腹や胸の皮膚を瞬く間に再生していく。受は感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。
 「ホウオウはね、高い治癒力を持っているからこれくらいの傷は大丈夫。痕も残らないよ。でも、暫くは養生して貰う。助けてくれてありがとう、ホウオウ」
  はとても優しかった。鷹男と対峙していた時の とは、別人のように。
 「さあ、モンスターボールに戻ろう」
  が取り出したモンスターボールに、ホウオウが戻って行く。
 「さってと。帰ろ?」
 振り向きざま、受に笑いかけた。
 しかし受は何も応えず、沈みゆく太陽を見ている。
  に出来るのは、受の言葉を待つ事のみ。
 幾つも言葉は思い浮かんだが、今は受に話し掛けるより、彼の言葉を待つ事が の誠意だった。
 日は、沈む。
 地に落ちいている影が伸びて。
 空を灰色の雲が覆い。
 その合間で黒い空間に小さな光が点々と顔を見せる。
  が住む現代の都会では、見る事が出来ない光景だ。
 雲の隙間という隙間に、ぎっしりと星々が詰まっている。
 こうして見ていると、天の川に見えてくるから不思議だ。
 上手い事雲の隙間が連なって、星の川と、雲の大地。
 流れ星が流れたら良いのに、と は思う。
 でも、誓いは、願いは、流れ星に祈るよりー…。
 この口で伝えて、実現する為のものだ。
 早く。
 早く。
 お願い、何か言って。
 でないと、抱き締めてしまいそうだから。
 この先、何度我慢をする事になるか判らない。
 何度君のその背中に、手を伸ばす事叶わずに、立ち尽くす事だろう?
 私が一番言いたい事は伝えたのだ。彼を信じる、と。
 既に心は決まっている。
 君に決めている。
 受と共に在る事を。
 君の側に居られる間だけ、精一杯に君を護りたいと。
 早く早く。
 伝えたい。
 口にするより早く、体中から溢れて行きそうだった。
 苦しい。
 受は、もっと、苦しいのだろう。
 とても我慢が出来なくて、 は口を開く。
 彼は、私の言葉を待っているかもしれないと、驕りの気持ちが頭をもたげた。
 受を支えて行くつもりならば、これからもっともっとこの沈黙を味わうとしても。
 ここで耐えねば、持たない気がする。
  は、きつくきつく唇を噛んだ。
 「月が見えないな」
 ぽつり、と受が唐突に口を利く。
 「さっき、ホウオウの背中から、少しだけ城下が見えた。物凄いスピードだったから、良く見えなかったけど。でも、綺麗な国だと思った」
  は受の背中を見詰める。受の言葉を聞き漏らすまいと、必死に耳を傾けた。
 「小さな頃からこの国を守るのは、祖先の霊達と王だと聞かされてきた。当然のように兄の啓が王になり、第二王子の衍が王の一番側で補佐をする。そして、僕は兄二人を輔けながら、自分の性に一番合う武将になりたかった。王を護る軍の頭。戦が好きとなると、頼もしいと言ってくれる叔父達。反対に、そんな奴が王になれば戦争が起きる。国が疲弊する、と言って話を飛躍させる兄上達の一族…。必死なんだ。今まだ発展するこの時期に、気性の荒い戦好きが王になっては困ると。僕が王になる条件が、母親の血筋が良いだけという話なのに、ね。血統も大切だけど」
 受は一度言葉を切る。
 「父上に王になれと言われたら、王位を継ぐと思う。でも、 、僕はもっと別の方法でこの殷を守りたいと思っているんだ」
 「別の方法?」
 「そう」
 受が を見て、微笑んだ。
 「貴男はそうやってこの国を守るというのなら、私が、貴男を護ります」
 絞り出すような必死さが見えないように、 は感情をコントロールしながら告げる。
 「本当に?」
 「貴男の側に居られる間は。何にかえても絶対に」
 あらゆる万難総てから。
 「危険からも、淋しさからも」
 ゆっくり近付いた受の両手が、 の頬を優しく包む。 は身じろぎせずに受け止めた。
 受の視界の端に、遠くを見るように、離れた岩場で空を見ているデオキシスの姿が映る。中々気が利くな、と思った。
 「君に決めた」
  が瞬く。
 「 と一緒なら、叶う気がする。僕の側で、この国を支えて欲しい。僕も君を護るから!」
 「うん!!」
  は涙目になって受に抱き付いた。
 抱き付かれた受は、 の手に当てていた両の掌で、所在なげに空気を掴む。 が余りに力を込めて受を放さないものだから、受は苦笑を浮かべて彼女の背に手を回した。
 接吻は、またの機会に取っておこう。














夢始  



**ああ長ったらしい話ですよ! 書いてる自分で吃驚です。何と一万八千六百字以上!!
 何をしているのだ自分ー? と、タイトルからかけ離れないように(ある意味英題は次回のネタバレこっそり)、必死こいて書いていました。もー流石にこれ以上派手にポケモンちゃん達は出て来ない予定。虎でエレブーがまだ出てないけど(紂王様は王子様時代に虎を格殺したとか言われていますね。いやその為のエレブー出しではないですよ念の為・汗)。
 ちみょっとは甘めになってきて良かった……。フウ…。
**2005/07/07up

※訂正。約一万文字の間違いでした……。一万八千はバイト数だと今日使ってるソフトの表示の仕組みを知りました…。水増し契約みたいなことしてすみません(汗)。(←どういう例えですか)2005/07/11