ドリーム小説

7:僕の為に for me 3





 あくまで「帰る」事を前提にする に、受は怒って口を利かなくなった。
 受にだって、 に家族が居る事を思えば、本当は帰らないでくれと無理を言うものではないのだ。
 そんな事は判っている。しかし、 が居なくなる事など、到底許容出来るものではなかった。
 細く昏く頼りない道筋を、 と共に進めると思っていた矢先、本人から拒絶されるとは、かなりの痛手である。
 「聞太師、わたくしを子受様の護衛と認めて下さいますか?」
  に云われて、聞仲は受を見た。受は、先程までの幸せそうな顔が嘘のように怒りを顕にしている。
 諦めさせるなら、今だろう。目の前の少女の事は忘れて、為すべき事に集中して欲しかった。
 けれど、平生より穏当な受が、これほど怒り、固執をしている。それは、聞仲にとって、少なからず一驚に喫するものであった。
 受は決して、たおやかなる気性ではない。それは寧ろ、長兄の啓の性格だ。
 表向きにも、更に心許せるはずの者たちにも、温厚な人当たりな受だった。勿論、聞仲や祖伊くらいの親密さを築くと、怒るべきところ以外にも、我を通そうと怒るきらいはあったが。
 どのみち、いずれは居なくなる存在ならば…。
 聞仲が へ目を向けると、彼女は僅かに微笑んで言った。
 「わたくしの力のほどは、話だけでは納得もいかない事でしょう。ですが、精一杯、護衛役を務めさせて頂く所存です」
 「子受様がご所望とあれば、護衛を雇うのも良いだろう。しかし、そうだな…。威勢の良さや攻撃力の高さだけでは王室の護衛役は務まらない。子受様、暫くの間、 の様子を見させて頂きます。宜しいですね?」
 受は黙って頷いた。
 「 よ、先ずは早速、明日の朝に仙道と渡り合えるほどの実力を持っているか、試させてもらおう。どうだ、私と一対一で試合をしてみないか?」
 「はい、喜んで」
  はにっこり微笑んだ。心の内では、満足気に高笑いをしていた。別の思惑の為に。飛びっきりの強者と大好きなバトルが出来るという事も、興奮の種だった。
  と聞仲が試合で勝負する事になり、受は複雑な心境だ。聞仲の強さは、小さな頃より、嫌というほど知っている。幾ら が強くても、禁鞭という武器を持った聞仲に敵うとは思えなかった。
  の能力は未知数だ。受は彼女の総ての手を見た訳ではない。他に仙道と渡り合えるような力を持っているのだろうか。それとも、ホウオウ達を使う気なのか。
 何も言わなかったが、受は が心配になって、思わず の横顔を盗み見る。気付かれてしまい、目が合うと、 は微笑んだまま勝ち気そうな黒い瞳をぐるりと回した。余裕だよ、という合図かも知れない。
 それでも心は晴れなかった。
 話が終わり、 はお休みの挨拶をする。受が返事をしないので、肩を竦めた。沈黙が続く。
 聞仲は先に退室をしていて、静寂を破るものは何もなかった。
 「おやすみ」
 もう一度 が言っても、受は黙ったままだ。黙ったまま、大きな瞳で、悲しそうに を責めていた。
 「じゃ、あたし帰るね」
 軽い口調で言い残し、 は扉を開けた。
 青白い月を三秒間見つめて、静かに息を吐く。そのまま振り返らず、家へ帰った。



 肌寒い朝だった。まだ春が始まったばかりとはいえ、身に染み込むような冷たい空気に、 は顔を顰める。寒いのは嫌いだ。
 約束の時間に禁城へ行き、受と、そして聞仲と対面。挨拶もそこそこに、早々と力試しの勝負へと移った。
 黒麒麟に乗って場所を移動し、既に試合は始まっている。審判は受一人。聞仲は自分が良いと思えたら、 に合格を言い渡すつもりだったが、彼女の提案で受は審判を承諾した。
 禁城から北西へ行くと、大規模な演習場がある。 と聞仲が全力で戦うという事は、城一つ位は容易く壊れてしまうだろうとの予測の元、選ばれた場所だった。
  は落ち着いて聞仲の武器を観察する。
 宝貝・禁鞭。それが聞仲の武器であった。
 ただの大きな鞭ではない。破壊力は凄まじく、大振りな形であるのにも関わらず、スピードとて尋常な速さではないのだ。
 とはいえ、避けるのが苦だ、というのは嘘になる。今はまだ只の様子見程度のようなので、 は軽く躱しながら反撃の機会を待った。
 大地を抉り取る重さの攻撃を仕掛けつつも、当の聞仲は涼しげな顔つきだ。怜悧な目付きで、獲物を見ている。避けてばかりの に痺れを切らす事をせず、どんどん間を置かず攻撃をし、反応を見ているようだった。
 (全力で仕掛けて良いのなら、あたしって割りと無敵。広範囲空間爆砕とかしたら、ああ、受の身がやばいよなああああ…)
 のんびり考えながら、聞仲の繰り出す禁鞭の軌道を読む。
 一連の攻勢が終わると、聞仲が鞭を振う為に構えを取った。ヒュッとひとたび音がしたかと思えば、次の音を聴覚で拾うのと同時に、禁鞭が何十本もあると見紛うような情景になる。視界に映る禁鞭を見ていようものなら、あっという間に攻撃を喰らうだろう。映像で捉えた途端、禁鞭が空気を切り裂く音が聞こえ、一気にこの身すらバラバラになってしまうのではないか、と想像。
 それは流石に面白くない。
 目で見てから脳で動きを判断するより、気配で、躰が危険を察知するままに動く事にしていた。
 いつまでも避けているだけでは、やる気がないと思われるだろう。 は反撃に出る事にする。
 聞仲の自在な鞭攻撃の間に入ろうなどとは、無謀の極み。
 そう思われても仕方のない事だ。しかし、 は鞭の軌道の合間を縫って聞仲との距離を詰めた。
 「あの娘、異常なまでの身体能力を持っていますね。気概も中々のものです。聞仲様が本気ではないとはいえ、禁鞭の恐ろしさに怯みもせず、真正面から向かって行くとは」
 黒麒麟の評価に、受は頷く。
 「 は普通の女の子ではないよ。とても、戦い慣れている。何処かで専門的な訓練を受けたのかも知れない」
 観ているだけでも息が詰まりそうだった。聞仲の威圧感が増し、禁鞭は呼応するように破壊力を増す。 に当たらなかった鞭は、地表を軽々と抉り、辺りに土煙や土くれを撒き散らした。離れて見守る受と黒麒麟の近くにまで、土煙が漂う。
 対峙する聞仲は、 を捜しあぐねていた。視界の悪い中、 の殺気も闘気も感じない。接近戦になる事を直感し、僅かに腰を落とす。軽く構えていると、風の流れに気付いた。
 慌てて頭上をガードしたが、 の重い一撃に聞仲はガードを解いてしまい、後ろに数歩よろめく。
 続けざま蹴り攻撃を浴びせられ、不甲斐なくも防戦を強いられた。どうにか攻撃を捌いていたが、スピードが増した のひと蹴りをガードしきれずに、僅かな隙を作ってしまった。
 たったのひと蹴りを繰り出す細足の、何と力強く、素早い事か。聞仲は内心舌を巻く。
 風を裂く音が耳元で聞こえた時、聞仲の首元に、 の靴底が触れていた。
 「接近戦は、これで宜しいでしょうか?」
  は小首を傾げて聞いた。
 「遠距離戦は、まだこれから色々お見せ出来るのですけれど、子受様を巻き込みたくはありません」
 「大事ない。黒麒麟が付いている。黒麒麟の外皮は、霊獣の中で最も硬い」
 「一千万度くらいの焔の中でも平気ですか?」
 「平気だ。勿論、中に護られている者も」
 それを聞いた は、足を下ろす。
 「絶対零度の寒さの中でも?」
 「勿論だ。…出来るのか?」
 驚く聞仲に、答えずに は攻撃に移った。
 頬に僅かな痛みを感じる。次は手の甲、額、気付けば、辺りは土煙に混じって冷気が漂い始めていた。聞仲は大気中の水分の比率を考える。
 「宝貝も持たずに、自然現象に干渉が出来るのか?」
  の事情は、昨晩聞いた。遠い未来の異国からやって来たと。
 俄に信じられるような話ではなかったが、いつかは、人間も力を得る事が出来るのだろうか。
 宝貝という科学の力や、仙術といった奇跡もなしに。
 「わたくしが扱える能力の説明を致しますと、キリがありませんわ」
 感情の籠らない の声が聞こえた。既に、彼女の姿は、再び聞仲の眼前から消えていた。声を頼りに向かって行っても、恐らく、空振りになるだけであろう。
 「悪い視界なら、良くすればいいだけの事だ」
 先程の台詞からすれば、今は距離を置いていると判断し、聞仲は思うさま禁鞭を振うべく手に力を込めた。
 一度振り上げただけで、土煙も冷気も振り払えるはずだった。だが禁鞭は動かない。
 「何?」
 禁鞭は凍りついていた。
 特に地に触れていた部分は、氷の所為で地表と一体になっている。
 「小癪な!」
 聞仲の裂帛の気合いで、氷で地面に縫い止められていた禁鞭を動かし、天高く竜巻を起こす。
 風が収まったあと見えたのは、視界をぐるりと囲む氷の世界だった。
 「フン。こんなもの、禁鞭で薙ぎ払ってくれる」
 聞仲の攻撃より速く、氷の壁が動きを見せた。
 禁鞭が届くより前に、氷の氷柱…槍とでも形容出来そうなものが、聞仲目掛けて伸び始める。何十本かは禁鞭で破壊をしたものの、数本は聞仲に届いていた。空いている左手で叩き割っても、頬やマント、左腿などは傷を負った。
 おまけに、禁鞭で勢い良く破壊した氷の欠片でも軽傷を負う羽目になり、舌打ちをする。
 (まだ来る…)
 聞仲の勘が それを告げ、その通りに次の攻撃が始まった。
 どこからか、微かに聞こえた の声。呪文のように聞こえた。
 訝しむ暇もなく、聞仲の背に悪寒が走る。
 禁鞭を握り直した時には、聞仲は氷の中に居た。
 聞仲は一瞬にして氷の柱に閉じ込められたと判り、動かせる唯一の目を凝らす。上も、何も見えない。相当な厚さと密度の氷だった。
 しかし、壊せない事はない。
 これだけでは、妖怪仙人と渡り合えたとしても、二流の者までだろうと結論付ける。
 今一番の敵には、力及ばないかも知れない…。
 呼吸と闘気を練り上げ、一瞬で全てを四方に放出。
 同時に禁鞭を振るった。
 「聞仲!」
 変形した黒麒麟の外殻の隙間から、受は聞仲を呼んだ。吐く息は白い。
 氷の柱を内側から破壊した聞仲に、受は畏れを抱いた。いつもの恐怖とは、別種のものだ。
 受は、真下に居る を見てみた。隙間からは、彼女がしゃがんだところしか見えない。
 「黒麒麟、もう少し隙間を作ってくれ」
 言い終わらないうちに、目の前に氷の柱が出現した。氷の地面から、直接生えているようだった。
 先が尖っている所為で、聞仲が串刺しになりはしないかと肝を冷やした。
 禁鞭で応戦する聞仲には、氷の柱だけでなく、氷の蔓・蔦のようなものまでが音をたてて絡み始め、自由を奪い取らんと空中をも走り回っている。
  は蜘蛛の巣状のものを幾つも作り出していた。聞仲が禁鞭を振るって破壊しても、次々に柱も蜘蛛の巣も現れる。埒が明かないと思った矢先、聞仲の回りには、氷の残骸がひしめいていた。
 残骸を使った攻撃方法を十二通り思い浮かべる。その他の攻撃を三十通り考えて、聞仲は禁鞭を動かした。
 自分の身を護るように、頭上に向けて鞭で螺旋を描く。
 氷の矢が雨霰と飛んで来たが、今度は傷ひとつ付かなかった。
 「こんなものか、
 聞仲の悠然とした声が響き渡る。
 「茶番は終わりだ。どうやら、本気を出すまでもないらしい」
 氷の地面から立ち上がらない少女を見て、終戦を宣言した。受が後ろに居るので、攻撃出来ないとでも思っているのかと、少し疑問に思う。
 聞仲が禁鞭を振りかぶると、 は涼やかな声音で言った。
 「いいえ、勝つのはわたくしです」
 その声が合図だった。
  が手を触れている氷の地面が発光し、聞仲を取り囲む氷の残骸が人の形を成した。三体の氷人形は、聞仲を包囲する。
 「無駄だ」
 言った聞仲は、自分の十倍はあろうかという巨大な氷人形を壊すべく、禁鞭を構えた。
 遠くから見ていた受と黒麒麟にも、氷人形では聞仲を倒せないだろうと思っていた。それでも、受は が短く呟いた台詞を聞き逃さず、氷人形達に注目する。
 氷人形達は、聞仲に向かって倒れ込んだ。
 攻撃をされている当の聞仲は、膨大な氷の質量による重圧攻撃かと思った。
  の近距離での攻撃力、格闘センスは認めよう。しかし、大味なだけの攻撃は、聞仲の心を動かすには至らなかった。
 多少の失意を感じつつ、禁鞭を振るう。
 何度も繰り返した、慣れた動作だ。
 いつも通りの手応えを想像していた聞仲は、目の前が急に炎に変わった事に大きく瞬いた。
 氷人形達は消え失せている。否、よくよく見ると、氷人形の足らしきものが見えていた。禁鞭は炎を掻き回しただけだった。
 氷が、燃えていた。
 (違う。ただの氷なら、燃えはしない…)
 聞仲はすぐさま冷静さを取り戻す。炎とて、聞仲と禁鞭の敵ではない。
 「土煙と同じだ。吹き飛ば…」
  に炎を返してやろうと思ったが、言葉は最後まで続かなかった。
 炎の色が変わり、急激な温度変化を感じる。赤、青そして、炎は黒ずみ始めた。
 禁鞭を振るう手は止めていなかったので、炎を退け、自分の身を守る事くらいは出来たはずだ。聞仲の目論見は、いとも簡単に崩れ去る。黒い炎の中で、聞仲は久々に危機感に襲われていた。
 「 、もう良い、 の勝ちだ! 今すぐ聞仲への攻撃を止めてくれ!!」
 黒い炎が燃え盛るのを見た受が、 の勝利を告げた。
 「終わっていないよ。まだ、あの人は、火傷ひとつ負っちゃいないわ」
 「当たり前だ。あれしきの攻撃、聞仲様には効きはしない」
 黒麒麟も の言葉を肯定した。
 「でも、まだ温度も威力も上がるのよ」
 パチン、と は指を鳴らした。黒い炎はひと際燃え上がり、辺り一面を燃やし尽しかねない勢いだ。
 地面を覆っていた氷は溶け、熱を含んだ風は人の肌を焼かんばかりだった。氷に守られていなかった部分の地面や、岩などは、炭化している。
 「聞仲…」
 受が呆然と太師の名を呟いた。聞仲の強さを信じている黒麒麟も、流石に心配になる。
 やがて、炎は忽然と姿を消した。
 「聞太師の所へ行ってくるね」
 言い残し、 は走った。
 薄い水のヴェールを周りに作っている為、 は未だに熱の残る大地を進む事が出来る。足元は氷で道を作り、火傷を防いだ。
 聞仲を見つけた は、落ち着いて治療に取り掛かる。
 「聞太師、わたくしの声が聞こえますか?」
 うっすら開かれた瞼から、美しいコバルトブルーの瞳が覗く。
 「まだ、やれるぞ」
 聞仲の声はしっかりしていた。
 「これ以上は、無意味です」
 「そうだな…」
 「傷や火傷は治しましたが、半日程度の安静が必要です」
 「…これはどういう力なのだ?」
 「それは秘密です。…今のところは」
 僅かに微笑んで、彼女は上を向いた。黒麒麟がこちらへやってくるところだった。
 「聞太師、お願いがございます」
 聞仲は起き上がって、 を見た。彼女は、居住まいを正して視線を聞仲に戻す。
 「わたくしは、この世界に居られる間は、子受様のお側で子受様をお護りしたいと思います。ですが、殷の邑について、宮廷での暮らしについて、殿下のお側近く侍る者として知るべき事が多くあります。恐縮ですが、様々な知識を、技能をご教授していただけないでしょうか?」
 熱心に語る に、聞仲は頬を緩める。
 「そのつもりだ」
 「ありがとうございます!」
  は、喜びが内から溢れでんばかりの笑顔を浮かべた。微かに睫毛を伏せて、続ける。
 「嬉しいです。これからは、師と仰ぎ、父に接するように、敬愛の念を持って学ばせて頂きます」
 「そうか。…いや、大袈裟だな」
 少し打ち解けた様子の聞仲を見て、 は益々笑みを深くする。
 丁度受を連れた黒麒麟がやって来た。会話を聞いていた黒麒麟は言う。
 「師仲父、ですね」
 「え?」
  は意味が判らず、黒麒麟と聞仲を見比べる。聞仲は「更に大袈裟だ」と呟いた。
 「貴女が云った事ですよ、 。聞仲様を師と仰ぎ、父と思うのでしょう?」
 「ええ、二言はありません」
 そういう事か、と得心する だった。
 (シは師匠の意味、また恐らく聞太師の殷においての役職の意味を含んでいる? チュウは名前、フは父親の事ね。って、繋げたまんまじゃん。師父でいーじゃん)
 しかし、丁度良い。
 内心ほくそ笑んでいると、黒麒麟の中から受が出て来た。
 「うわ、あつ?!」
 まだ大気は熱い。真夏日を思わせる。受は黒麒麟の中から身を乗り出し、聞仲の安否を伺った。傷など全くない。
 「良かった。無事か」
 「ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした。傷は が治してくれました」
 「そうか。無事なら良い」
 そして を見た。彼女が微笑み返す。受は、これで心配事が一つ減ったと内心喜んだ。再度、 の勝利を告げ、祝う。
 禁城に帰り、その日は何事もなく過ぎた。



 白い月が浮かぶ夜。
 広々とした寝室で独り、受は、夜の静寂に耳をそばだてていた。
 浮かれている所為で、目が冴えて眠れないのだ。余り疲れていない所為もあるだろう。聞こえるのは、自分の呼吸音と、心音。 の声が聞きたかった。あの声はとても心地良い。明日もまた、会える。会いたい。
  と聞仲の間柄は思った以上に上手くいった。
 彼女を側に置く事をとやかく言う輩は減るだろう。聞仲が異を唱えていると、逆らい難く思っている者は右に倣えで反対をしかねない。
 もっともっと と一緒に居たかった。例え、彼女が知らない所へ行ってしまうのだとしても。
 「それにしても、師と父…か。確かに、そうだな。僕ら兄弟にとっても、聞仲は師であり、父親のようにも思える。父上も…叔父達にも、きっと親のような存在なんだ」
 父親である乙と、聞仲の姿を重ね合わせて、気付いた。寝台の上で思わず跳ね起きる。
 「……ちちおや…。って、待て。もしも本当の親子のようになってしまったら、 を嫁にくれと、聞仲に言わなくてはならなくなるのか…?」
 聞仲は決して何事にも甘やかしはしない性格で、受達王子が幼少の砌から厳しく接していた。受の伯母など、王女足る身分を持つ者にも同様だった。
 されど、聞仲が本当に娘と思うのなら…?
 聞仲が親馬鹿になる。想像出来ないし、したくもない。
 だが…。
 「義娘は嫁にはやりません」
 と、キッパリと言い放つようになるかも知れない。
 そうだとしたら、何より、厄介な敵になる。脅威だ。最高の障害ではないか。
 「何でそうなるんだ…」
 受は泣きそうな思いで、暗鬱に独りごちた。










夢始  



**7−4へ続きます。血痕問題解決。
 とまではいきませんが、受はきっと怯みます(笑)。次は多分そんな感じのお話?

 普賢ちゃんがやらかした核融合(高温核融合は一億度以上の温度が必要)で、傷ひとつ負わなかった聞太師って凄いや。ヒロインが喚んだ黒い炎はそれ以上の温度なんですかね?(←訊くな)
 低温で出来るミューオン触媒核融合反応だったのか、結局は出来る証明が得られなかった常温核融合反応が普賢ちゃんなら出来たのか判らないですけど。一億度って、想像出来ないけどスゲくね? とか思います。…って、俄知識なので何処か間違ってたらごめんなさい……。
*2006/04/26up